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[クリニックインタビュー] 2010/09/24[金]

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大学病院が医療の最先端とは限りません。患者のこと、地域のことを第一に考えながら、独自の工夫で医療の最前線に取り組んでいる開業医もたくさんいます。そんなお医者さん達の、診療現場、開業秘話、人生観、休日の過ごし方、夢などを、教えてもらいました。

第85回
医療法人 おいだ産婦人科
種田征四郎先生

縁に導かれ、産婦人科院長に

 実は医者の道を目指したのは、「なんとなく」なんです。4人兄弟の末っ子で、1人目が小児科医、2人目が内科医、3人目が外科医。じゃあ自分はどうしようか、せっかくなので違う科がいいな、なんて気軽に考えていて、たまたま同期に「おまえは産婦人科だよ」なんて言われて何となくそんな気になって。我々の時代は、今と違い大学卒業後、1年インターンとして全科を経験してみて、国家試験に臨むという流れでした。その1年のインターン期間中、新しい命の誕生に感銘を受け、そのまま産婦人科の道を目指しました。その後大学病院などに勤めましたが、縁あって義父の産婦人科を継ぐことになり、引き継いでもう20年以上が経ちました。
 なんとなく導かれるようにしてなった産婦人科医ですが、あたたかい家族愛や、たくましく育つ子どもの成長に触れる毎日で、今はこの仕事に非常にやりがいと充実感を覚えています。産婦人科とは、婦人科の病気治療や、出産・分娩を扱うだけの場所と捉えられがちですが、僕はそう考えていません。本当に大変なのは出産後の「育児」。日々奮闘しているお母さんのために、「育児支援をする産婦人科医」を目指して業務に向き合っています。

まずはとにかくリラックス。お産は辛いものではありません。


お気に入りの「赤いラブチェア」

 情報過多な世の中で、出産に対して「痛い」「お金がかかる」などマイナスイメージばかりが先行しているのは非常に残念なことです。僕はとにかく医院にくる妊婦さんに、お産は楽しいこと、非常に有意義な経験であることを実感してもらうことを意識しています。そのために、医院ではリラックスしてもらうことを1番に考えています。そしてできるだけポジティブで前向きな気持ちで「主体性のあるお産」をしてもらうように心がけています。
 安産に必要なことは「身構えないこと」それだけなんです。リラックスして前向きな気持ちでお産に望むと分娩時間も短くなるんです。分娩のときだけでなく検診のときにも、もちろんゆったりとした気持ちになってほしい。だから診察室の椅子は、赤いラブチェアなんです。もちろん妊婦さん一人でゆったり座ってもらってもいいんですが、夫や子どもなど家族同伴の検診も可としているので、家族で座ってもらうんです。病院の診察室に似合わない雰囲気が、僕も気に入っています。

赤ちゃんがかわいくないのは、あたりまえ。


授乳室には、過去に当院で出産された方のお写真がアルバムいっぱいに。

 出産直後のお母さんが、自分の赤ちゃんを「かわいい」と思えないのは当たり前のことなんです。そして、この当たり前のことが意外と知られていない。でもこのことを「知っている」のと「知らない」のでは大きな差があるんです。子どもを「かわいい」と思うには、ある程度プロセスを踏んでいかないといけない。しかしそれは決して難しいことではありません。無事に産まれてきてくれて良かった、ぎゅっと握り締められた小さな手がかわいい……そんな些細な気持ちが積み重なり、段々わが子への愛情を実感できるようになる。また出産時に父親が涙ぐんでくれた、周りの人が自分の子どもをかわいいと言ってくれた……そんな自分以外の人間の、母子への関わりが、小さな愛情の芽となって育っていく。母親の振る舞い、気持ちだけで子どもへの愛情が沸くわけではないんです。
 だから当院で初めての出産をした人には、「親スイッチが入っていない自分」に安心してもらいたいと思っています。そこで活躍していただくのが、経産婦(2回目以降の出産に臨んでいる妊婦)さん。幸いにも当院の経産婦さんは、過去に当院で出産された方が多い。その「親スイッチの入っている経産婦さん」と一緒に、入院中にお茶会を開くんです。美味しいお茶とケーキをいただきながら、一緒におしゃべりしながら、時には経産婦さんの過去の写真をアルバムで見ながら。誰でも時間の経過と共に「親スイッチ」が入っていくことを実感してもらう。このお茶会、みなさんにとても好評なんです。

「父親のカンガルーケア」はじめました


ここで父親に上半身裸で、赤ちゃんを抱いてもらう

 育児ノイローゼによって幼い命が犠牲になる事件には、本当に心を痛めています。これに対して、当院では少し変わった試みに取り組んでいるんですよ。「父親のカンガルーケア」です。私の好きなエンヤの音楽をBGMに、出産後、子どもの様子に配慮しながら、分娩室横で父親に上半身裸になってもらい、産まれたての我が子をその胸に抱いてもらっています。その場の感想は「緊張した」「不思議な感じがした」など心許ないものですが、ボディブローのように、後からアタッチメント(愛着=情緒的な深い結びつき)の形成に効いてくることを期待しています。当院では、産後1ヶ月検診の他、2ヶ月検診、3ヶ月検診も実施しているのですが、出産に立会った父親やカンガルーケアを体験した父親は、検診に一緒についてくることが多いよう感じます。
 産婦人科で経験してもらったことは、その後の育児の手助けになったり、家族の愛情醸成にも影響を与えられるはずだと考えています。父親のカンガルーケアの他にも、家族愛にあふれる家庭を築いていってもらいやすくなる工夫に、いろいろ取り組んでいきたいです。

子育て支援する産婦人科でありたい


産後3~5ヶ月のお母さんに送るお手紙。

 「子育てを楽しんで」と言われても、育児は楽しいことばかりではありません。特に言葉を話せない赤ちゃんの頃は、ナゼ泣くのかわからない、なかなか寝ない、ミルクやおっぱいを飲んでくれない……など悩みは尽きません。そんなとき、決して一人で悩まないで欲しい。ママ友に相談……と言ってもお子さんがお一人目ならまだママ友もいない方が多いです。そんな悩める新米ママのために、当院では入院中だけでなく、退院後にも当院で出産された方なら誰でも参加できるお茶会を開いています。もちろん私も参加します。他の病院スタッフも。おいしいおやつとお茶を頂きながら、不安や悩みについておしゃべりするんです。
 産後は、出産した病院とコミュニケーションを持つ機会が減ります。でも私は、産婦人科医の役割は分娩を扱うだけではないと思っています。産後の育児をいかにサポートできるか、お茶会の開催だけでなく他にも色々な工夫をしています。例えば産後のお手紙。当院では、退院時に病院スタッフと患者家族で記念撮影をします。その写真を、「育児疲れ」が出始めると思われる退院後3~5ヶ月後に手紙をつけて郵送します。出産直後の新鮮な気持ちを思い出してもらい、弱々しかった赤ちゃんが、たくましく成長している姿を実感すると多くのお母さんは、育児に自信を持てるようになります。こんな風に、これからもできる限り、お母さんの力になりたいと思っています。

取材・文/宮戸弥生
フリーランスのライター・コピーライター。京都在住。求人広告会社勤務を経て独立。人物インタビューや地域情報サイトなどの記事執筆等、関西を拠点に幅広く活動している。

医療法人 おいだ産婦人科

医院ホームページ:http://oida-hp.com/

地下鉄五条駅 西北出口より北一筋上る西入る 徒歩2分。
詳しい道案内は、医院ホームページから。

診療科目

産科・婦人科 特殊外来(不妊外来・更年期外来・避妊相談)

種田征四郎(おいだ・せいしろう)院長略歴
種田征四郎院長
1966年 岐阜大学卒業
1966年 岐阜大学付属病院 勤務
1976年 京都第一日赤病院勤務
1977年 日本バプテスト病院勤務
1988年 おいだ産婦人科 院長就任


■資格、所属学会他
日本産婦人科学会専門医、日本産婦人科学会認定医



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