[医薬品ネット販売解禁でどう変わる?] 2013/08/01[木]

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 近頃、ニュースで話題の「医薬品ネット販売解禁」。「便利になる!」という喜びの声がある一方、「副作用や飲み合わせの問題が心配」という意見も挙がっています。私たちの健康を守る「薬の買い方」のこれからについて、現役薬剤師・水八寿裕さんと、この夏以降、個人向け通販サービス「LOHACO」で一般用医薬品の販売を計画しているアスクル株式会社に直撃!これからの「私たちの健康と薬」のあるべき姿について聞きました。

 その前にまずは、今回の「医薬品のネット販売解禁」についておさらいしましょう。医薬品は大きく「医療用医薬品」と「一般用医薬品」の2つに分けられます。前者は医師の処方せんが必要で、後者については処方せんが必要無く、薬局やドラッグストアの店頭で販売される医薬品で“大衆薬”とも呼ばれています。一般用医薬品は第1類から第3類にまで分類されており、リスクが相対的に低い2、3類については、薬剤師がいなくても登録販売者がいれば販売が可能でした。一方で、ネット通販については1、2類の一般用医薬品に対し厚生労働省は「薬局等で対面販売しなければならない」と省令で定め、ネット販売を原則禁止していました。その状況に変化が訪れたのが今年2013年。1月に最高裁が「厚労省のネット販売規制は違法」であるとの判決を下したのをはじめ、6月には安倍内閣が成長戦略の1つとして、一般用医薬品のネット販売の解禁をテーマの1つに掲げるなど、一般用医薬品をネットで販売する環境は整ってきています。

薬剤師&ネット販売企業に直撃!ネット販売企業の回答

アスクル株式会社 メディカル&ケア事業本部

ミネラルウォーター、お茶、ティッシュ、おむつなどの日用品から、掃除機、冷暖房器具などの生活家電まで、豊富な商品ラインアップが魅力の個人向け通販「LOHACO(ロハコ)」。今夏以降に第1類第2類医薬品の販売を開始予定。
執行役員 矢吹和久氏
執行役員 矢吹和久氏
薬剤師 宮崎典子氏
薬剤師 宮崎典子氏
薬剤師&ネット販売企業に直撃!薬剤師(水八寿裕さん)の回答は?

それぞれの販売方法によるメリットを3つ教えてください。

【1】購入する場所・時間の制約がない
【2】他人の目が気になる医薬品も購入しやすい
【3】添付文書などパッケージ以外の情報も購入までに提供できる

それぞれのメリットについて具体的に教えてください。

【1】購入する場所・時間の制約がない
 忙しくて店舗の営業時間に間に合わない方、また薬局が近くにないという方にとっていつでも24時間自宅から注文ができるのはネット販売のメリットです。2013年6月18日から第3類医薬品を個人向けネットショップ「LOHACO」(ロハコ)を通じ販売していますが、主な利用者は30~40代の共働き世代。最短当日の時間帯指定での配送を行っており、また送料が1900円(税込)以上で無料になるということもあるかもしれませんが、医薬品を単品で購入するというよりも、飲料など重くてかさばる日用品と共に購入している方がほとんどです。忙しくてスーパーや薬局を何軒も回れない方にとっては大きなメリットになるはずです。

【2】他人の目が気になる医薬品も購入しやすい
 電通総研のアンケートによると、ネットで買いたい傾向が強い医薬品は、風邪薬や胃腸薬ではなく、水虫薬や妊娠検査薬、デリケートゾーンの薬など。これらに共通するのは、他人の目が気になって対面では買いづらいということ。症状をいくら他人であっても知られたくないという場合は、自宅で気軽に注文できるネット販売が喜ばれると思います。

【3】添付文書などパッケージ以外の情報も購入までに提供できる
 現在は薬の添付文書を掲載していますが、難しくて読みにくいという声にお応えして、薬剤師がわかりやすく解説をしたコメントを追加するなど検討しており、お客様のご要望に応える独自のサービスを提供できるのがネット販売の強みです。また、お届けする商品に薬品の情報文書を同梱することもできますので、より多くの情報を提供できます。その他のメリットとして、購入履歴の管理を行うことができる点も挙げられます。これによってどのお客様が何をいつ、どのくらい買ったかをひと目で確認できます。

第1類の薬の中には、飲み続けると「NSAIDs潰瘍」と呼ばれる胃などに潰瘍を起こす危険性も指摘されている鎮痛剤なども含まれています。また、別の薬との飲み合わせや妊娠中に飲んではいけない薬など、副作用に関する心配が語られています。そういったリスクに対し、どのような対策を取られていますか?

 薬剤師相談窓口を設置しています。相談は電話とメール、お問い合わせフォームで受け付けており、迅速な回答を心がけています。アスクルは2004年1月にメディカル事業に参入し、医療機関向けに消耗品や医療材料のデリバリーサービスをご提供しており、開始当初からお問合せ窓口を設置していました。医薬品に関しても同様に気軽に相談できるサービスを提供していくほか、今後についてもタイムリーに副作用情報を更新する、飲み合わせなどに注意できるような文書、システムの構築、ラインナップ以外の問い合わせにも対応など、最大限の注意を払えるようなサービスを検討しています。チェック体制を強化することで、安心・安全な販売の仕組みを作っていきます。

薬の濫用や転売目的、または未成年などによる目的以外での薬の購入などに対し、どのような対策を取られていますか?

 現在行っているのは、購入数量の制限、クレジットカード決済による本人確認、イレギュラー売り上げのチェックの3点を行っています。購入数量に関しては、例えば商品によって現在同じ商品を3つ以上同時に購入できないシステムを作っています。このようなチェック体制を整えることで、医薬品の濫用や転売のリスクを最小限にとどめています。

今回のネット医薬品販売の解禁で、薬を買うことに対し、私たちはどのようなことを気をつければよいでしょうか?

 薬ほど供給者と消費者の情報格差が大きい商品はないのではないかと思っています。情報は提供しなければ伝わりません。そのために、メーカーだけでなく、私たち流通側ももっと簡単に情報提供ができるような仕組みを作っていく努力が必要だと感じています。薬自体の情報はもちろん、副作用情報、飲み合わせなど一元管理できるシステムは今後必要になってくるでしょう。その上でお客様には、安全性や薬に対しての意識や知識を高めてもらいながら上手に薬と付き合ってほしいと思います。

最後に薬局での対面販売とネット通販という異なる2つの方法が始まることについて、どのように共存していきたいと考えていますか?

 ネット・対面に関係なく、企業間の競争と努力によって、価格だけでなく情報提供を含めたサービス全般が向上し、お客様の利便性と選択肢も増えるというのが望ましい姿だと考えています。近くにドラッグストアがない方や忙しくて買いに行く時間が取れない方にとってネット販売は確実にお役に立てます。ですがその一方で、利便性が上がるからこそ情報提供の軸となる薬剤師の需要は高まり、対面販売の強みも出てくるのではないでしょうか。今後は「ネットで情報を調べ、顔を知っている薬剤師から対面で購入する」という、さらなる安心・安全を求める購入スタイルが生まれる可能性もあります。対面とネットを対立させるのではなく、2つをうまく活用することで、より安全性の高い利用方法が生まれてくるものと思っています。

インタビューを終えて

 厚生労働省の「一般用医薬品のインターネット販売等の新たなルールに関する検討会」に関する報道では、意見が平行線でどこまでも交わることのないようにみえた薬剤師ならびにネット販売企業だが、こうしてそれぞれにインタビューすると、同じ目標を向いていることが明確になりました。それは、どちらも「私たち一人ひとりの健康を真剣に考えている」ということ。もう1つ明らかになったのは、鎮痛薬におけるNSAIDs潰瘍のリスクのように、「薬には必ず副作用があり、その情報提供は購入方法に関わらず、こまめに行われている」ということ。つまり、薬を「便利」なものにするか「危険」なものにするかは、「どう買うか」ではなく、買った私たちが「薬とどう付き合うか」にかかっているように感じました。

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