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[ヘルスケアニュース] 2022/10/24[月]

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患者さんの声が医薬品開発に活かされる時代へ

 「Patient Engagement」という言葉を知っていますか? これは「患者さんとの協働」を意味しています。患者さんの声、患者さんとの対話の中で気づいたことを医薬品開発に活かし、患者さんと共に医学研究や臨床試験を進めていこうとする考えで、日本でも少しずつ広がりを見せています。

 これは1990年頃から提唱され始め、アメリカやイギリス等では取り組みがさかんです。製薬会社が患者さんと協働し、患者さんの声を活かした治験等も活発に行われてきました。日本でも、患者さん・市民の声を取り入れた花粉症予防アプリを開発する研究が行われる等、実践的な取り組みも始まっています1)

 薬の分野においては「患者さんのために創薬してきた時代」から「患者さんと共に創薬する時代」への変換、考え方の変化を示しています。患者さん一人一人の考えを薬の開発者が知ることで、薬を使用する患者さんのニーズに即した開発ができるというメリットがあります。また、この考えが当たり前になることで、製薬会社と患者さんの対話が増え、患者さんを理解した創薬ができるともいえます。

患者さんと製薬会社をつなぐHealthcare Café開催


 (武田薬品工業提供)

 この考えに賛同し、臨床試験(治験)段階よりもさらに早く、非臨床試験研究段階から患者さんに参加してもらい開発を進めていく試みが、武田薬品工業、第一三共、協和キリン、参天製薬の4社合同で始まっています。同取り組みは「Healthcare Café」と題し、第1回が2022年9月28日に武田薬品工業主催で行われました。第1回は「聴覚障がい」をテーマに掲げ、聴覚障がいのある当事者4名、患者さんのご家族、そして神谷和作先生(順天堂大学医学部耳鼻咽喉科講座准教授)、池田勝久先生(順天堂大学医学部附属順天堂医院耳鼻咽頭・頭頸科名誉教授)を交え、製薬会社の研究開発社員とディスカッションが行われました。

患者さんのニーズを理解することが大切

 ディスカッションでは3チームにわかれて事前に座談会で話し合った内容をもとに意見交換が行われました。例えば「日常生活の困りごと」に対しては、以下のような意見がありました。

  • 補聴器に慣れるまでに時間がかかり、言葉がゆがんで聞こえることもある
  • 補聴器をつけないとまったく聞こえないが、つけても相手の話し方次第で聞き取れない
  • 人工内耳2)にはすぐ慣れたが、周りの音がすべて聞こえてしまい、聴きたい音が聞こえなくなってしまう
  • 補聴器が耳穴式(小型で目立ちにくいタイプ)のため、難聴だと周りに理解してもらえず、無視していると思われてしまうことも…

 皆さん、ざっくばらんに意見を出し合い、「あるある」を共有しました。

 また、弟さんに聴覚障がいがある参加者からは、「弟の聴覚障がいを知ったとき、まだ自分自身小学生だったこともあり、目が悪い程度のことだと思っていた」「もっと活動を広げて、当事者同時の交流の場になってほしい」と当事者ではない視点からの意見も出されました。


耳マーク(全日本難聴者・中途失聴者団体連合会提供)

 さらに、これからの社会に向けて「耳マークが広まってほしい」という要望もありました。耳マークとは、全日本難聴者・中途失聴者団体連合会にて管理されている、聞こえが不自由なことを表すと同時に聞こえない人・聞こえにくい人への配慮を表すマークです。ローソンではレジカウンターに設置されており、買い物時のコミュニケーションを手助けしています。コロナ禍でマスクをしている方が多い現在、口元が見えないと聴覚障がい者にとって困ってしまう場面も多いのですが、まだまだ認知度が低いため、さらなる普及を目指している、もっと広まってほしいと意見が出されました。

聴覚障がいにおける薬の可能性とは

 薬を使った治療で期待していることとして、神谷先生は「少しずつでも聴覚がよくなっていくことを目指している」と意見を述べました。また、「iPS細胞で難聴の医薬品をつくる」をテーマとした講演も行い、難聴の中でも今まで手術ができず、原因・経過がわからなかった「感音難聴」に対して、iPS細胞を用いた治療の開発が進められていることを示しました。iPS細胞は再生医療を実現するために重要な役割を果たす細胞で、同細胞を作製したことに対して2012年にノーベル医学・生理学賞を山中伸弥先生(京都大学iPS細胞研究所名誉所長・教授)が受賞されました。

これからのPatient Engagementはどこへ

 まだまだ始まったばかりの日本のPatient Engagementにとって、まずは必要性を多くの人に知ってもらうことが大切です。製薬企業が患者さんの視点を理解することで、患者さんの思いをさらに反映した医薬品が開発される未来も近いと言えます。Healthcare Caféの第2回は「がん患者さんが自分らしく生きるためにどうしたらいいのかをテーマに、「がんノート」と題して開催予定です。(QLife編集部)

1)吉田晃子.PPI(Patient and Public Involvement)の最新動向-患者・市民参画の成長期-.政策研ニュース 65、2022.
2)現在、世界で最も普及している人工臓器の1つで、聴覚障がいがあり補聴器の装用では効果が不十分な方に対する唯一の聴覚獲得法

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