後編:先生から、コレステロール値を管理するためのアドバイス
[医師が語る動脈硬化] 2012/01/19[木]
健康診断の数値のチェックの重要性
まずは自身のLDLコレステロール値とHDLコレステロール値をチェックしてみましょう。健康診断などの結果があれば、見直してみてください。
健康診断の結果に、LDLコレステロール値が高い、またはHDLコレステロール値が低い場合や、「要治療」などと書かれていたら、医療機関を受診して、きちんと調べてもらわなくてはいけません。ただ、数値だけを確認して自己判断するのはよくありません。LDLコレステロール値が140mg/dLぐらいでも、HDLコレステロール値が低ければ、薬でLDLコレステロール値を下げる必要があるかもしれません。LDLとHDLのバランス、生活習慣、危険因子などトータルで見ることが重要なのです。健康診断で異常を指摘されたら、まずは医療機関に相談をしましょう。異常を指摘されていたにもかかわらず、なにも検討しないまま放置されているというケースが一番怖いわけです。
医療機関では、まず他に危険因子はないかを調べます。糖尿病はないか、血圧が高くないか、喫煙はしているか、ひと通りの危険度や患者さんの現在の状態を調べたら、その結果に応じて生活習慣の改善や食事の注意などを行い、2~3ヵ月後に再検査をするというように何段階かに分けて指導していきます。
最近の特徴は、50代、60代で動脈硬化を起こすケースが圧倒的に多くなっていることです。健康に自信がある人ほど、コレステロール値や、喫煙が良くないなどということを意識していない傾向にあります。特に仕事が忙しい人ほど、健康診断で異常を指摘されても医療機関を受診しない、受診しても生活習慣の改善や治療が続けられないことが多いです。医療者は、心筋梗塞や脳梗塞に対して、心血管イベントという言葉を使います。イベントは事件のことで、交通事故のようにある日唐突に起こってしまいます。動脈硬化は自身の気づかないうちに進行し、ある日突然倒れてしまうこともあるのです。
治療は家族のサポートも必要
私たち医療者が一番困るのは、服薬をしなくてはいけないような人たちが、受診していないケースです。実際、受診しなくてはいけないような人たちが、受診していないことが多いです。医療機関への受診を促すには、家族や周囲の人たちのサポートが必要です。家族ですから、やはりお互いの健康は気遣うものです。お父さんの健康診断の結果を、家族で共有することも大事です。奥さんやお子さんから、病院で検査をするようにと強く言われて、仕方なく受診するということもあるでしょうが、家族のサポートというのはわりに大事なのではないでしょうか。
また、医療機関を受診し、医師の指導を受けても、なかなか生活習慣の改善ができない、運動する時間が取れないということもあると思います。そういうときには、周囲に「生活習慣を改善する」「運動する」と宣言してしまいます。周囲の監視の目があると意外と続きます。家族や周囲のサポートがあれば、生活習慣の改善も治療もしやすくなるものです。
先生からのアドバイス
テレビや新聞などの媒体をみて、「ひょっとして自分も…」と気になったら、「後はもうお医者さんに任せなさい」と私はいつも言っています。信頼できる医師に任せてコレステロールを管理してもらうのです。自己管理ができるようになるまで、指導してもらえばいいのです。
また、予防しようと思っても、社会情勢が許さないこともあります。会社勤めをしていれば、忙しくても仕事を止めるわけにはいきません。そういう時には、生活習慣の改善だけではなく上手くお薬を使って、コレステロール値を管理していきます。要はLDLコレステロール値が高い状態がよくないのであって、その状態を抑えてあげればいいのです。生活環境の変化などで、LDLコレステロール値が高くなるような要因がなくなれば、下がることもあります。仕事をリタイアした後なら、ストレスもなくなり生活環境が良くなるので、コレステロール値の管理もしやすくなることも多いようです。
「ひょっとして自分も…」と気になったらまずは医療機関を受診しましょう。そして、医師のアドバイスに従いコレステロールの管理をしっかりして、動脈硬化性疾患の予防をしていきましょう。
寺本民生(てらもとたみお)先生
帝京大学医学部・学部長、内科教授
1973年東京大学医学部卒業後、80年にアメリカ・シカゴ大学に留学。84年東京大学に復職し、91年帝京大学第一内科助教授、97年帝京大学内科教授を務める。2001年帝京大学内科主任教授を経て、10年より現職。
【所属・役職等】日本内科学会理事長、日本動脈硬化学会副理事長、日本肥満学会評議員
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