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[クリニックインタビュー] 2010/05/14[金]

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大学病院が医療の最先端とは限りません。患者のこと、地域のことを第一に考えながら、独自の工夫で医療の最前線に取り組んでいる開業医もたくさんいます。そんなお医者さん達の、診療現場、開業秘話、人生観、休日の過ごし方、夢などを、教えてもらいました。

第66回
よこすかレディースクリニック
横須賀 薫先生

人との関わりに導かれて

 医者になろうと思ったのは、高校一年のときです。十二指腸潰瘍を患っていたのですが、それが体育のあと穿穴して腹膜炎になってしまって。もう、死にそうに痛かったです。すぐに病院で手術をしてもらったのですが、そのときの担当医が偶然にも高校の先輩でした。入院しているあいだ、その先輩は毎日回診に来るたび「お前も医者になって、この恩を返せ」と言ってきて(笑)。私はそのころ「将来は本田技研に入って、車を作りたいな」なんて思っていたのですが、その先輩のおかげで途中から医学部志望になりました。もし先輩に会わなければ、今ごろ本田技研の研究所にいたかもしれません。
 医学部時代、「県人会」という集いがありました。卒業して医者になった先輩方と在校生が定期的に集まるのです。幹事の仕事は先輩方全員に参加を確約させること。あるとき私が幹事をやることになったのですが、卒業した先輩のなかで一人だけ、一回も出席したことのない人がいまして。名簿を見ると、この方もまた私の出身高校の先輩でした。私が連絡すると「お前、後輩だろう。お前が婦人科に入るつもりがあるなら、会に参加してやる」と言われて(笑)。当時は脳外科医になりたいと思っていたので、とりあえず「じゃあ考えてみます」とだけ言って、なんとか参加してもらいました。
 ところがその集いで、僕が途中から酔っ払ってしまって。気づいたら、産婦人科の助教授の隣で飲んでいたんです。そこまでは覚えているんだけど…翌日の朝寝ていたら、昨晩一緒に飲んだ助教授から電話がかかってきました。「回診があるから、今からおいで」。何を約束したか覚えていなかったのですが、一応伺って、そこにいたほかの先生方にも「横須賀です、宜しくお願いします」なんて自己紹介して、結局そのまま産婦人科になったというわけです。
 僕の人生、折につけ「高校の先輩」が登場する。そして医者の道へ、うまい具合に方向づけられてしまった感じです。縁って、面白いですね。

あなどれない「漢方薬の力」

 大学卒業後は、癌研究会附属病院で勤務しました。そこで私を育ててくださったのは、故増淵一正先生です。先生は、子宮がん検診における細胞診を日本で最初に確立した、私がもっとも尊敬する方です。手術はもちろん上手だし、頭はいいし、人の扱い方もうまい。ただちょっと性格が極端で、可愛がってくださるときと怒られるときの差が激しかったですね。外見は好好爺だけど、中身はカミナリオヤジなんです。さっきまでニコニコ、丁寧に教えてくださっていたかと思えば、僕ら若い医者がおしゃべりして騒いでいると「場所をわきまえろ!」といきなり怒鳴る。怒られて当然なのですが、毎回びっくりしました。いつカミナリが落ちるか、わからなかったですね。
 私の専門は婦人科癌でしたが、その後東京女子医科大学で勤務することになり、教授のすすめで再び産科も手がけるようになりました。至誠会第二病院勤務の後、開業してからは町医者として、婦人科一般、婦人科検診、妊婦健診、不妊症、内科、漢方治療など幅広く行っています。
 漢方治療を行うようになったのは、癌患者の終末治療がきっかけでした。私は長いこと癌治療に携わってきましたが、なかにはなかなか良くならない方もいらっしゃいます。そういった方の状態を少しでも和らげるために、免疫療法や(医療用)麻薬、漢方薬などが使用されます。漢方に関しては、興味をもつ医者とそうでない医者がはっきり分かれていますね。漢方のことをあまり知らない先生方はサプリメントの一種だと思うようですし、ある程度やったことのある先生方はそう思わないでしょう。
 患者さんの性に合っていれば、早くて2週間くらいで効き目があらわれることもありますが、漢方治療はたいてい2~3ヵ月を目安に経過を見ていきます。たとえば子宮筋腫だと、7割くらいの人は大きさが変わらないか、もしくは小さくなる効果があります。まったく効果がなく、さらに少し大きくなっている場合、もちろん漢方が合わないケースもありますが、患者さんがお薬をちゃんと飲み続けていないことも多いですね。

患者さんと医者は「対等」であるべき

 ほかの治療と同じように、漢方治療はケースバイケースで変わってきます。患者さんの考えや年齢、お子さんを持つ・持たないなど今後のプランを考慮しながら、まずは診察してどういった状態かを確かめ、治療法を患者さんと一緒に決めていくのです。
 この「一緒に病気を治していく」姿勢は、婦人科の場合とても大切です。なかには「お金を払っているんだから、さっさと治してよ」と言う人もいる。僕もできれば治してあげたいけれど、婦人科、とくに不妊症などは、それが可能な分野ではありません(体外受精などを除いた場合)。そういうときは「悪くなるのは早いけど、良くなるのは遅いんです。少しずつ、しっかり治していきましょうね」と言うしかありません。
 患者さんに対して、ホテルのお客様のように接する病院もあります。でも、患者さんは病気を疑っているか、あるいは治療のために病院へ来ているわけだから、それはちょっとおかしいと思います。患者さんと医者は、この先も共に病気と向き合い、話をして、治療しなければなりません。そんな状況で「患者様様」と対応するのは、何かをごまかしている気がします。患者さんと医者は同志なのだから、対等の関係であるべきだと思います。
 ただ、患者さんが話しやすい環境をつくるようには気をつけています。声を荒げたり、頭ごなしにお話ししないのはもちろん、「いつでも気軽に話せるように」とは考えていますね。
 ありがたいことに、患者さんからはよく「先生には何でも話せる」と言われます。僕は見た目が男っぽいわけではないし、話し方も穏やかなほうだからでしょうね。それに僕はいつも女の人に囲まれています。家のなかでは、奥さん、娘二人、メスの飼い犬。職場では看護師、受付、患者さん、みんな女性です。僕が男っぽくなくなるのも、わかるでしょう? まぁ、さすがにもう慣れましたけれど(笑)。

女性の体は、男性とは違う。「平等」を間違えないこと

 最近は何でも「男女平等」にしたがる女性が増えていますね。社会的なことは平等でいいと思うけれど、酒、タバコ、セックスに関しても「男性なみ」にしたい方が増えています。だけど産婦人科医としては、やっぱりタバコはやめてほしい。タバコは遺伝子に傷がつきやすく、異常な細胞の増殖回路にスイッチが入ると、癌などのリスクが高くなってしまいます。昔はタバコにフィルターがなかったでしょう? 指先にヤニがついて、そこから癌になることもありました。妊娠中の女性がタバコを吸えば、赤ちゃんへの悪影響も大きいです。最近は女性の禁煙率がなかなか上がっていないから、心配ですね。
 セックスに関しても、「いろんな人とするのが趣味なの」なんていう女性もいるくらい、オープンになってきました。でも、女性と男性の体は違います。女性は気をつけなければならないことがたくさんあって、こればかりは「男女平等」とはいかないんです。
 とくに若い女性に言いたいのですが、セックスのときはコンドームをしてほしい。たとえば局所に炎症があって、そこにヒトパピローマウイルス(HPV)がつくと、それだけで子宮頸癌を発症することもあります。でもコンドームをすれば、子宮頸癌も、クラミジアなどの性病も防ぐことができる。若い子たちに、むやみにセックスを「するな」とは言わないけれど、コンドームだけは忘れないでほしいですね。
 最近、子宮頸癌ワクチンも認可されました。できれば11歳から15歳くらいの女性で、まだ性交渉のない段階で打っておくのが効果的です。でもまだ費用が高く、だいたい5万円くらいかかります。こういうところに、国や都道府県はお金を出すべきだと思いますね。最初は費用がかかるかもしれないけど、30年後くらいには子宮頸癌患者が減るので、比較すればプラスになるはずなんです。その点、ちょっと日本は遅れているかもしれません。

いつか、介護施設をつくりたい


読書が趣味の院長。読み終わった本は院内に並べ、希望の患者さんに貸し出している。

 趣味は、以前はゴルフでしたが、今はもっぱら読書です。科学や医学などの専門書から、村上春樹やハリーポッターまで、ジャンルは問いません。最近は福沢諭吉や吉田松陰の本にはまっていて、「歴女」ならぬ「歴中年」となっています。もっぱら、家で本読みながら酒を飲み、気づいたら寝ていますね。読み終わった本は医院に置いて、ご希望の患者さんにお貸ししています。話題の本も多いので、皆さん喜んでくださいますね。
 これからの夢は――TOTO BIGがもし当たったら、ショートステイの介護施設等をつくりたいと思っています。でも、当たらないんだよね(笑)。私のプランは、同じ敷地内に寺と出産施設と介護施設があるような場所。お坊さんと医者、介護士、保育士がいつも近くにいるんです。そこでは、赤ちゃんが生まれてくるときは医者が見て、小さな子どもたちをおじいさん、おばあさんが見てくれる。子どもたちは成人したら巣だっていくけど、またいつか戻ってくる、そして亡くなるときはお坊さんに送ってもらう、みたいなね。一箇所ですべてが始まって終わる、そんな施設を作れたらいいですね。お金と土地がないと難しいのですが、自分が死ぬまでには実現させてみたいですね。

取材・文/瀬尾ゆかり(せお ゆかり)
フリーライター・編集者。編集プロダクション勤務を経て独立。医学雑誌や書籍、サイトの編集・記事執筆を多数手掛ける。ほかに著名人・文化人へのインタビューや、映画・音楽・歴史に関する記事執筆など、ライターとして幅広く活動している。

よこすかレディースクリニック

医院ホームページ:http://www.yokosukalc.info/

きれいで暖かい雰囲気の院内。病院ではなく、誰かの家に遊びに来たかのような気持ちになる。
京王線仙川駅から徒歩1分。詳しい道案内は医院ホームページから。

診療科目

婦人科一般、婦人科検診、妊婦健診、不妊症治療、内科、漢方治療

横須賀 薫(よこすか・かおる)院長略歴
横須賀 薫院長
1984年 岩手医科大学大学院卒業
1986年 Chicago 大学産婦人科
1981年、1988年 癌研究会付属病院産婦人科 (2回勤務)
1993年 東京女子医科大学産婦人科
1994年 東京女子医科大学同窓会立至誠会第二病院産婦人科
2002年 よこすかレディースクリニック開業


■資格・所属学会他
医学博士、日本産婦人科学会専門医、日本臨床細胞学会員、日本臨床細胞学会認定 細胞診専門医、国際細胞病理診断医(FIAC)、日本医師会認定産業医、母体保護法指定医、サプリメント・アドバイザー、日本旅行医学会認定医、日本周産期・新生児医学会 新生児蘇生法「1次」コース(Bコース)認定



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