[患者さんの相談事例] 2013/04/12[金]

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 現代の医療現場では、自分なりの判断や意思決定が求められます。患者側にだって、治療パートナー(医療者)と上手に対話して、疑問解消・意思伝達できるコミュニケーションスキルがあった方が良いですね。
 ここで紹介する「相談事例」は、患者側視点に基づくもので、実際にはもっと他の背景があったかもしれませんが、「私ならどうするか」を考えてみませんか?

患者さんから実際にあった電話相談

母が大腸がんの手術をしました。その後、やむを得ない事情があり、入院期間を延ばして欲しいと病院に頼んだのですが…。(45歳・女性)

 一人暮らしをしている73歳の母は以前からからだが弱く、同年代の人より体力がありませんでした。そんな母が便秘と下痢を繰り返すようになり、心配して2ヵ月前に検査を受けたところ、大腸がんが見つかりました。幸い、手術を受ければいのちに別条はないとのことで、大きな病院で手術を受けました。
 手術前から食欲が低下し、体力が落ちていたことに加え、術後ベッドで横になりがちだったからか、母は瞬く間に足の筋力が衰えてしまいました。術後約2週間で退院可能と言われたのですが、自分で身の回りのことができるまでには回復していませんでした。それに、ちょうど母が暮らしているアパートの一部改修工事と重なり、帰宅しても落ち着いて療養することができません。
 そこで、病院に「もう少し入院させてほしい」と頼んだのですが、看護師長から「あなたのお母さんのせいで、入院を待っているほかの患者さんがどれだけ迷惑していることか。これでも通常より長く入院を認めているんですよ。自宅に戻れないなら、なぜ娘であるあなたの自宅に引き取らないのですか」と強い語調でなじられました。私の自宅には夫の両親がおり、義父は寝たきりです。母がゆっくりするスペースも確保できないので、引き取ることが不可能なのです。まして、私は一人娘で、父は早くに亡くなっています。頼る親戚もいないのです。病院の冷たい対応に、どうすればいいのか困っています。何かいい解決方法はないのでしょうか。

より良いコミュニケーションを目指そう!患者さんこうしてみては・・・?
 自宅で一人暮らしを再開するほどに回復していないお母さんに退院を迫られ、ご自身もさまざまな事情を抱え込まれているご様子、お察し申しあげます。
 最近は、医療機関の役割分担が進み、大腸がんの手術をするような専門的な大きな病院は“急性期病院”といって、入院患者さんの平均入院日数は2週間前後になっています。なかには10日を切っている病院もあるぐらいです。つまり、短期間に専門的・集中的な入院治療をする病院と位置づけられているのです。急性期病院では、入院期間の短縮化をはかることに躍起になっていて、「追い出された」と訴えるご相談が後を絶ちません。
 通常であれば退院可能な状態ということですが、自宅でゆっくりできないという環境面だけでなく、足腰が弱ってしまったという体力面の問題もおありのようです。病院内に「地域医療連携室」という医療ソーシャルワーカーがいる相談室が設けられていると思いますので、事情を話し、自宅で生活できるまでの回復期間を受け入れてくれる医療機関を一緒に探してもらわれてはいかがでしょうか。
より良いコミュニケーションを目指そう!医療機関さんこうしてみては・・・?
 医療機関の機能分化が急速に進むなか、早期転院・退院に向けて、医療機関の事情ばかりが強調されるようになってきました。そのため、理由がわからないままに、「最近は長く入院できない」「追い出される」という印象を患者側は抱きがちです。そこには、なぜ長く入院できないかの丁寧な説明が不足しているように思います。
 患者側を説得したり、なじったりする前に、まずは患者側の置かれている事情に耳を傾け、今後のあり方について一緒に考えるという姿勢が必要ではないでしょうか。その際、看護師や医療ソーシャルワーカーなどがチームとして役割分担しながらかかわることを丁寧に伝えていくことも大切だと思います。
※写真はイメージです

この実例紹介とアドバイスのご提供は・・・


NPO法人
ささえあい医療人権センターCOML

理事長 山口育子

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