第67回 患者さんの“居心地”を追求した、ハードとソフト
[クリニックインタビュー] 2010/05/28[金]
大学病院が医療の最先端とは限りません。患者のこと、地域のことを第一に考えながら、独自の工夫で医療の最前線に取り組んでいる開業医もたくさんいます。そんなお医者さん達の、診療現場、開業秘話、人生観、休日の過ごし方、夢などを、教えてもらいました。
第67回
医療法人 明皐会 石坂整形外科クリニック
石坂淳院長
父の遺志を受け継いでの開業
医師を目指したのは、父がこの地で開業していたからです。実は大学受験をする際に、「僕は医者にならない」と言ったら、ずいぶんと説教をされまして、結局は医学部を選びました。父が地域の皆さんから尊敬を受けている姿は子供の頃から見ていましたから、一旦説得をされた後は、迷いはなかったですね。
医学部時代は正直言って不真面目な学生でしたが(笑)、研修医になった頃からは、実際に患者さんが治ったり感謝の言葉を受け取ったりして、そこで医師としてのやりがいがどんどん大きくなっていきましたね。
性格が大雑把なので(笑)外科系が向いているだろうな、とは思っていました。それに外科は「手術」がありますから、診察室で患者さんを診るだけでなく、一日のなかで変化をつけられる点も私向きなのです。外科系のなかで整形外科の道に進もうと思ったのは強い理由があったわけでなく、「あえて父と同じ科を外すこともないか」といった感じでしたね。手術は好きな方でしたので、開業した後もしばらくは懇意の病院で手術室を借りてやっていました。残念ながらその病院が移転してしまったので、今ではもうやっていませんが。
開業後の立ちあがりは予想以上に順調でした。近隣の方々や、地域の医師の皆さん、そして金融機関も、皆さんが応援してくれましたね。やはり父の信用があったからだと思います。父が亡くなってから10年間のブランクがあったにもかかわらず、当初の患者さんは父の時代の人が占める割合が少なくありませんでした。地域に待ち望まれた形で開業できたのは、幸せなことだと思います。
丁寧さと効率の両立に苦心
先輩医からは「患者を自分の親と思って診ろ!」という言葉を幾度となく聞かされました。当たり前の話だと思うでしょうが、常にその心を持ち続けることは意外と難しいのです。こんな経験があります。ある時、おばあちゃんの患者さんから手紙を貰いました。「年寄りの話をいつも根気良く聞いて下さって、有難うございます」という内容でした。読んで「はっ」としましたね。実はそれまで、おばあちゃんの話を聞いてはいましたが、内心では「まどろっこしいなあ、面倒だなあ」と思って、辛抱していた面がありました。外で待ち時間が長くなってイライラしている他の患者さんも気になりますしね。多分、そんな僕の気持ちは、患者さんにも伝わってしまっていたと思います。それでもおばあちゃんは、感謝の言葉をわざわざ書き綴って、手紙にして持ってきてくれた。患者さんの「話を聞いてもらいたい」という気持ちを大事にしなければいけないな、と自らの戒めにしました。
だから今でも、丁寧な診療を心がけています。時間がかかると当然、他の患者さんからは「待たせ過ぎだ」というクレームが入ります。一時期は、待ち時間が3-4時間になってしまうことが珍しくありませんでした。
そこで、丁寧さと効率を両立できないかと工夫をしました。例えば、自分で何でもやるのは止めてスタッフに問診や診察準備をしてもらい、準備が出来てから僕は診察室に入るようにしました。そうすると、医師が2つの診察室を行ったり来たりしてフル稼働できるので、診療に使える時間が長くなります。あるいは、診察時は背後にスタッフについてもらって、パソコン入力を代行してもらうようにしました。パソコンの操作時間のロスをなくすためです。スタッフ全員でパソコン画面を共有しながら仕事をするカルチャーになったので、2つの診察室だけでなく、受付やリハビリ室でも状況を把握しながらスタッフが自主的に動くようになりました。院内全体の効率が上がったと思います。
スタッフが気持ちよく働ける環境づくりも大事
スタッフにも恵まれたと思います。僕はスタッフにも丁寧に患者さんに接するようにと言っています。そして、彼女達にゆとりを持って仕事をしてもらえるよう、少し多目に雇っているんです。忙し過ぎて心に余裕がなくなると、他人に優しくはできませんからね。
最初のうちは、僕自身でも接遇面の指導もしましたが、今ではスタッフ同士で上手く教え合ったりしながら、チームワーク良く仕事をしてくれています。
毎日朝礼をして当番制で1分間スピーチをしてもらったり、定期的に個人面談をしたり、僕も出来るだけスタッフの状況を把握するように気を配っているつもりです。食事会やバーベキュー、職員旅行など、院内の懇親イベントも月1回くらいやっているんですよ。患者さんに“居心地の良い診療”を提供できるように、スタッフ自身が気持ち良く働ける環境づくりは大事だと思っています。
整形外科のスタンダードに遅れない
キャンプ、スキーや旅行などアウトドアが好きで、以前は家族で土日はよく出かけていました。今でも休日は3人の子供と遊びますよ。長男の野球チームの引率当番もしていますし。ゴルフにも時々行きます。
家には仕事を持ちこみたくない人間なので、仕事が溜まった時は院内に泊まってしまいます。毎日朝から夜まで診療で忙しいから、経理関係など書類が積もれてしまうんですよ。週に1日は泊まりますね。でも泊まった時には早起きをして、町内を1時間くらい散歩するから、かえって健康には良かったりして(笑)。
患者さんが増えたからといって、あまり分院を作ったり、他の医師を雇って経営拡大していこうというつもりはないんです。
それよりも、きちんと最新の医療を患者さんに提供し続けることに労力を使いたいと思っています。例えば、関節リウマチの治療法では生物学的製剤という新しいタイプのお薬が使われ始めているのですが、当院も大きな病院と連携して取り組みを始めています。本格実施するには、処置室を新たに作ったりお金もかかりますが、経営拡大よりもそちらに興味があります。当院の医療機器や什器は最新のものを揃えていますが、医学もどんどん進歩しています。学会にもなるべく行くようにして、クリニックであっても整形外科の「スタンダード」から遅れないようにしたいと思います。
医療法人 明皐会 石坂整形外科クリニック
医院ホームページ:http://www.myclinic.ne.jp/isizaka/pc/index.html

JR相模線・小田急小田原線・相鉄線の海老名駅から徒歩15分。高級ペンションのような建物が見えてくる。30台収容の広い駐車場も完備。
詳しい道案内は医院ホームページから。
診療科目
整形外科・リウマチ科・リハビリテーション科
石坂 淳(いしざか・じゅん)院長略歴

1998年 慈恵医大整形外科学教室 助手
2003年 富士市立中央病院整形外科 医長
2006年 厚木北部病院整形外科 勤務
2007年 石坂整形外科クリニック 開業 院長就任
■所属学会ほか
日本整形外科学会認定整形外科専門医、日本整形外科学会認定リウマチ医、日本整形外科学会認定スポーツ医
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