[クリニックインタビュー] 2010/04/02[金]

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大学病院が医療の最先端とは限りません。患者のこと、地域のことを第一に考えながら、独自の工夫で医療の最前線に取り組んでいる開業医もたくさんいます。そんなお医者さん達の、診療現場、開業秘話、人生観、休日の過ごし方、夢などを、教えてもらいました。

第61回
角耳鼻咽喉科医院
角郁夫院長

本当の医療には時間が必要

kaku_clinic01.jpg 私は父親が内科の開業医だったものですから、小さい頃から意識はしていましたが、私自身は機械が好きで、あまり医者になろうとは思ってなかったんです。子供の頃から機械などの、ものの仕組みを調べるのが好きでした。時計なんかいくつ壊したかわからない。うちの親が偉いと思うのは、そういうことをいっさい叱らなかったんです。今、私の子供や孫がものを壊しているのを見ると「やめてほしいなぁ」と思いますけど、自分の子供の頃のことを考えると叱れませんね(笑)。
 大学に入るときも理系というだけで選びました。しかし大学の2年生になって進路を決める時期になると、普通の会社に入ってサラリーマンになるには向いていないような気がしてきたんです。医者の仕事は身近に感じていたので、これなら務まるのではないかと。当初はあまり純粋な気持ちがあったわけではないんです(笑)。私はもともと機械がやりたかったくらいなので数学や物理が好き。でも医者の勉強で数字はあまり扱わないんです。そのなかで耳鼻科の教室で行う鼓膜の研究は、信号や音波などで数字を使いますから「これだ」と思ったんですね。
 この医院を開設した頃は近隣に耳鼻科がなくて、開業したとたんに超満員でした。若かったのでなんとかやっていましたが、その代わり本を読むとか勉強はできなかったんです。医院にくる患者さんは大学病院の患者さんとは違う難しさがありますね。大学病院には重大な病気の方がくるので治すのが難しいけれど、ここにくる患者さんはどういう病気なのか診断するのが難しい。私は父親の仕事を見ていて開業医の患者さんというものに慣れていましたが、それがなかったら戸惑っていたんじゃないかと思います。

父親の背中

kaku_clinic02.jpg 父は北海道で開業医をしていて、戦争中に一家を連れて東京に出てきました。研究がしたかったんでしょうね。東京でも開業しながら大学に通って博士号をとりました。自宅で診療していましたから、休日でも夜中でも患者さんはやってくるんです。高校生の頃は、夜中に患者さんがやってくると、起きて勉強をしていた私が玄関を開けに行ったりして、本当に医者というのは大変な仕事だと思いました。私が医者になってから、特別に医者同士として父と話し合ったことはありませんが、家族ですからどんな風に勉強して、どんな風に患者さんに接していたかはずっと見ていましたからね。子供の目から見ても本当に努力家だったと思います。
 私は次男だったせいか、特に親から医者になるように言われたこともないですし、昔の親ですから私が医者になったときも嬉しそうな顔はしませんでしたが、きっと喜んでくれたと思います。実は私の息子も医者になったんです。私も子供に医者を勧めたことはありませんでしたから、自分で決めていました。口で言わなくても働いている姿を見て、選んでくれたのが嬉しかったですね。だからきっと父もそうだったんじゃないかと。

大学病院の難しさ、開業医の難しさ

 診察は難しいです。患者さんは自分で意識していることしか言えないでしょう? 本人は気がついていないけれど、実は心の問題だったり環境の問題だったりすることが本当に多いんです。そこを見抜くのが医者なんですが、若い頃はなかなかそこまでできなくて、「痛い」と言われれば痛いところだけを治せばいいと思っていた。そういうことに気がつくまでには、ずいぶん時間がかかりました。医院が流行っているうちは駄目ですね。患者さんが次から次へと来ていたら、とてもそこまで考える余裕がないんです。
 患者さんの人数が落ち着いてくると、ひとりひとりの話をじっくり聞くことができますし、自分の考えをまとめる時間ができるようになります。患者さんの話を聞いていて「何かおかしいぞ」と気がつくことができるようになるんですね。今はお年寄りの患者さんが多いのですが、特にそうなんです。ご本人はとにかく悪いほうに悪い方に考えてしまうんですが、ゆっくり話を聞いて不安をとりのぞいてあげると、それだけで症状が良くなるんですよ。この年になると、こういう仕事なんだと思いますね。
 今後はもっと患者さんの人数が少なくてもいいと思いますね。そうしたらもっと患者さんのことを考えられると思います。本当の医療はそんなに多くの患者さんを診られるものじゃない。患者さんにきちんと向き合うには時間が必要です。
 診察の際にずっと心がけていることは「自分が患者だったらどう思うか」ということです。自分が治療を受ける側だったらどうしてもらいたいか、どこでどういう説明をしてほしいかということは常に考えています。実際に、自分が患者になった経験もありますよ。私は心臓があまりよくなくて、ずっと薬を飲んでいたんですがだんだん悪くなって、このままでは診療は続けられなくなるんじゃないかという状態だったんです。ところが心筋の一部を電気で焼いて不整脈を止める手術を受けたら、ぴたっと良くなった。それで元気になったんですが、入院しているときは「こうしてほしいな」とか、いろいろ思うことがあるんですよ。だから相手の立場にたって考えなきゃいけないというのは、前々から考えてはいたことですが、そのときはさらに強く思いましたね。

日記が一日の締めくくり

 診察のある日はいつも朝7時に起きます。8時半にここについて、9時から6時半くらいまで診察して、家に帰るのが7時くらいでしょ。それから食事をして風呂に入っていると、趣味などに使える時間がないんですよ。それが今いちばん困っていることですね。引退してからやりたいことをやろうと思っています。毎日かかさず続けているのは、寝る前に日記をつけること。学生時代から、もう何十年も続いています。若い頃はたくさん書く日もあれば、空欄の日もあったんです。でもだんだん習慣になって、1行でも2行でも毎日書かないと気が済まないようになりました。昔の日記を読み返すことはないですねぇ。だから「何のために書いているんだろう?」と思うこともありますよ(笑)。でもね、たとえば将来ね、子供たちが読んでね、親は「こんな風に考えていたんだ」とか「こんなことがあったんだ」と思うときがあるかもしれないなぁ、なんて思うときもありますしね。だからと言ってそのために書いているというわけでもないですし、自分でもよくわからないんですけどね(笑)。
 健康で気をつけているのは食事ですね。心臓のこともありますから、塩分を少なくとか、蛋白をとりすぎないようにとかは考えています。家では家内が気をつけて食事を作ってくれて、客がくるとうちの味噌汁には味がないなんて言われるくらいですが、やはり本人も気をつけないといけないです。昼食は仕出しのお弁当を食べていますが、お新香は食べない、おかずは半分残すとか、工夫しています。
 スポーツは昔から不器用で苦手なんですよ。小学校の頃から走るのが嫌いで「どうして運動会で徒競走なんてあるんだろう」なんて思っていました(笑)。でも大学を卒業してからかな、どうしてもゴルフをやらなくてはいけないはめになってしまって、無理やり連れていかれたんです。はじめは嫌々でしたが、あれはスポーツのセンスがなくても楽しめるんですね。だから今でも私の唯一の運動です。ゴルフはスコアを上げるという目標が分かりやすいのもいいんですよ。一緒に行くのは大学の同級生やこの近辺の耳鼻科のお医者さんなどです。ゴルフはコミュニケーションに役に立つと言いますが、本当にそうですね。やっている最中は無理にしゃべらなくてもいいですし、それでも自然とうちとけて友達になれますからね。ゴルフはおすすめです。
 いつかやりたいと思っているのは写真です。そもそも「写真機」というのが好きなんです。一時期は医師会の写真部にも入っていたのですが、そこでは自分の撮りたい写真とは方向が違うような気がして、いつの間にか離れてしまいました。私は風景や花を普通に撮るのはあまり好きじゃなかったんです。たとえば花を撮る時に、図鑑のような撮り方をする人が多いでしょう。咲いている花を真ん中に置いて、影のないように撮る。そうするとどれも似たような写真ばかりに見えるんですよね。私はもっと花の位置や、影や、色を工夫して、私なりの写真が撮りたいと思うんです。今はカメラを持って歩くことはありませんが、何かものを見るときには「こっちから見たらどうなっているんだろう」「背景の色が変わったらどうなるだろう」などと、いろいろ考えながら見てしまいますね。引退して時間ができてからまたカメラを持つのを楽しみにしています。

取材・文/松本春子(まつもと はるこ)
編集者として10年間出版社に勤務した後、独立。フリーライター・フォトグラファーとして、心身の健康をテーマに活動中。理想的なライフスタイルの追究をテーマに執筆を手がけている。

角耳鼻咽喉科医院

医院詳細ページ:http://www.qlife.jp/hospital_detail_570907_1
kaku_clinic_b02.jpg kaku_clinic_b03.jpg kaku_clinic_b01.jpg
医院があるのは竹の塚駅のすぐ前にあるビルの2階。エントランスはシックなホテルのよう。「普通の病院のような外見にしたくなかった」と院長先生。
東武伊勢崎線・竹の塚駅から徒歩1分。詳しい地図は医院詳細ページから。

診療科目

耳鼻咽喉科

角郁夫院長略歴
角郁夫院長
昭和32年 東京医科歯科大学耳鼻咽喉科卒業
昭和42年 角耳鼻咽喉科開設




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