[クリニックインタビュー] 2010/06/11[金]

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大学病院が医療の最先端とは限りません。患者のこと、地域のことを第一に考えながら、独自の工夫で医療の最前線に取り組んでいる開業医もたくさんいます。そんなお医者さん達の、診療現場、開業秘話、人生観、休日の過ごし方、夢などを、教えてもらいました。

第69回
医療法人社団三友会 高円寺整形外科
大村 文敏先生

小説をきっかけに医学を志す

 僕が医者を志したのは中学生の頃。きっかけは小説なんです。僕は昔も今も読書好きで、当時もたくさん本を読んでいたのですが、その中に、イギリスのA.J.クローニンという作家の本がありました。彼の小説に強い感銘を受けたんです。
 クローニンはもともと医者で、小説には、実際に彼が医療の現場で見聞きした生の体験が色濃く反映されています。だから、読んでいると非常に生き生きと、人の命を救うことの感動や、そもそも命がこの世に生まれて来ることの尊さが伝わって来るんですよね。「医者になりたい」と強く思うようになりました。

大学病院から地域医療へ

 そんな原体験があるから、医大に進学した後も、患者さんとじかに接することが出来る臨床医を目指しました。‥と言うより、僕はもともと人と接することが大好きで、だからこそクローニンの小説に共感したのかもしれませんね。卒業後、母校の日本医科大学の整形外科に入局して、外来と手術を担当。13年間、本当にたくさんの患者さんを診ることになりました。
 ただ、大学病院は、患者さんとの関わり方がどうしても一期一会になりがちです。難しい病気の手術をして、後は地域の病院にお返しする、と言うのかな。それが大学病院の役割だから当然なのですが、人が好きでクローニンの小説育ちの僕は、もっと患者さんと長期的に、そして密接に関わっていきたいと思うようになりました。それで、 95年に高円寺で開業することにしたんです。

高円寺との出会い

 実は、医師として働き始めた年から、高円寺には週1回非常勤で通っていました。大学のOBがこの町で開業されていて、声をかけて下さったんです。そして13年後、その先生が亡くなられたとき、ご家族から「引き継いでもらえないか」というお話を頂きました。ちょうど「もっと患者さんと密接な医療を」と考えていた時期とも重なり、友人の医師と二人で高円寺に根を下ろすことを決意したんです。
 以来、15年。非常勤で通っていたときから合計すれば、28年間高円寺で診療を続けています。これだけ長いと、おばあちゃん―娘さん―お孫さんと、三代で診ているご家族もあるんですよ。

“かかりつけのお医者さん”が僕の理想

 いよいよ自分の病院を持った訳ですから、ここでは開業当初から僕の理想とする医療を実践しています。それは一言で言うと、“かかりつけのお医者さん”。体に関する心配事を、何でも気軽に相談してもらえる存在でありたいんです。
 だから、僕の病院では、「お腹が痛い」「熱が出た」など、整形外科とは直接関係ない病気で来院される患者さんもたくさんいらっしゃいますよ。僕はそこで「整形外科だから関係ない」とは言いたくないんです。まずはお話を伺って、診療への間口を広げたい。その上で、僕で分かる範囲であれば診断も処方もするし、「これは専門の先生に診てもらった方がいいケースだな」と思えば、すぐに適切な病院を紹介するようにしています。
 だって、痛みってとても漠然としたもので、たとえばお腹が痛いとき、患者さんはその原因が腸なのか肝臓なのか、それとも外科的な要因なのか、自分で判断して受診することなんて出来ませんよね。だから、まず気軽に相談出来るかかりつけの医者が必要だし、僕はそういう存在でありたいんです。それも、一つの地域に根を下ろして、一人一人の患者さんの仕事の様子や食生活、これまでの病歴まで把握していれば、それだけ診断の精度も高くなる。早期発見にもつながりやすいですよね?そうやって、地域の方々が日々元気に過ごせるようにサポートすることが、僕の人生の喜びなんです。

新しい治療技術は積極的に取り入れる

 もう一つ、治療に関して決めていることは、新しい良い方法があれば、どんどん取り入れていこうということです。最近も新型のCTスキャンを導入しましたし、リハビリテーションの機械も2年前に新しく入れ替えています。そう言えば、電子カルテもいち早く導入した方でしたね。新しいもの好き、メカ好きということもあるのですが(笑)、使える良いものはどんどん使って、診療のウィングを広げていきたいと思っています。日々こまめに医療機器のパンフレットに目を通しますし、時間を見つけて医療機器の展示会にも足を運んで、最新の情報を入手していますよ。

高円寺ならではの持病って?

 ちょっと高円寺の話をしましょうか。普通、整形外科は一年で冬が一番忙しい時期に当たります。どうしても寒さで腰痛や膝痛を悪化させる方が多いですからね。ところが、うちの病院が一番忙しいのは、夏。それは、高円寺名物・阿波踊りがあるからなんです。
 阿波踊りって、爪先立ちで踊るし、本番前は皆さんついつい練習に熱が入ります。だから阿波踊りの前後は、足のどこかしらを痛めた患者さんでうちは大忙しですよ。でも、それもこの町ならではの現象。こうやって、高円寺の魂である阿波踊りをサポート出来ることが嬉しいですよね。
 9年前、開業以来苦楽を共にして来た友人の医師が急死しました。その彼が病床で言っていたんです。「普通に毎日が来ることが一番幸せなんだ」って。だから僕は、あまりオンとかオフとか、オフの日に何か特別なことを!なんて考えません。毎日しっかり患者さんと向き合い、休みの日には家族と食事をしてちょっと買い物をして‥そうやって“普通に”過ごす毎日を大切にしていきたいですね。

取材・文/西本摩耶(にしもとまや)
フリーランス・ライター。広告代理店勤務を経て、2007年より独立。ビジネス人インタビュー、広告業界関連書籍など執筆多数。近著は『プレゼンのトリセツ』(ワークスコーポレーション刊、共著)。

医療法人社団 三友会 高円寺整形外科

医院ホームページ:http://www.sanyuukai.com/index.html

JR中央線高円寺駅南口から徒歩3分。美しいオフィスビルの4階にある院内は診療室とリハビリ室に分かれ、それぞれ最新の医療機器が並ぶ。北口の高円寺医院と2院体制。
詳しい道案内は医院ホームページから。

診療科目

内科・消化器科・整形外科・リハビリテーション科

大村 文敏先生略歴
大村文敏先生
1982年 日本医科大学卒業
1982年 日本医科大学第一病院整形外科入局
1995年 医療法人社団三友会 高円寺整形外科院長


■所属学会
日本整形外科学会(認定専門医)、日本脊椎脊髄病学会



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