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[クリニックインタビュー] 2010/09/16[木]

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大学病院が医療の最先端とは限りません。患者のこと、地域のことを第一に考えながら、独自の工夫で医療の最前線に取り組んでいる開業医もたくさんいます。そんなお医者さん達の、診療現場、開業秘話、人生観、休日の過ごし方、夢などを、教えてもらいました。

第84回
高下小児科医院
高下泰三先生

止まらない子どもたちの歌声に感銘


子どもを包み込むような笑顔の高下泰三先生。
趣味は合唱で心と声を合わせるハーモニーが魅力とか

 僕が医師になったのは、製薬会社の札幌支店長をしていた父に「兄弟の1人ぐらいは薬を売るほうじゃなくて使うほうになってほしいなあ」とお酒を飲みながら言われたことでしょうか。さらに北海道大学の医学部で小児科を選択したのは、僕の医学生時代の小児科教授であった弘好文(ひろ・よしぶみ)先生への憧れもありました。弘先生は臨床家としても、また研究者としても尊敬していますし、師事した短い間にも多くのことを学ばせていただいた方です。実は僕が子どものころ、弘先生に診療をしてもらった思い出もあるんですよ。
 また、こんな経験も小児科へ進むきっかけになりました。青森の県立病院で研修をしていた12月、入院中の子どもたちのためにクリスマス会を開きました。そこでインターン仲間と “にわか楽団”を組んだのです。「きよしこの夜」では静かに目を輝かせて聴いていた子どもたちが、次の「お正月」になると1人の子が歌い出し、やがて子どもたちみんなが歌い出しました。それも同じ1番をずっと繰り返して、どの子も力いっぱいに大きな口を開けて歌っているのです。そのとき、僕の心の中で「子どもだ、お前の相手は子どもだ」と、誰かが言った気がするんですよ。

「子どもも先生に感謝していると思います」


受付・会計の応対もにこやかで丁寧だ。カウンターの下にはたくさんの絵本が

 僕は大学院生のころ、弘先生に引っ張られて愛育病院で初代の当直を務めました。札幌の愛育病院は、1957年に弘先生が中心となって、小児総合病院を建設する構想のもとにつくられた病院です。
 そこで僕が当直をしていた夜、肺炎で入院していたお子さんが亡くなったことがありました。残念なことに、誰もその子の死に立ち会うことができませんでした。お母さんは疲れ切って寝ていたし、僕も立ち会えなかった。安らかに亡くなったようですが……
 その時、初めて弘先生にしかられました。「スケジュール通りに巡回するようじゃダメだ。病気の重い患者さんには徹夜で付いていなさい」と。それ以後、症状の重い患者さんには僕がずっと付いているようにしました。次の日も北大で働くから大変なんですけれども。お母さんにはじゃまだったかもしれませんね。
 それでも、お子さんが亡くなった時に、どの親御さんも解剖のための献体提供に承諾してくださったのはありがたいことでした。普通は「今まで苦しんだ子どもの体にまたメスを入れるなんて……」と耐えられないものでしょうが、逆に「あんなに一生懸命にやってくださった先生には、子どもも感謝していると思います」と言ってくれたのです。100%のご家族が承諾してくれたことは献体先の北大病院でも実に珍しがられました。

子どもも大事、育てるお母さんも大事


予防接種後「シールはどれがいい?」と机の引き出しからズラリ。男の子もにっこり

 僕の診療でのモットーは「痛くなく、苦くなく、怖くなく」です。新しい薬を採用する時も、必ず僕と婦長とで味見をしながら飲みやすさについて相談します。だから、僕のかかりつけではお薬が嫌いな患者さんはいません。みんな自分から口を開けてくれます。注射をする時も、うちではちゃんと痛くない場所を選んでいます。これにもコツがあるんですよ。
 付き添いのお母さんには「大丈夫ですよ」とまず安心をしてもらって、お子さんをみている大変さをねぎらい、その努力をほめるようにしています。カウンセリングのようなものですね。それから、疾患の説明や生活指導をていねいに行っています。
 子どもの病気を治すには、お母さんやお父さんの役割も大事なんですよ。子どもはもちろんですが、お母さんからの話もじっくりと聞きます。時間がかかってもかまいません。お母さんから悩みを打ち明けられると、僕としては「待ってました!」という感じですね。お子さんを治すヒントが出てきたりもしますし、何よりも話すことでお母さんが安心できるでしょう?僕は患者さんとの心の交流が「癒し」の根底になくてはならないと信じています。

僕も体が弱く不登校の子どもだった


飾られた絵は患者の子どもたちが描いてくれた。
「まだまだ、たくさん取ってあるんですよ」と先生

 この医院でもう40年もやっていますとね、3世代、4世代と通ってきてくれる患者さんもいます。この前は、赤ちゃんの時から診ていた患者さんの結婚式に呼ばれて行ってきました。親御さんのほうも小学生のころから通っていまして、今でいう不登校の子だったんですよ。
 昔から、僕は他の医師仲間に「あいつは子ども好きだから」と紹介されて、よく不登校やおねしょ、慢性の腹痛や下痢などで困っているお子さんが来ていました。その場合は話をする時間がかかりますから、親子さんで診療後の時間に来てもらうんです。その間、お子さんには絵を描いてもらったりしました。僕はそれらの絵を取ってありますよ。


A:おねしょで悩んでいた子どもの絵

B:自分が水に飛び込む絵

 これは、低学年のころおねしょで悩んでいた子どもの絵です(右写真A)。池と言いますか、水が大きく描かれていますね。それが通ってくるうちに、これは小学4年生のころかな。自分が水に飛び込む絵(右写真B)を描いています。この絵には、おねしょを克服するイメージが見えますよね。この頃には本人にも自信がついて症状も良くなっていました。
 おねしょの場合には、漢方やうつの薬、点鼻薬などを、急ぐ必要性の有無などから選んで処方します。また、ぼうこうを訓練する方法も教えます。カレンダーには成功した日にマルを付けてもらって「日中はいくらお水を飲んでもいいけど、夕飯後には飲まないんだよ」と生活の指導もします。でも、ほとんどの時間は学校であったことや、おうちのことなどおしゃべりをしていますね。
 実は、僕自身が子どものころお腹の弱い子でした。朝にお腹が痛くなって学校をサボッったり、帰ってくる途中でウンチが我慢できなくて、物陰でしちゃったりね(笑)小学5年生までは、おねしょもしていました。そんな自分の体験を、子どもに話したりもします。ぐんぐん治る子もいれば、ゆっくりと時間をかけて治ってくる子もいる。それでも、例えばおねしょは小学校卒業までにたいてい治ることがデータとしてあるから、それを見せて安心してもらうんですよ。

子育て支援や地域活動の応援に奔走


「さっぽろ赤ちゃん110番」では長年にわたりボランティアで小児科相談の電話に応じている

 医療を行うほかにも、僕はボランティアとして「さっぽろ赤ちゃん110番」の理事長を約30年間務めています。これは1974年、当時よく報道されていた母子心中やコインロッカー事件などを契機に、一般市民のご夫婦が育児に悩む母親のための電話相談窓口として立ち上げたものです。今も北海道内外から相談がありまして、わたしも土曜日には「小児科ドクター相談」担当の1人として電話を受けています。受話器の向こうで涙を流されるお母さんもいらっしゃいます。スタッフはカウンセリングの勉強をしっかりと積んできた者なので、お悩みの親御さんにはぜひ利用してほしいと思います。
 その他にも、僕は頼まれたら断れない性分らしくて……ボランティア活動での肩書はたくさんありますね。札幌西ロータリークラブの会長もしていましたし、今は家庭福祉相談室後援会会長から札幌医師会のコーラスグループ代表、地元の子育て支援ネットワークの副代表等々、診療後のスケジュールはたいていぎっしりと詰まっています。講演なども頼まれるので、夜中にレジュメを書くときもあります。


先生と経験豊富なスタッフの方々。ホッと患者を安心させる雰囲気がある

 なぜそんなにボランティアをするかと聞かれることもありますが、僕がクリスチャンだからかもしれません。きっかけは英語の勉強でした。医学部2年の時、教会に通っていた友人に「英語の聖書研究」のクラスがあると勧められたのです。先生はアメリカ人でしたから、英会話の勉強になると思って僕はついていったんですね。今は聖書にある「自分を愛するように、あなたの隣の人を愛せよ」という言葉を胸に、日々活動をしています。
 子どもとじっくり向き合う作業は時間的にも体力的にもけっこう疲れるけれど、スポーツを終えた後のような楽しさが残りますね。向こうがなついてくると自分の子どもみたいでうれしくなるし、とても愛らしいですよ。やっぱり僕は、子どものことが根っから好きなんでしょう。
 もう80歳近くになって、この医院もいつまで続けられるか分かりませんが、僕は「子ども」に導かれてここまでやってきたし、これからも子どもたちのためになることを続けていこうと思っています。


取材・文/高橋明子(たかはし・あきこ)
東京の業界紙や編集プロダクション勤務を経て、札幌移住を機にフリー。各種雑誌やウェブサイトで地域情報や人物、住宅などの取材を行う。

高下小児科医院

医院詳細ページ:http://www.qlife.jp/hospital_detail_553109_1

高下医院では子どもから大人まで診察に応じている。3、4世代にわたって遠くから通う患者さんもいるとか。おもちゃや育児情報のチラシも置いてある。
JR「桑園(そうえん)」駅、地下鉄東西線「西18丁目」駅から徒歩約12分。車では札幌から北5条通りを西方向へ向かい、北4西16の交差点を越えた左側2軒目、第一ビル2階。西隣に提携パーキングがある。
詳しい道案内は、医院詳細ページから。

診療科目

小児科、内科

【さっぽろ赤ちゃん110番】
TEL/FAX:011-221-2523(月~水、金~土の10:30~15:30)
小児科ドクター相談:毎週土曜13:30~15:30(第1土曜は産婦人科医)

高下泰三院長略歴
高下泰三院長
1956年 北海道大学医学部卒業
1961年 北海道大学大学院医学研修科(内科系小児科専攻)博士課程修了
1961年 北海道大学医学部(小児科学教室)助手
1962年 財団法人小児愛育協会附属愛育病院(札幌)小児科医長
1968年 高下小児科医院院長


■資格、所属学会他
日本小児科学会、日本東洋医学会、北海道医師会常任理事、北海道学校保健会理事、日本医師会学校保健委員会委員などを歴任。現在「さっぽろ赤ちゃん110番」理事長など。



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