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[クリニックインタビュー] 2010/10/01[金]

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大学病院が医療の最先端とは限りません。患者のこと、地域のことを第一に考えながら、独自の工夫で医療の最前線に取り組んでいる開業医もたくさんいます。そんなお医者さん達の、診療現場、開業秘話、人生観、休日の過ごし方、夢などを、教えてもらいました。

第87回
大宮セントラルクリニック
外山聡彦院長

心臓病を治す姿に憧れ、医師を目指す

 僕が医師になろうと決めたのは、小学生の時。心臓病を患っていた従兄弟が、東京女子医大で手術を受けたことがきっかけでした。そこで会った心臓外科の先生達がとてもかっこよく、素敵に見えてね。その後従兄弟はすっかり回復し退院したのですが、そのことに僕はさらに感激し、「医者ってかっこいいな、命に携わる仕事ってすごいな」と強く思いました。もともとシュバイツァーの伝記などを読んで医師に対する漠然とした憧れはありましたが、本気で医師になろうと決めたのはその時です。
 高校卒業後は高知医大に入り、その後念願の東京女子医大病院で勤務と、迷いなく医師への道を進んできました。最初に研修を受けたのは、心臓に先天性の病気を持つ子供たちに対する医療です。僕は子供が好きだったので、一人でも多くの子供を治してあげたかったんです。
 しかし先天性の心臓病は、想像以上に大変でした。先天性の場合、完全に病気が治るところまでたどり着かず、治療の途中で亡くなってしまう子もいます。何の罪もない子供たちが苦しみ、亡くなっていく姿を見るのはとても辛かった。「この子の生まれてきた意味は、いったい何だったのだろう」と、やりきれない思いを何度もしました。
 ある年のクリスマス前のこと。重症の心臓病を持つ子の病室で、僕は彼と筆談で会話していました。「元気になったら、ゲームを一緒にやろうね」と日頃から話していたのですが、ちょうどクリスマス時期なので「元気になったら、欲しがってたゲームを内緒で買ってあげるよ」と伝えたんです。手術を終えても呼吸器から離れられない子を、少しでも元気づけたくて。すると彼の答えは「僕は元気になるのかな、プレゼントもらえるのかな」。その言葉を見たときは、本当に辛かったですね。

患者さんの苦しむ姿に、心の葛藤が続いた

 小児心臓外科で研修を終えた僕は、大人の心臓病にたずさわることになりました。しかし、だからといって治療が精神的に楽になったかといえば、決してそうではありませんでした。
 心臓病の手術は、5年先、10年先を見越して行うことがあります。でも、現時点で患者さんは苦しくないし、実際には手術の必要性を感じられない。すると、たとえ手術が成功しても、患者さんに納得していただけない、充分満足していただけないケースもありました。また、急患で運ばれてきた患者さんに手術を行い、無事に終わった後で、ご本人から「手術なんかしないで、あのまま死なせてくれれば良かったのに」と言われたこともあります。
 僕は患者さんを助けているつもりだったけれど、その患者さんにとって心臓の手術は只々苦しいだけ。また、当時は救急救命も担当していたのですが、すでに手遅れの方も多く、しょっちゅう死亡診断書を書いていました。そんな日々が十数年続き、「もう人が苦しむ姿、亡くなる姿を見るのはたくさんだ」と思うようになったんです。
 そんなとき、先輩の勧めで静脈瘤治療を見学する機会がありました。昔の静脈瘤治療は血管造影など診断方法から痛いものが主でしたが、すでに新しい体に対して影響の少ない診断法、治療法が確立されており、血管に携わる者として非常に興味を持ちました。これなら、患者さんに辛い思いをさせることなく、患者さんの目に見える形で治療することができるからです。また、その先輩から「静脈瘤治療は多くの人に必要とされている分野だ。是非君に来て欲しい」と強く勧められたこともきっかけとなり、当クリニックを開業するに至ったわけです。

血管の病、「静脈瘤」とは

 静脈瘤という病気について、少しご説明しましょう。「静脈瘤」とは、静脈に備わっている逆流防止の弁が何らかの理由で壊れてしまい、血液が逆流するために起こります。そこに圧がかかって静脈が拡張し、でこぼこになって肌の表面に浮き出てくるんです。女性、特に妊娠中の方や、立ち仕事をなさる方に多い病気です。また、遺伝が原因のことも多く、両親や祖父母に静脈瘤がある方は、起こりやすくなります。
 静脈瘤にともなう症状には、足がむくむ、疲れやすい、膨れた部分が熱い、夜になると「こむらがえり」を起こす、などがあります。もちろん、見た目を気にして治療する方も多くいらっしゃいます。治療法には、弾性ストッキングを履いて頂く方法から、穿刺して血管にお薬を注入する方法、手術などがあります。どの治療法が最適かは、一度診察しないと分かりません。静脈瘤の患者さんは20代から80代まで幅広く、症例もさまざま。静脈瘤や症状が気になる方は、一度最寄りの医療機関で診てもらうとよいでしょう。
 体質が原因で起こる場合は予防するのは難しいのですが、悪化させない工夫はあります。立ち仕事、座り仕事など、長時間同じ姿勢でいることが多い人は、ときどきふくらはぎを使って血液が滞らないようにするとよいでしょう。ストッキングを昼間の間履いたり、寝るときに10cm程度脚を上げておくのもおすすめです。
 また、静脈瘤が出来ているところを何かに引っ掛けて怪我をすると、血液が勢いよく飛び出して、パニックになる方も。この場合は、血が出ている部分をただ押さえつけるのではなく、横になって脚を上げてから押さえること。大きな静脈瘤がある方は、是非覚えておいてほしいですね。

患者さんの希望には、精一杯を尽くして応える


木目のカウンターがお洒落な、高級感溢れる内装。

 僕のポリシーは、患者さんと徹底的に向き合うこと。どこのクリニックでも、やはり忙しいですから、医師が関わる時間を減らしてスタッフに任せる部分を多くしていると思います。でも患者さんの本音は、「最初から最後まで、一人の先生に診てもらいたい」。そして僕自身も、ほかの人に書いてもらった所見をもとに手術することは避けたいと思っています。やはり、他人の所見と自分のそれとでは、異なる部分もありますから。
 そのため、当クリニックでは最初の診察から手術まで、極力僕が関わるようにしています。心がけているのは、患者さんのお話をよく聞くこと。その上で、僕に出来ない部分の治療はほかの病院をご紹介し、出来る部分については、精いっぱい患者さんに尽くすようにしています。そのかいあって、「ここなら全部先生が診てくれるから安心」と、遠い場所からも多くの患者さんが来て下さいます。治療のクオリティには、患者さんの納得、満足感が欠かせないとつくづく思いますね。
 今、目の前にいる患者さんに心から誠実になれなければ、他の誰にも誠実になることはできません。僕にそのことを教えて下さったのは、今まで出会った先輩・後輩達です。尊敬する先生のお名前を挙げればキリがないけれど、一方で反面教師も多かったですね。患者さんに冷たく接する先生や、病気の子供を持つ親御さんに「彼が治らないのは、あんたのせいだ」などひどい言葉を放つ先生。そんな先輩方からも、「こうなってはいけない」医師の姿を教わった気がします。
 立派な医師に、年齢は関係ありません。ある真面目な後輩が、夜中の2時から朝の7時までずっと患者さんの話を聞いていたことがあります。その患者さんは、無茶な要求ばかりしてくる方だったのですが、僕は「こんな接し方を忘れていたな、この熱意を忘れちゃいけない」と強く感じました。医者になった頃の「人を助けたい」「患者さんに誠実でありたい」という思いを、後輩から改めて教えてもらった気がします。

休日は太陽の下でテニス

 土曜日も診察しているので、休みは日曜のみですね。趣味は、学生時代からずっと続けているテニス。夏のあいだはあまりに暑かったので、頭から水を被りつつ、プレーしました。それでも午後2時くらいになると頭がぼんやりしてきます。先日など、コートに出て構えたつもりが「先生、ラケット持ってないよ」と仲間に言われて。ラケットを持ってないことにも気がつきませんでした(笑)。
 テニスには、たまに妻も同行します。お互い大学時代にテニス部に所属し、そこで知り合いました。妻は大会などに出場するアマチュアテニスプレイヤーなので、テニスにはかなりうるさいですね。だから、妻と僕は同じチームになるのを避け、敵に回るようにしています。医学部のテニスは理屈っぽくて、何かといえば戦術を考える。一方、妻は体育大学出身らしく、パワーや破壊力で勝負。僕が「もうちょっと頭を使えよ」なんて言うと、「理屈っぽい!」と怒られ、ケンカになるんです。いずれにしても、テニスの腕は、彼女の方が断然上なんですけれどね。

取材・文/瀬尾ゆかり(せお・ゆかり)
フリーライター・編集者。編集プロダクション勤務を経て独立。医学雑誌や書籍、サイトの編集・記事執筆を多数手掛ける。ほかに著名人・文化人へのインタビューや、映画・音楽・歴史に関する記事執筆など、ライターとして幅広く活動している。

大宮セントラルクリニック

医院ホームページ:http://www.oc-clinic.jp/

JR大宮駅西口より徒歩5分。巨大なターミナル・大宮駅の喧噪を抜けたビルの中にクリニックがある。院内は高級感漂う内装で、スタッフの明るさ・親しみやすさが、さらに居心地を良くしている。
詳しい道案内は、医院ホームページから。

診療科目

心臓血管外科、循環器科、内科、皮膚科

外山聡彦(とやま・あきひこ)院長略歴
外山聡彦院長
1990年 高知医科大学 医学部卒業
1990年 東京女子医科大学日本心臓血圧研究所外科
1991年 佼成病院心臓科
1993年 済生会熊本病院心臓血管外科
1995年 国立横浜病院心臓血管外科
1996年 上尾中央総合病院循環器外科
1998年 上尾中央総合病院循環器外科医長
2005年 上尾中央総合病院循環外科副部長
2006年 お茶の水血管外科クリニック副院長
2007年 大宮セントラルクリニック開業


■所属学会
日本循環器学会所属、日本外科学会所属、日本胸部血管外科学会所属、日本心臓血管外科学会所属、日本血管外科学会所属、日本冠動脈外科学会所属

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