[患者さんの相談事例] 2015/10/16[金]

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 現代の医療現場では、自分なりの判断や意思決定が求められます。患者側にだって、治療パートナー(医療者)と上手に対話して、疑問解消・意思伝達できるコミュニケーションスキルがあった方が良いですね。
 ここで紹介する「相談事例」は、患者側視点に基づくもので、実際にはもっと他の背景があったかもしれませんが、「私ならどうするか」を考えてみませんか?

患者さんから実際にあった電話相談

効果が望めそうな薬を使うには入院が必要。そのまま日常生活に戻れなくなるのでは、と不安です。(77歳・女性)

 妹(75歳)は5年前、夫(当時77歳)を心筋梗塞で亡くして以来、ふさぎ込むようになりました。もともと人づきあいは少ない方でしたが、数少ない友人とのおつきあいもしなくなり、自宅に閉じこもるようになってしまいました。近くに住む姪(妹の娘)が心配して時折様子を見に行っていたのですが、私に電話をかけてきて「どうも様子がおかしいから、一度一緒に見にきて相談に乗ってほしい」と言われました。
 そこで姪と予定を合わせて妹宅に行ってみると、以前の綺麗好きな妹からは考えられないほどゴミが散乱し、布団も敷きっぱなしでした。そして妹自身はまったく力のないうつろな目をしていて、動きは緩慢で、話しかけても反応が悪いのです。一目見て、私もこれは病的だと感じ、姪と一緒に妹を精神科に連れて行きました。
 受診の結果、妹は老人性うつ病で認知症も伴っていると診断されました。そしてすぐに介護保険の申請をしたところ、介護2と診断され、介護保険を利用しながら姪と私が交代で様子を見に行き、可能な限り自宅で生活することにしました。
 精神科で出された薬を飲むようになってから、言葉に力が出て、少し活動的になりました。しかし、徐々に乱暴な感じに変化してきたのです。そして3か月ほど前から妄想による言動が増え始め、「家に誰かが入り込んで物を盗っていく」「隣の人にお金を盗まれる」などと言うようになりました。1か月前にはベランダ越しに隣家にごみ袋を投げ込んだらしく、市役所から姪のもとに苦情が入ったと連絡があったそうです。
 この間、介護つきの施設を探していたのですが、一度試しにショートステイを利用した際、「私を牢屋に入れるのか!」と騒いで大変だったので、どうしたものかを悩んでいました。ところが、1週間前にいつもの精神科を定期受診したところ、ドクターから「新しい薬が出ていて、妹さんの症状には効くかもしれません。ただ、その薬を使うとしたら、きちんと服用して効果を観察しないといけないので、一定期間入院していただくことになります」と言われました。効果が出るならと思って、そのときは入院を承諾しました。しかし、帰宅して冷静に考えてみると、入院したら妹は日常生活に戻れなくなってしまうのではないか、次々に薬が出されて薬漬けになったらどうしようと不安になってきたのです。どのように判断したらいいのでしょうか。

より良いコミュニケーションを目指そう!患者さんこうしてみては・・・?
 めまぐるしく変化する妹さんの症状につきあいながら、見通しが立たない状況のなかで、姪御さんとその時々の状況に対応するだけで精一杯だったのではないでしょうか。身近な人が、変わり果てた姿になることも、なかなか受け入れられないでしょうし、お辛いことだと思います。
 精神科でいったんは入院すると承諾してこられたということですが、一度決めたら変更できないわけではありません。まずは、「先日は、効果があるならと思ってお返事しましたが、その後、冷静に考えたらいくつか疑問が生じてきたので、もう少し詳しく説明を聞かせていただけますか」と率直に依頼し、感じておられる不安もそのまま伝えてみてはいかがでしょうか。
より良いコミュニケーションを目指そう!医療機関さんこうしてみては・・・?
 精神科医は専門的な見地から新しい薬の使用と入院を勧めたのだと思います。しかし、その想いをもう少し丁寧に家族側に説明し、家族の不安を取り除いたうえで今後の見通しを共有しなければ意味がないのではないかと思います。
インフォームド・コンセントはどうしても医療側からの一方通行の情報提供になりがちですが、患者側の理解が加わって情報の共有に至らなければ不安や不信感が増す場合が少なくありません。患者側の知りたい内容に視点を移すことが大切だと思います。
※写真はイメージです

この実例紹介とアドバイスのご提供は・・・


認定NPO法人
ささえあい医療人権センターCOML

理事長 山口育子

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