患者相談事例-89「ある1人のスタッフの対応に我慢できず、院長に相談したところ転院を勧められたのですが…」
[患者さんの相談事例] 2013/05/17[金]
現代の医療現場では、自分なりの判断や意思決定が求められます。患者側にだって、治療パートナー(医療者)と上手に対話して、疑問解消・意思伝達できるコミュニケーションスキルがあった方が良いですね。
ここで紹介する「相談事例」は、患者側視点に基づくもので、実際にはもっと他の背景があったかもしれませんが、「私ならどうするか」を考えてみませんか?
ある1人のスタッフの対応に我慢できず、院長に相談したところ転院を勧められたのですが…。(38歳・男性)
私は5年前に膠原病の一種である全身性エリテマトーデスと診断されました。ところが、その直後から急に腎機能が悪化し、2年前から透析治療が必要になってしまいました。
膠原病は専門医がいる大学病院に通っているのですが、透析は週3回の通院が必要なので、近くの透析専門のクリニックに通っています。週の半分近く通うクリニックなので、できるだけ病院スタッフといい関係を保とうと思い、私なりに努力してきました。どのスタッフとすれ違っても挨拶を欠かさず、何かしてもらうと「ありがとう」と感謝の気持ちを伝えました。
ところが、何人かいる看護師のうち、1人の看護師だけ私に対して冷たいのです。ほかの患者にも冷たい対応なら、まだ「そういうタイプの人なんだろう」と思えますが、ほかの患者には優しく、丁寧です。私には何をするにも義務的な感じで、避けているように感じることすらあります。
そこで、あるとき「私にもほかの患者さんと同じように接してもらえませんか?」と直接お願いしてみました。すると、「私にほかの患者さんと話をするなと言うのですか!?」と喧嘩腰に言われてしまい、それ以来ずっと無視されています。
先日、その看護師の態度が耐えられなくなり、クリニックの院長にこれまでのいきさつを伝え、「もうこのクリニックで透析を受けたくない」と伝えました。すると、院長は「あなたが我慢することはありませんよ。すぐにでも別の医療機関への紹介状を書きますから、転院を考えられてはいかがですか」と言ってくれました。しかし、そのまま転院したら、問題の看護師の思うつぼのような気がして、迷っているのですが…。

患者と看護師といっても、人間対人間ですから相性が合わない人もいるでしょう。あなたが一生懸命コミュニケーションをとる努力をしているのに、喧嘩腰で向き合おうとしてくれなかったのは、ほんとうに残念なことだと思います。たしかに、嫌だと思ったり、合わないと感じたりする人が1人でもいると気になりますし、その1人の持つ力を大きく感じます。ただ、その看護師以外のスタッフとの関係性に問題がないのだとしたら、たった1人のために即転院というのも、これまでの努力を考えるともったいないように思いました。
そこで、院長に「転院を考える前に、その看護師とのコミュニケーションを改善する方法を一緒に考えてもらえませんか?」とアプローチしてみることも一つの方法ではないかと思います。もしかしたら、第三者が入ることによって、両者の間に生じている誤解や思い込みが見つかるかもしれません。まずは修復の努力をして、それでも無理だと思えば転院を考えてはいかがでしょうか。

患者から、スタッフとの折り合いが悪くて相談を受けたのに、内部で問題解決の努力もせず「紹介状を書くから転院を考えては」との提案は、いささか無責任ではないでしょうか。なぜ患者がそんな気持ちになったのか、件の看護師はなぜその患者に心を開けなくなっているのか、きっかけとなる問題が何かあったのかどうか――。それらを確認することがまずは大切だと思います。そして、見直すべきは見直し、関係性の修復の努力をしたうえで、それでもなお、患者が転院を申し出るのならば、気持ちよく紹介状を書く。そのような丁寧な対応をぜひお願いしたいと思います。
この実例紹介とアドバイスのご提供は・・・

NPO法人
ささえあい医療人権センターCOML
理事長 山口育子
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