前編:コレステロール値の管理とバランス
[医師が語る動脈硬化] 2012/01/19[木]
脂質異常症の診断基準
寺本民生先生
脂質異常症とは、以前は高脂血症とよばれていた「動脈硬化を引き起こしやすい病態」のこと。悪玉(LDL)コレステロール値が高いだけでなく、善玉(HDL)コレステロール値が低い状態でも動脈硬化を引き起こす原因になることから、一般の人に正しく認識をしてもらう必要があると、2007年の動脈硬化学会ガイドラインより、脂質異常症という名称になりました。
脂質異常症で最も怖いのは、動脈硬化が進行することによって引き起こされる狭心症や心筋梗塞などの心臓の病気と、脳血栓や脳梗塞などの脳血管疾患です。日本では、高血圧が強く関係した脳卒中が多かったため、高血圧ばかりが注目されてきました。しかし、食生活が欧米化してきたため、近年日本人のコレステロール値のレベルが急速に上がってきています。
出典:日本動脈硬化学会編 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2007年版
動脈硬化性疾患予防ガイドラインで、脂質異常症の診断基準はLDLコレステロール値が140mg/dL以上または、HDLコレステロール値が40mg/dL未満に定められています(表1)。
LDLコレステロール値140mg/dL以上という基準値は、おおよそ日本人の2,000万人くらいが、該当するのではないかと思われます。しかし、LDLコレステロール値が140mg/dL以上の全員が、薬を飲まなくてはいけないというわけではありません。そこからは“黄色信号”とみて、対策を練る必要があると認識してもらう数値だと理解してください。
動脈硬化の危険因子とコレステロール管理目標値
動脈硬化は、高LDLコレステロール血症だけでなく、低HDLコレステロール血症、高血圧、糖尿病、喫煙、加齢(男性45歳以上、女性閉経後)、心疾患の家族歴などの危険因子によって進行しやすくなります(表2)。いくつかの危険因子が積み重なることによって、危険度が高まるのです。LDLコレステロール値が140mg/dLを超えているから、すぐに薬を使わなくてはいけないということではありませんが、早い段階できちんと受診してほかの危険因子がないかを確認する作業が必要です。危険因子が2つ以上になると、危険因子がない場合と比べて死亡率が2~3倍になります(図1)。危険因子の数が増えれば増えるほど、より厳格な治療が必要になってくるのです。
そのため、動脈硬化性疾患予防ガイドラインでは危険因子の数によって、コレステロール値の管理目標値が異なります。あくまでも達成努力目標値ですが、この数値を目標にまず生活習慣の改善に取り組み、必要によっては服薬もします。LDLコレステロール以外の危険因子がない場合はLDLコレステロール値160mg/dL未満が管理目標値です。危険因子が2個以上の場合は140 mg/dL未満、3個以上または糖尿病がある場合は120 mg/dL未満が管理目標値です。
単にLDLコレステロール値140mg/dlという数値によって治療が始まるわけではなく、1人1人のバックグラウンドが非常に重要になってくるということを知っておきましょう。
LDLコレステロールとHDLコレステロールのバランスが重要
動脈硬化と非常に関わりの深い脂質異常症の診断基準には、LDLコレステロール、HDLコレステロール、トリグリセライドの項目があります(表1)。
LDLは肝臓で作ったコレステロールを、体の隅々の細胞にまで運搬する運搬体です。コレステロール自体は体を構成する組織や生命維持に必要ですが、LDLコレステロール値が高いと、コレステロールが血液の中に溜まり血管壁に蓄積していきます。そうして動脈硬化を起こしていくのです。善玉と呼ばれるHDLは、血管壁に溜まったコレステロールをそこから引っ張り出して、肝臓に戻す作用があります。人間の体というのは非常にうまく出来ていて、そうやってバランスをとりながら健康を保っているわけです。HDLの働きがよくなければ、HDLコレステロール値が低くなり、血管にコレステロールが溜まり、動脈硬化が起こりやすくなります。HDLコレステロール値が40mg/dLより低いと心筋梗塞が起こりやすいというデータもでています。
LDLコレステロール値が高くても、HDLコレステロール値が高い場合は治療の対象にならないこともあります。最も困るのは、LDLコレステロール値が高く、HDLコレステロール値が低い場合で、動脈硬化が進行しやすくなります。重要なのは、LDLとHDLのバランスです。基本は、LDLコレステロール値が高い状態を放置しておかないこと。まずはLDLコレステロール値を下げる努力が必要です。しかし、LDLとHDLのバランスを取るためには、LDLコレステロール値を下げるだけでなく、HDLコレステロール値を上げることが大きな課題になっています。HDLコレステロール値が下がる大きな理由は、運動不足、喫煙、肥満で、生活習慣の改善によって直していかなくてはいけません。生活習慣の改善が大前提ですが、最近ではHDLコレステロール値を上げる作用のある薬剤もあり、場合によっては服用してもらいます。
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