[患者さんの相談事例] 2013/04/26[金]

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 現代の医療現場では、自分なりの判断や意思決定が求められます。患者側にだって、治療パートナー(医療者)と上手に対話して、疑問解消・意思伝達できるコミュニケーションスキルがあった方が良いですね。
 ここで紹介する「相談事例」は、患者側視点に基づくもので、実際にはもっと他の背景があったかもしれませんが、「私ならどうするか」を考えてみませんか?

患者さんから実際にあった電話相談

最初に受診した医院で骨折を見逃され、全身麻酔によるの手術が必要に。見逃しをした医院に手術費だけでも請求できないでしょうか。(70歳・女性)

 今年の正月、里帰りしてきた娘や孫たちと近くの神社に初詣に出かけたときに怪我をしました。3歳の孫が石段で転びそうになったのを咄嗟に支えようとし、私のほうが転倒してしまったのです。その際、右手を石段で強打し、帰宅後に冷やしたのですが、腫れあがってしまい、なかなか痛みが治まりませんでした。もしかしたら骨折でもしているのではないかと思い、休み明けの2日後、近くの整形外科クリニックを受診しました。
 受診したころには腫れは幾分治まっていましたが、ひどい痛みは変わらずありました。ドクターは診察のあと、7~8枚撮ったX線写真を見て、「骨折はしていません。とくに問題は見当たりませんから、腫れが引くまでの1週間分、湿布と鎮痛剤を出しておきましょう。そのうち痛みも引くでしょうから、継続して受診する必要はありませんよ」と言います。私が「単なる打撲の痛みとは違うような気がするんですけど」と言っても、「まだ転倒して2~3日しか経っていないのですから、そりゃあ痛いでしょう」と真剣に取り合ってくれませんでした。
 ところが、1週間経っても痛みは治まる気配がありません。私は心配になって、別の整形外科を受診しました。そこで改めてX線を撮ってもらったのですが、右親指の腱の断裂と右手首の骨折が見つかったのです。ドクターからは「かなり時間が経ってしまったので、大きな病院でないと手術は無理でしょう」と言われ、手術可能な病院を紹介してもらいました。紹介先の病院で、整形外科と形成外科の共同で、全身麻酔による手術を受けました。
 お陰さまで手術は成功したものの、最初のクリニックで見落としがあったのではないかと納得がいきません。せめて、全身麻酔で受けた治療費だけでも請求できないかと思って、市の法律相談で弁護士に相談してみました。担当になった弁護士はとても親身に話を聞いてくれ、丁寧に対応してくれましたが、結論としては、「損害賠償事件として問題にすることはできると思うが、証拠保全をしたり、第三者の専門家の意見を聞いたりする必要経費を考えると、得られる費用のほうが少なくなる可能性が高い。私としては、あまりお勧めできません」とのことでした。理由としては、手術がうまくいって、日常生活に支障をきたすような障害が残っていないからだそうです。結果が良かったから問題にできないということが、どうしても納得できないのですが…。

より良いコミュニケーションを目指そう!患者さんこうしてみては・・・?
 最初の受診の段階で診断がついていればもう少し小さな手術で済んだ、と聞かされれば、納得いかない気持ちになるのも当然でしょう。
 ただ、最初の整形外科クリニックのドクターが腱の断裂と手首の骨折を見落としたのかどうかは、X線フィルムを第三者のドクターに見てもらい意見を聞く必要があります。それだけに、相談した弁護士は諸々の諸経費を考えると「費用がかかる」と判断したのでしょう。
 そこで、実際に腱の断裂や手首の骨折があったことをまだ最初の整形外科医に伝えていないのだとしたら、今からでも事実関係を整形外科医に伝えてみられてはいかがでしょうか。整形外科医が非を認めるかどうかはわかりませんが、かかった費用について直接交渉すること自体は可能だと思います。ただ、感情的になるとトラブルに発展しがちなので、できるだけ冷静に話し合われることをお勧めします。

より良いコミュニケーションを目指そう!医療機関さんこうしてみては・・・?
 最初の診察の段階で異常なしと診断すると、患者が異常を訴えても「気のせいだ」「訴えの多い患者だ」と思い込みが生じやすいと思います。しかし、たとえ問題はないと思っても、せめて「数日経っても痛みが変わらないようなら、再度受診してください」という一言があれば、この方のお気持ちもずいぶん違ったのではないでしょうか。
 また、ほかの医療機関で腱の断裂や骨折が見つかったと患者が申し出てきた場合、できるだけ冷静に受け止め、そして誠実かつ真摯に対応していただきたいと思います。その対応如何によって、患者のそれ以降の気持ちも「気持ちをおさめよう」になるのか、「納得いかない」と不信感に発展するのか、二分されるように思います。
※写真はイメージです

この実例紹介とアドバイスのご提供は・・・


NPO法人
ささえあい医療人権センターCOML

理事長 山口育子

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