患者相談事例-80「妻の陣痛が始まるも、病院スタッフの指示に従い自宅待機していたら出産が始まってしまい…」
[患者さんの相談事例] 2012/12/21[金]
現代の医療現場では、自分なりの判断や意思決定が求められます。患者側にだって、治療パートナー(医療者)と上手に対話して、疑問解消・意思伝達できるコミュニケーションスキルがあった方が良いですね。
ここで紹介する「相談事例」は、患者側視点に基づくもので、実際にはもっと他の背景があったかもしれませんが、「私ならどうするか」を考えてみませんか?
妻の陣痛が始まるも、病院スタッフの指示に従って自宅待機していたら出産が始まってしまい…。(32歳・男性)
30歳の妻が初めての子どもを妊娠し、先日出産しました。予定日を3日後に控えた日に定期健診があったのですが、妻は院長から「子宮口が開いてきていますね。まだ入院する必要はないけれど、早ければ今日中に陣痛が始まって入院になる可能性も十分あります」と言われたそうで、私たちも出産の日が近いと緊張していました。
その日の夜遅く、妻がお腹の痛みを訴え始め、陣痛が始まったとわかりました。二人で産科病院から渡されていたパンフレットを見直し、陣痛の間隔が10分になるまで自宅待機することにしました。そして、陣痛が10分間隔を切り始めた午前4時ごろ、病院に電話し状況を伝えました。ところが、電話に出た看護師が「初産ですから、10分間隔を切ってからが長いんですよ。慌てる必要はないので、もう少し自宅で様子をみてください」と言います。仕方がないので、それから2時間ほど待ちました。
ところが、午前6時になると、妻が「もう我慢できない」と言い出したので、再度病院に電話をかけました。ところが、そのときも「まだまだ。朝ご飯でもゆっくり食べてから来てください」と言われました。しかし、それから10分も経たずに破水してしまったのです。慌てて病院に電話をかけて破水したことを伝え「救急車を呼んだほうがいいですか?」と尋ねると、「救急車より、自家用車のほうが早いかもしれません」と言われたので、自宅のあるマンションの駐車場に妻を抱えるように連れて行ったところ、途中で赤ちゃんの頭が出てきてしまいました。妻がパニック状態になったので、私は赤ちゃんの頭を手で受けながら、携帯で救急車を呼びました。
救急車が到着し、救急隊の人が赤ちゃんを取りあげて、へその緒を切ってくれ、産科病院に搬送されました。ところが、病院に到着した途端、院長から「こんな状態になるまで病院に来ないなんて、何を考えているんですか!」といきなり怒鳴られたのです。思わず、「こちらは何度も電話をしたのに、まだ来るなと言ったのはそちらのスタッフですよ!」と怒鳴り返してしまいました。しかし、その後に入院することを考えると、それ以上事を荒立てるわけにもいかず、引きさがりました。
しかし、少し落ち着いてよく考えてみると、健診で子宮口が開いていると判断した段階で、院長から状態をスタッフに伝えてくれていれば、電話のときの対応も変わったのではないかと思います。それに、母子ともに無事だったから良かったようなものの、もしもの場合を考えると背筋が寒くなります。大ごとにするつもりはありませんが、このまま引き下がるのも納得いきません。

たしかに、渡されたパンフレットのマニュアルに沿ってきちんと対応し、その都度病院に連絡して指示に従ったわけですから、ご納得いかない気持ちはもっともだと思います。それに、マンションの駐車場で赤ちゃんが出てきてしまったときの奥さんのお気持ちを考えると、どれだけ不安だったことかわかりません。気丈に対応する夫の存在だけが頼りだったことでしょう。ご夫婦のそのときの気持ちを考えると、居たたまれません。おそらく、院長は電話でのやりとりを知らず、救急搬送を迎えたのでしょう。そのときはお互いに驚きや切迫感から感情的になってしまったのは仕方がないと思います。そこで、救急搬送に至る経過やご納得いかない点、産科病院にどうあってもらいたいかを整理し、冷静に院長に話されてはいかがでしょうか。感情的に苦情を言うと院長も構えてしまうかもしれませんが、冷静に伝えれば院長も反省し、想いを受け止めて今後の改善へと活かしてくれる可能性は高いと思います。

陣痛が10分間隔を切ってから何度も電話連絡があり、それに対してスタッフがどう対応したかを知らなければ、救急車の到着時に院長が言った言葉も理解できます。しかし、そのときの夫の反応を見れば、「何かあったはず」と受け止めて、落ち着いてからでも夫婦から事情を聞くことができたのではないでしょうか。医療機関から歩み寄り、状況を共有化したうえで、対応に不備があった場合は謝罪すれば、問題がこじれることも少ないと思います。苦情があって初めて対応するより、数倍も医療機関の誠意が伝わるように思います。
この実例紹介とアドバイスのご提供は・・・

NPO法人
ささえあい医療人権センターCOML
理事長 山口育子
- この記事を読んだ人は他にこんな記事も読んでいます。
掲載されている記事や写真などの無断転載を禁じます。