[患者さんの相談事例] 2013/06/14[金]

いいね!つぶやく はてなブックマーク

 現代の医療現場では、自分なりの判断や意思決定が求められます。患者側にだって、治療パートナー(医療者)と上手に対話して、疑問解消・意思伝達できるコミュニケーションスキルがあった方が良いですね。
 ここで紹介する「相談事例」は、患者側視点に基づくもので、実際にはもっと他の背景があったかもしれませんが、「私ならどうするか」を考えてみませんか?

患者さんから実際にあった電話相談

歯科クリニックで保険外診療で契約し、前金まで払ったものの、治療費が高額でキャンセルを考えてます。(53歳・女性)

 私は子どものころから虫歯が多く、体質的に歯が弱いと言われていました。20代になり、さらに歯の状態が悪化し、顎関節症も併発してしまいました。それ以来、10数年にわたってさまざまな歯科医院を転々としてきたのですが、どこへ行っても「この状態の歯を診る自信はありません」と言われてしまい、向き合ってくれる歯科医との出会いがないままに40代を迎えました。
 1ヵ月ほど前、インターネットで調べていたところ、新しくできた歯科クリニックを見つけました。インプラントや顎関節症の治療も手がけると書いてありました。また、一人の歯科医ではなく、複数で相談しながら歯科治療をすると紹介されていました。これまでに経験したことがない体制だったので、できればインプラント治療を受けたいと思い、受診してみることにしました。
 歯科医院に行くと、「まずはカウンセリングを受けていただいて、治療方針を決めます」と言われました。そして、これまでの治療の経緯や希望について詳しく聞かれました。その結果、まず顎関節症を矯正する治療から始め、それが一段落したらインプラント治療をすることになりました。そして、契約書を渡され、「今日のカウンセリング代と今後の治療計画書を作成する料金合わせて74万円です」と言われたのです。カウンセリングと治療計画だけで、なぜそんなに高いのかと問うと、「ホームページをご覧になったとおっしゃっていましたが、複数の歯科医が相談して治療方法を考えると紹介されていたでしょう? 複数の歯科医がそれぞれ治療計画書を提出し、それをたたき台に話し合うのですが、1人の歯科医が作成する治療計画書につき8万円です。そのうえで専門的な会議をおこなうわけですから…」と言われてしまいました。そして、74万円は前払いで請求されたので、クレジットカードで支払いました。
 いま手元に契約書の写しがありますが、「治療計画の作成中にキャンセルしても、料金の払い戻しはできません」という趣旨のことが書いてあります。さらに追加で渡された料金表を見ると、粗く見積もっただけでも、顎関節症の矯正とインプラント治療を受けると合計700万円ぐらい必要になります。とても支払える額ではありませんし、これだけ支払ったからといって、必ずこれまでの歯の悩みが解消するという保証もないわけです。もうこの段階でキャンセルしようと思うのですが、やはり最初に支払った74万円は返金してもらえないのでしょうか。

より良いコミュニケーションを目指そう!患者さんこうしてみては・・・?
 カウンセリングと治療計画の契約書の段階で、「契約する前に考えさせてください」と言えればよかったのだと思いますが、冷静に考えることができない状況になってしまわれたのでしょうか。それとも、流れるように契約が進み、「ノー」と言える雰囲気ではなかったのでしょうか。
 いずれにしても、カウンセリングを受けたことと治療計画を作成することを了解し、それを前払いで支払うこと、途中でキャンセルしても前払い料金の払い戻しはできないことを明記されている契約書にサインしたとなると、返金はかなり難しいのではないかと思います。強制的にサインさせられたとか、キャンセルできない記載部分を故意に隠していたなど、何か歯科医院側に問題があれば、別ですが…。
 矯正治療やインプラントは保険外の自費診療が多いため、医療機関が金額を独自に定められます。「高額だな」と思っても、違法ではないわけです。それだけに、事前の契約には細心の注意が必要です。

より良いコミュニケーションを目指そう!医療機関さんこうしてみては・・・?
 歯科医療では、とくに保険外の自費診療について医療費に関する相談が少なからず届きます。契約書をきちんと用意し、注意事項も明記されていることは大切なことだと思います。ただ、医療者からの一方的な説明の流れに沿って、強制的ではなくとも、「サインするしかなかった」という印象を抱いた人にとっては、キャンセル時のお金を巡ってトラブルになりがちです。高額になればなるほど、「いったん考えて、冷静な判断のもとで契約するかどうかを決めてください」という姿勢が大切ではないでしょうか。
※写真はイメージです

この実例紹介とアドバイスのご提供は・・・


NPO法人
ささえあい医療人権センターCOML

理事長 山口育子

この記事を読んだ人は他にこんな記事も読んでいます。
記事の見出し、記事内容、およびリンク先の記事内容は株式会社QLifeの法人としての意見・見解を示すものではありません。
掲載されている記事や写真などの無断転載を禁じます。