[患者さんの相談事例] 2013/07/12[金]

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 現代の医療現場では、自分なりの判断や意思決定が求められます。患者側にだって、治療パートナー(医療者)と上手に対話して、疑問解消・意思伝達できるコミュニケーションスキルがあった方が良いですね。
 ここで紹介する「相談事例」は、患者側視点に基づくもので、実際にはもっと他の背景があったかもしれませんが、「私ならどうするか」を考えてみませんか?

患者さんから実際にあった電話相談

歯科矯正治療の3年後、娘がひどい歯周病に。矯正が原因でないかと思っているのですが、治療費を返してもらうことは可能でしょうか?(52歳・女性)

 娘は、11歳から歯の矯正治療を受けていました。当初「15歳までには治療は終了します」と言われていたのですが、19歳までかかり、費用も100万円以上を費やしました。矯正が終了した後も、定期的に装具を着用するように言われていたのですが、見た目を気にする年代だった娘はまじめに装着していませんでした。すると、徐々に矯正できていた歯列が元に戻り始めてしまいました。
 かなり歯並びが悪くなったことを気にし始めた娘は、矯正治療を受けていたクリニックを3年ぶりに訪ねました。診察した歯科医は、娘の診察をした後、慌てた様子で「歯列が元に戻ってきていることも問題ですが、歯周病になっていて、それがかなりひどい状態です。ここでは治療できない段階なので、大学病院を紹介します。私も同行して事情を説明しますので、ぜひ受診なさってください」と言われました。歯科医がそこまで言うのは、かなり深刻な状態なのだろうと思い、私は娘を大学病院で診てもらうことに同意しました。
 それ以来、娘は週に1度大学病院に通院しているのですが、一向に症状が改善する気配がありません。そこで、先日私も同行したのですが、「かなりひどい歯周病になっているので、治るかどうかはわかりません。ともかく、ずっと定期的に通院していただく必要はあります」と担当医に言われました。私が「それは矯正治療がまずかったことが原因ですか?」と聞くと、「そうかもしれませんし、そうでないかもしれません。原因はそう簡単に限定できないのです」と言われました。しかし、矯正治療を受けていた歯科医の慌てぶりを考えると、やはり何かやましいことがあったからではないかと疑っています。もし矯正治療が原因でいまのような状態になったのだとしたら、せめて矯正治療で支払った治療費の半額は返金してもらいたいと思っていますが、請求することは問題ないでしょうか。

より良いコミュニケーションを目指そう!患者さんこうしてみては・・・?
 矯正治療が終了してから3年後に受診した際、娘さんの口の中を診察して、なぜ歯科医が慌てたのかはわかりません。ただ、かなりひどい歯周病になっていたため、高度な専門治療を受ける必要があると考え、大学病院を紹介したのでしょう。同行したのも、誠意を示そうと思ったのか、経緯を専門的に伝えようと思ったのか真意のほどはわかりませんが、一生懸命対応されたのだと思います。
 ところで、矯正治療の費用を半額返金してほしいと求めるとすれば、矯正治療をした歯科医が非を認め、返金に応じる必要があります。そのためには、矯正治療と現在治療を受けている歯周病との因果関係も明確に指摘する必要が出てくる場合もありますので、必ず交渉が成立するとは限りません。まずは一度、同行してもらってからの経過を矯正治療を受けていた歯科医に伝え、歯科医がどのように考えているのか聞いてみてはどうでしょうか。そのうえで、返金を希望していることを伝え、交渉することになります。できれば、歯科医の考えにも聞く耳を持ち、冷静に話し合われることをお勧めします。

より良いコミュニケーションを目指そう!医療機関さんこうしてみては・・・?
 久しぶりに診察に訪れた患者さんの口腔内を見て、ひどい歯周病の状態になっていることに驚かれたのでしょうか。大学病院を紹介するだけでなく、受診に同行するという誠実な対応をされているのですが、歯周病の状態やその原因について考えをもう少し詳しく伝えていれば母親の不信感も強くはなかったかもしれません。もし、矯正治療に問題があったとしても、歯科医から自発的に説明があるのとないのとでは、その後の患者側の心証に大きく影響を及ぼすことと思います。できる限り、その段階でわかっていること、考えられる原因などについても、誠実な対応が必要ではないかと思います。
※写真はイメージです

この実例紹介とアドバイスのご提供は・・・


NPO法人
ささえあい医療人権センターCOML

理事長 山口育子

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