[クリニックインタビュー] 2010/03/12[金]

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大学病院が医療の最先端とは限りません。患者のこと、地域のことを第一に考えながら、独自の工夫で医療の最前線に取り組んでいる開業医もたくさんいます。そんなお医者さん達の、診療現場、開業秘話、人生観、休日の過ごし方、夢などを、教えてもらいました。

第58回
つつみクリニック
堤正彦先生

交通事故をきっかけに医療の道を志す

tsutsumi_clinic01.jpg 僕は両親、親戚などに医者がいる家系ではないので、お医者さんというのはかかりにいくものであって、自分がなるものとは考えていませんでした。きっかけは小学生のときと高校生の2回の交通事故です。特に小学校2年生のとき、2週間ほど入院した経験が大きかったと思います。遊んでいるときに道に飛び出して車にはねられて、救急車で病院に運ばれました。幸い骨折もなく、手術などもしませんでしたし、運ばれた病院はすぐそこの(クリニックの前にある)僕が通っていた小学校に隣接していたので、病室から校庭が見えたり昼休みに友達がお見舞いに来てくれたりしたんです。ですから恐怖心や孤独感といったものはなく、医者の世界に親しみを感じるようになりました。なかでも顔の皮までひどくむけてしまっていたのが、痕もなく治っていく様子を見て、とくに皮膚に興味を持ちはじめたのです。
 それで子供心にもお医者さんに憧れるようになったのですが、一度は文学部に入学します。自分は理系の人間ではないと思っていたのと、母親は戦時中に看護婦をしていた経験があるので、もともと僕が医者になることを希望していたのですが、逆に僕の方が中学高校時代に「親の言いなりになりたくない」と意地をはっていたところがあったんですね。しかし入学してすぐに肌に合わないというか、物足りなさを感じて一学期で退学し、医学の道に進みました。

身体の外から内側へと

tsutsumi_clinic01.jpg 形成外科に進もうと思ったのは大学卒業近く、ポリクリ(臨床実習)で各科を回ってからです。実は部活の先輩の影響もありました。部活は競技スキーをやっていたんです。それまでスキーはしたことがなくて、「せっかく北大(北海道大学)にきたんだから滑れるようになりたいな」という単純な動機で入ってしまったんですが、そんなに甘いものではなかったんですね(笑)。競技スキーのなかでも「アルペン」というのは本格的に滑れる、それこそ大会に出場するような人たちばかりで、そうでない人は「ディスタンス」という距離競争。校庭がそのまま雪原でしたから、毎日スキーを担いで走らされていました。ほかにも潜水部というのを立ち上げて、夏は海に潜ったりもしていましたね。
 当時は研修医の数が少なかったこともあり、形成外科や整形外科などの外科系は、特に部活の先輩から医局への勧誘が多かったんですよ。それにポリクリのときに知っている先輩がいると、いろいろ詳しい情報が入ってくるので、それを聞いているうちに興味が向かっていったんです。そして皮膚科の勉強を始めたのは、形成外科の外来を行っているうちに、同じ皮膚を異なるアプローチで診療してみたくなったのが理由です。
 やがて父の具合が悪くなり、こちらの地元に帰ることになったんですね。こちらで働くにあたって、そのまま形成外科を続ける道もありましたが、やはり内科的な診療もしたいと思っていたので、東大の皮膚科の医局に入り直し、一から研修医としてやりなおすことにしました。そしてその当時の教授が退官されたのをきっかけに、医局を出てこのクリニックを開業しました。それが38歳のときです。
 うちの診療に漢方を扱っていますが、それは静岡で開業している先生に教わりました。東大の医局で働いているときから、開業するときのために何か特徴になるものがほしいと思っていたんですね。それで東洋医学に行きつき、医局で働きながら週に1度、新幹線で静岡まで通っていました。その先生は昔気質というのか、ひとつひとつ教えてくれるというよりも「見ながら盗め」というタイプでしたから、先生が診療する隣でカルテを書くお手伝いをしながら勉強していました。半年くらいそうした師弟制度のようなところで学んできて、最後は事務員の方が軟膏などの配合を教えてくれたんです。今うちで使っている薬は、そこで教わったものをさらにアレンジしたものです。

先入観を持たずに診察をうけてほしい

 患者さんはアトピー、ニキビ、水虫など様々ですね。年齢も子供からお年寄りまで、とくに偏りはありません。漢方の内服、外用を取り入れているため、ステロイドを使わないクリニックと思われて来院される方がありますが、必要なステロイドは使うべきで、病勢に応じて減量するべきです。うちはホームページもつくっていませんし、今は広告もいっさい出していません。それは患者さんに先入観を持たないで来院してほしいという理由があるからなんです。
 基本的に皮膚科では肌の表面を診るのですが、皮膚の症状のなかには、内臓疾患からくるものもあります。これを見逃すことのないように、というのが皮膚科の難しいところだと思います。それと症状の初期には何が原因になっているか、分かりにくいことがあります。水ぼうそうの初期なのか、別の病気なのか、あと2、3日すれば、症状がはっきりするけれど今は確定できないというようなときには悩みます。何かに決めつけて薬を出して、もしも悪化してしまったら困りますし、かと言って医者が迷っていては患者さんが不安になります。「可能性としてこれとこれがあって、どちらにも効く薬を出しておくから、何日かしたらまた来てください」みたいな形で、うまく伝えられればと思っています。

手作りのパンフレットで分かりやすい説明を

 普段心がけていることは、まず湿疹をよく見ること、触った触感などの状態も把握すること。そして患者さんの話から、発症時期や原因を考え合わせて診断をします。患者さんにより、また同じ湿疹でも、身体の部位や症状の程度によって、軟膏の種類、強さ、塗り方も違ってきます。短い診察時間では説明しきれない部分を補うために、オリジナルのパンフレットを渡しています。ここには病気の診断名、内容、治療方法、日常生活の注意点などが書かれています。患部の写真もカラーで入っていますから、それと見比べながら「この部分にはこの薬」と患者さん自身が確認しながら使うことができます。
 パンフレットはAdobeのIllustrator(画像ソフト)で僕が作って、カラーコピーしています。学生時代からMacintoshを使っていたので、こういうのはわりと好きなんですよ。Illustratorは使えるけれどワードもエクセルもできません(笑)。このイラストはスタッフに絵の上手い人がいるので、書いてもらって僕がコンピューターで色をつけました。コンピューターを使い始めたのは医局に入ったころで、当時は小さな一体型のMacでしたね。学会の発表で使うスライド作成に使っていました。写真や図を扱えるのは、その頃はMacだけでしたからね。徹夜で作業して、発表の直前まで修正したりしてましたね。それから形成外科や皮膚科は症例の写真を撮るのも大切なので、毎日何十枚と撮影したものを、当時はまだフィルムでしたからスキャナーで読み込んでデータ化したりしてました。

よく飲み、よく運動し、よく耕し


定期的に専門業者がメンテナンスをする水槽はとってもクリア。魚の健康にも良いと、院長のご自宅の水槽にもこの水を運んで使っているそうです。

 僕は毎日朝4時に起きています。それから1時間から1時間半くらい、こうしたコンピューターを使った仕事をして、朝食前にビリーズ・ブートキャンプを妻と一緒に1ディスクやります。それと週に2回、ジムで14キロほど走ります。休日は寝ているか、体を鍛えているかですね。
 もともと体を動かすのは好きでしたが、開業してしばらくは一日中座りっぱなしで、診療と食事の繰り返しでしたからかなり太ったんですよ。81キロくらいまで太って、これはまずいということでダイエットを始めて、今は60キロちょっとです。ランニングだけである程度は落ちたんですが、10キロくらい減ったところで止まってしまって、それからビリーズ・ブートキャンプを始めたらすぐにまた10キロ落ちました。発売されてからもう3年くらいたちますが、今でも毎日やってます。
 食事制限はまったくしてません。お酒が好きなので妻と晩酌したり、飲み歩きするのが楽しみなんです。居酒屋、焼肉屋、焼き鳥屋、寿司屋が多いですね。そうするとやっぱり体重が変動しますから、その分は運動で解消します。入り口を狭めるのではなく、出口を広げるということですね(笑)。
 他に趣味というとゴルフですね。前からやってはいたんですがずっと下手で、去年くらいから少し楽しさがわかってきて、最近ちょっと力を入れています。それから「農業」。まぁ、「農業」というほどでもないのですが、妻の実家の新潟に荒地があったので枝豆なんかを育ててます。月に1度くらい行けるかどうかという程度なんですが、凝り性なところがあるので、去年、小型の可愛い耕運機も買いました。それを使って耕したり、雑草を取ったりというのが妙に面白いんです。普段とはまったく違う環境で違う作業をするのが、いい気分転換になりますね。夏になったら収穫した枝豆でビールを飲むのが楽しみです。

取材・文/松本春子(まつもと はるこ)
編集者として10年間出版社に勤務した後、独立。フリーライター・フォトグラファーとして、心身の健康をテーマに活動中。理想的なライフスタイルの追究をテーマに執筆を手がけている。

つつみクリニック

医院詳細ページ:http://www.qlife.jp/hospital_detail_570029_1
tsutsumi_clinic_b01.jpg tsutsumi_clinic_b02.jpg tsutsumi_clinic_b03.jpg
広々とした待合室には水槽が。「お魚の病院」と子供たちにも評判だとか。
東武東上線ときわ台駅から徒歩4分。詳しい地図は医院詳細ページから。

診療科目

形成外科・皮膚科・アレルギー科

堤正彦先生略歴
堤正彦先生
昭和57年 北海道大学医学部卒業 医師免許取得
北海道大学医学部形成外科入局
昭和63年 形成外科学会専門医取得
平成2年 東京大学医学部皮膚科学教室入局
平成6年 東京大学医学部皮膚科学教室退局
つつみクリニック開院
平成14年 清和クリニック開院
平成16年 医療法人社団 水樹会 設立
現在 医療法人社団 水樹会 理事長、つつみクリニック院長


■所属学会
日本形成外科学会、日本皮膚科学会、日本アレルギー学会


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