[患者さんの相談事例] 2010/01/22[金]

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 現代の医療現場では、自分なりの判断や意思決定が求められます。患者側にだって、治療パートナー(医療者)と上手に対話して、疑問解消・意思伝達できるコミュニケーションスキルがあった方が良いですね。
 ここで紹介する「相談事例」は、患者側視点に基づくもので、実際にはもっと他の背景があったかもしれませんが、「私ならどうするか」を考えてみませんか?

患者さんから実際にあった電話相談

本当に正しい処置だったのか、後になって不信感が芽生えてきました。(44歳・女性より)

 75歳の母は、5年前に肝臓がんとわかって手術を受けたのですが、2年後に肺転移が見つかり、徐々に全身に転移が進みました。半年前から入院して抗がん剤治療を受けたところ、強い副作用が出たため中止しました。私は母と2人暮らしなのですが、母の意向で退院して在宅医療に切り替えることにしました。
 地元には以前から在宅医療を熱心におこなっているクリニックがあり、末期がんにも対応してくれると評判でした。そこで、そのクリニックを訪ね依頼したところ、すぐに院長が来てくれることになりました。
 やってきた院長は、母の状態を確認し、私にこっそり「お母さんは、かなりうつ状態がひどいので、抗うつ剤を出しましょう」と言われました。私が「すでに抗不安薬と睡眠薬を飲んでいるのですが」と言うと、「飲んでいてあの状態だからこそ、追加が必要なんです」と言われました。
 そして新たに薬が追加されたのですが、その薬を飲んでから母は目を覚まさなくなったのです。私は慌てて、院長に電話で相談しました。院長から服用する量を半分に減らす指示があり、2日後に訪問されました。私が「母はほとんど尿が出ていないんです」と訴えると、200mlぐらいの点滴を1本だけされました。そのときになって、ようやく抗うつ剤は中止になったのですが、母は目が覚めないままでした。その翌日も同じ大きさの点滴を1本だけ入れ、「途中で半分に減らしたし、これだけ時間が経過すれば体内から薬の成分は消えていますから、だいじょうぶです」と言って、帰っていかれました。
 しかし、母は目が覚めないばかりか、徐々に熱が上がり、呼吸困難の状態になったので、救急車を呼んで以前入院していた病院に運びました。病院ではすぐに検査がおこなわれ、ドクターから「抗うつ剤の血中濃度が高くなったままです。大量の点滴で水分補給をしましょう」と治療が始まりました。しかし、その甲斐なく、入院から1週間で母は亡くなってしまいました。
 在宅医療のクリニックには、病院から母が死亡したことを伝えてくださると聞いていました。だからだと思いますが、母の葬儀のときに、院長から弔電が届きました。しかし、訪ねて来ることはおろか、電話1本かかってきません。人望があり、社会的な活動もされているドクターなのに、なんて誠意がないのだろうと落胆しました。それに、母の死から時間が経って落ち着くにつれ、「あのころは買い物にも行けていたし、食事のための外出もできたのに、ほんとうに抗うつ剤が必要だったのだろうか」「もっと早い段階から十分な水分補給をすれば助かったのではないか」と不信感が芽生えてきました。がんの末期で助からなかったとしても、母には残された時間でやり遂げたいことがいくつかあったはずです。母の無念さを思うと、泣き寝入りする気持ちになれません。

より良いコミュニケーションを目指そう!患者さんこうしてみては・・・?
 退院直後は外出する元気が残っておられただけに、抗うつ剤の服用後に一度も目覚めることなく亡くなられたのでは、納得できないお気持ちは当然だと思います。そのうえ、クリニックの院長の誠意を感じられないお気持ちでは、悲しみや怒りも倍増されたことでしょう。
 ぬぐいきれない疑問点を明らかにするためには、いくつかの方法があります。まず、直接院長と会って気持ちを伝え、話し合う方法。あるいは、処方された薬の妥当性を第三者の専門家の意見を聞いて検証するとすれば、知り合いにでも意見を聞けるドクターがいなければ、弁護士を介する必要があります。その場合、どうしても費用や時間を要しますので、ある程度の覚悟が必要になります。どこまでの手段をとるか、ご家族と相談しながら、冷静に考えてみてはいかがでしょうか。
解決!医療機関さんこうしてみては・・・?
 医療機関やドクターへの信頼が高ければ高いほど、その期待が裏切られたときの落差は大きくなります。「目が覚めない」という連絡があったときに、「何とかしよう」という院長の必死な思いや、亡くなったという連絡を受けたときに誠意ある対応があれば、娘さんの気持ちも違っていたでしょう。それまでの院長のイメージとは正反対の対応だったことで、より一層の不信感に発展してしまったのだと思います。
 マイナスの状況であればあるほど、誠実に、きちんと向き合って説明し、患者側の思いに耳を傾ける姿勢が問われるのではないでしょうか。
※写真はイメージです

この実例紹介とアドバイスのご提供は・・・


NPO法人
ささえあい医療人権センターCOML

理事長 山口育子

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