[クリニックインタビュー] 2010/06/18[金]

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大学病院が医療の最先端とは限りません。患者のこと、地域のことを第一に考えながら、独自の工夫で医療の最前線に取り組んでいる開業医もたくさんいます。そんなお医者さん達の、診療現場、開業秘話、人生観、休日の過ごし方、夢などを、教えてもらいました。

第70回
医療法人リーベ 小川クリニック
小川 志郎院長

兄の言葉がきっかけで医師への道を選ぶ

 医師になろうと初めて思ったのは、中学生のころでしたね。実は、その当時は文学に興味があって、本当は作家になりたいと思っていました。
 うちの父は医師ではなくサラリーマンでしたが、祖父と曾祖父が医師だったこともあり、兄は医師を目指していて「ぜひおまえも医者になれ」と勧められたのがきっかけでした。「作家もいいけど、作家じゃ食えるかわからない。でも医者になれば、医者をやりつつ作家にもなれるぞ」と言われて、「そりゃ、もっともだな」と(笑)。
 そこから医師を目指して勉強を始めたのですが、もともと文学に興味があったせいか、いろいろな医学の勉強をするうちに、「精神的なことで体の状態も変わる」ということに気づき、人の心というものに興味を持ち始めました。決定的になったのは、三島由紀夫の「音楽」という小説を読んだことでした。精神分析医が主人公の話しだったのですが、読むうちに興味を惹かれて、自分もこういう仕事ができたらいいな、と思ったのです。
 ただ、精神科に実習に行ったとき、「ここはちょっと違うな」と感じました。当時、大学病院の精神科では統合失調症の患者さんが主に入院していたこともあるのかもしれません。そのうち「心療内科」という科を知り、これが自分のやりたいことといちばん近いのではないかと思ったのです。

変わりつつある、患者さんの意識

 医学部を卒業し、内科研修医を修了した後に入局した東京大学心療内科でお世話になった、当時医局長だった野村先生と、講師だった久保木先生。このお二人には本当にお世話になりました。先生方に見捨てられずに面倒を見ていただいたおかげで、なんとか続けてこられたのだと思っています。
 開業前に勤務していたある病院で、どうも居心地が良くなくて野村先生に相談したことがあったのですが、そのときに「石の上にも三年だよ。もう少し頑張ってみれば、そのうちなんとかなるから」と言われ、結局四年頑張りました。結局居心地はあまりよくならなかったのですが(笑)、今思えばそこでの経験が後の自分にとって、よい経験になったと思っています。それも、あの時の先生のお言葉があったからこそ、なのですね。
 開業した当時は、まだ「心療内科」というものが世間にあまり認知されていなかったので、患者さんの多くは内科で検査して、異常なしといわれて、でも具合が悪くてこちらに来るという流れがほとんどでした。「職場に言いにくいので診断書に病名を書かないでほしい」とおっしゃる方も多かったですね。でも今は、昔と比べてわりとみなさん気軽にいらっしゃっている、という感じがします。ネットなどで病院を探して、ご自分の意思で来る方がほとんどで、患者さんの意識もここ10年ぐらいで変わっているな、と感じます。
 心療内科というものの認知度が上がったこともあるのでしょう。でも、とくに今、うつ病などはとても増えていて、本当に誰でもなり得る病気と言えます。その人の性格が弱いとか、変わっているからとか、人間関係をうまく築けないからとか、そういうこととは関係なく、本当に誰が、いつ何のきっかけでかかるかわからない病気なのです。ですから、病気であることはもちろん、心療内科にかかることも、何ら恥ずかしいと思ったり、自分を責めたりすることはないと思います。

十分な説明で不安を取り除きたい

 心療内科では、心理社会的ストレスから来る身体的異常を専門に診ています。これを「心身症」と言いますが、人間の心と体はつながっていて、心の状態が体調に影響したり、逆に体調不良が心の不調を招いたりすることもあります。ただ、人間にはもともと自然治癒力というものが備わっているので、軽い心身症なら、内科の先生に診察してもらって、話しをして、薬を処方してもらうことで十分に治ることもあるのです。
 そこで治らない場合に、心療内科に来ていただくことになりますが、うつ病が重症化した場合や、躁うつ病、統合失調症などの患者さんは心療内科で診ることはできないので、精神科をご紹介することになります。心療内科はいわば、内科と精神科の中間的存在なのだと考えています。
 日々、患者さんと出会い、治療を行うなかで心がけていることは、自分の理解した範囲で、できるだけ詳しく説明し、患者さんに納得してもらうことです。たとえば、「もともとこういう体質で、こういうストレスが加わっているからこういう症状が出ている」とか、「性格も関係しているかもしれない」など。内科のように、「血液を取って検査して、結果がこうだからこうなっている」とはっきり言いきれないものもありますが、できる限り詳しく説明し、納得してもらうことで不安を取り除くようにしています。
 また、心身症はよくなったり、悪くなったりを繰り返す波もあるので、その都度「この病気はそういう性質だから」「こういうストレスが加わったからこうなったんだね」など、状況と理由を説明するようにしています。
 1人1人の患者さんにあまり長く時間がとれないのが悩みどころなのですが、病気とともに患者さんの生活全体を把握しながら、心の交流を通して、「来てよかった」という気持ちで帰っていただけるといいな、と思っています。
 対人関係や性格がストレスの原因になっている場合など、薬だけではなかなか治らない問題の場合は、臨床心理士の資格を持ったカウンセラーによるカウンセリングも並行しておこないつつ、治療をしています。

家族との時間がリフレッシュに

 多くの患者さんと接する中で自分の心身をリフレッシュできるのは、やはり家族との時間ですね。実はあまり趣味がなくて(笑)、これまでは子育てに没頭していました。夫婦共働きで、ふだんはあまりゆっくり子どもたちと接する時間がなかったので、休日は家族で相談して、テニスをしたり、温泉に行ったりと、遊びに出かけていました。
 息子二人なのですが、上が20才、下が18才になり、この春から上の息子が北海道に行ってしまったので、これからは子どもと出かけることも少なくなるのでしょうね。ただ、今は1カ月に1回ぐらいは北海道に行くようになりましたよ。大学時代に中型のバイクに乗っていたので、今度はレンタルバイクで北海道を走ってみようか、なんてことも考えています。
 この「家族との時間」と「自分の好きなことに集中する時間」を持つことで、気持ちが切り替わって仕事に集中できるのだと思います。
 ですから、休みの日はなるべく仕事のことを考えないようにしています。それで自分をリセットすることが大切なのかもしれません。家でボーッとしていることはほとんどなく、つねにどこかしらに出かけているので、意外とアウトドア派なのでしょうね。
 この仕事をしていてよかった、といちばん感じるのは、患者さんの変化を目の当たりにしたときです。最初に来院したとき、病気の症状が重いときと改善したときでは、性格さえ変わったように感じるというか、まったくの別人に見えることもあって、そういうときには病気というものの不思議さ、人間の体と心の奥深さを実感します。それが、この仕事の醍醐味かもしれないですね。

取材・文/出村真理子(Demura Mariko)
フリーライター。主に医療・健康、妊娠・出産、育児・教育関連の雑誌、書籍、ウェブサイト等において取材、記事作成をおこなっている。ほかに、住宅・リフォーム、ビジネス関連の取材・執筆も。

医療法人リーベ 小川クリニック

医院ホームページ:http://urawaogawaclinic.web.fc2.com/

浦和の繁華街の一角にあり、誰でも気軽に通えるよう、受付や待合室もあたたかい雰囲気に工夫されている。JR浦和駅より徒歩2分。
詳しい道案内は医院ホームページから。

診療科目

内科、心療内科

小川志郎(おがわしろう)院長略歴
小川志郎院長
1986年 新潟大学医学部医学科卒業。
1986年 東京女子医大第2病院(現在の東医療センター)で内科研修
1988年 東京大学心療内科入局
1989年 長谷川病院心療内科
1990年 氷川下セツルメント病院心療内科
1992年 埼玉社会保険病院内科
1996年 小川クリニック開設


■所属学会
日本心身医学会専門医、日本心療内科医学会専門医、日本内科学会会員



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