[患者さんの相談事例] 2015/07/03[金]

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 現代の医療現場では、自分なりの判断や意思決定が求められます。患者側にだって、治療パートナー(医療者)と上手に対話して、疑問解消・意思伝達できるコミュニケーションスキルがあった方が良いですね。
 ここで紹介する「相談事例」は、患者側視点に基づくもので、実際にはもっと他の背景があったかもしれませんが、「私ならどうするか」を考えてみませんか?

患者さんから実際にあった電話相談

母がすい臓がんで亡くなりました。末期になるまでがんに気づかず、効果の出ない薬を処方し続けたかかりつけ医に不信感が募っています。(55歳・女性)

 79歳の母は、60歳代半ばからコレステロール値が高いと指摘され、近くの開業医をかかりつけ医にして通院していました。
 2年前に食欲がなく、胃のあたりが重苦しいと言い出したため、かかりつけ医に相談したところ、胃カメラ検査を受けることになりました。その結果、逆流性食道炎と診断され、薬が処方されました。しかし、半年ぐらい経っても症状が改善しないため、かかりつけ医は「念のため、腫瘍マーカーを調べてみましょう」と血液検査をしてくれたのです。すると、CEAという腫瘍マーカーの値がかなり高いとわかり、すぐに大きな病院を紹介されました。
 病院では、エコーやCT、MRIなどの検査を受けたのですが、その結果、6センチもの大きなすい臓がんが見つかり、肝臓にも転移していることがわかりました。ドクターからは「手術はできない状態なので、治療をするとしたら抗がん剤による化学療法になりますが、大きな効果は期待できません」と言われました。
 病状の説明は、母も一緒に受けたのですが、「私は難しいことはわからないから、あなたたち(娘夫婦)に任せる」と言いました。たとえ大きな効果はないとしても、何もしないよりはいいだろうと思い、抗がん剤治療をお願いしたのですが、治療が始まってすぐに急速に母の状態が悪化し、治療継続すらできなくなってしまいました。そして、すい臓がんがわかってから約4か月で母は亡くなりました。
 病院に転院してから、かかりつけ医に会っていないし、母が亡くなった報告もしていません。母の死から約1年が経ちましたが、この間、かかりつけ医への不信感が拭い去れずにいます。母が胃の不調を訴えた段階で腫瘍マーカーの検査をしてくれていたら、転移のない状態ですい臓がんが見つかったのではないか。もしそれが無理だったとしても、薬の効果が出ないのに半年も同じ薬の処方を続けていたのは無責任だったのではないか、という気持ちが高まる一方なのです。かと言って、何をすればいいのかもわからず、悶々とした日々が続いています。いったい、どうすればいいのでしょうか。

より良いコミュニケーションを目指そう!患者さんこうしてみては・・・?
 結果的に進行した状態ですい臓がんが見つかり、ほとんど治療ができないまま亡くなってしまわれただけに、後悔の念が残っておられるのだと思います。症状を訴えて、かかりつけ医の受診を続けていたのに、なぜ・・・という思いが消えない気持ちはとてもよくわかります。
 ただ、すい臓がんは特徴的な症状があるわけではなく、早期で見つけるのは難しいとされています。それだけに、お母さんの訴えていた症状で、もっと早くにすい臓がんを疑うことができたかどうかは難しいところではないかと思います。そこで、冷静に話すことができるようであれば、一度かかりつけ医に面会を申し入れ、その後の報告かたがた、かかりつけ医の考えや意見を聞いてみることも1つの方法ではないでしょうか。
より良いコミュニケーションを目指そう!医療機関さんこうしてみては・・・?
 亡くなった患者のことについて遺族からアプローチがあると、医療機関は構えてしまいがちです。しかし、医療側と患者側とでは、前提となる情報や知識が異なるだけに、思い込んでいたり、現実以上に高い要求をしていたりする場合があります。それだけに、まずは遺族の想いに耳を傾け、しっかりと向き合い、必要な説明を真摯にしていただくことが大切だと思います。
※写真はイメージです

この実例紹介とアドバイスのご提供は・・・


認定NPO法人
ささえあい医療人権センターCOML

理事長 山口育子

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