第88回 守りたいのは、地域のママと子どもたちの笑顔
[クリニックインタビュー] 2010/10/08[金]
大学病院が医療の最先端とは限りません。患者のこと、地域のことを第一に考えながら、独自の工夫で医療の最前線に取り組んでいる開業医もたくさんいます。そんなお医者さん達の、診療現場、開業秘話、人生観、休日の過ごし方、夢などを、教えてもらいました。
第88回
あかちゃんとこどものクリニック
田中秀朋院長
病弱だった幼少期の体験が、医師を目指すきっかけ
私が医師になろうと思ったきっかけは、いくつかあります。そのひとつは、自分が幼い時とても病弱で、小児科医のお世話になることが多かったことですね。私は3人兄弟の末っ子で、しょっちゅう熱を出しては幼稚園や学校を休んでいて、皆勤賞とは無縁の子どもでした。かかりつけの小児科医に会う機会がとても多くて、家族以外の大人として尊敬していたことと、医師といえば人のためになるという考えから、医師という仕事にあこがれていました。
ですから、自分にとっては医師=小児科医という意識が自然にできていました。ただ、高校生のころは成績が悪くて医学部を断念しかかったことがあり、全く違う道を考えた時期もありました。もともと自転車やバイクなどの乗り物が好きだったこともあり、機械工学の勉強をして、乗り物の設計やデザイン、メカニックの仕事をするのもいいと考えていました。ただ、好きなことを本職にして挫折したら、後には何も残らないという怖さもあり、職業としては頑張って医師を目指し、好きなことは趣味として続けようと考えたのです。
患者さんのために、スタッフと目指した医療の「効率化」
医師になった当初は、ずっと勤務医でいるつもりでした。ところが、働き続けるうちに、勤務医にはさまざまな制約があり、自分の思う医療ができないことに歯がゆさを感じるようになったのです。ひとつは、診察できる患者さんの数が限られること。手書きのカルテなど、仕事に時間がかかる他、受けつけや会計で待たされる時間も多く、小児科が空いているのに4時間も待たされた、ということもありました。
もうひとつは、スタッフを選べないこと。仕事が良くできて、ずっと一緒に仕事したいと思うスタッフがいても、病院では必ず異動がありますし、自分とは考え方や患者さんとのスタンスが異なる医師もいて、自分ではコントロールできないことなので。
こんなスタッフと一緒に働きたい、こういう医療を目指したいという考えが強くなり、開業するのがベストだという道筋ができていたという感じでしょうか。私の場合は、勤務医時代に一緒に働いていたスタッフとこのクリニックを始めたので、すでに信頼関係ができていて、それが今、仕事がうまくいっている最大の要因だと思います。
例えば、午前中に50人の患者さんを見ようと思ったとき、私がゼロから患者さんに話を聞き出して診察しようとすると、とても無理なのです。でも、当院では待ち時間の間に、私に変わって看護師が、患者さんから私の欲しい情報を聞き出し、それを時系列で電子カルテに納めてくれています。それによって、かなり効率的に診察ができるようになり、診察できる患者さんの数が圧倒的に増えました。医療の効率化は、具合の悪いお子さんを連れてきているお母さんにとっては大切なことです。待っている間に話を聞かせてもらうことで診察がスムーズにできる上、女性である看護師と話すほうが、言いたいことを言いやすいというメリットもあるようです。
今も胸に響く、恩師から受けた言葉の数々
幼いころからお世話になっていた小児科の先生もそうですが、私は非常に師に恵まれていると思います。尊敬できる先生はたくさんいますが、もっとも理想とする医師は、研修医時代にお世話になった大学の先輩です。その先生は、労を惜しまず自分の人生を患者さんのために傾けていて、知識はもちろん、採血や点滴など医療のテクニックも、私の知るどの先生より上手だったと思います。短い時間でも効率よく使い、患者さんに話しをするときも、その理解のレベルを察知して、わかりやすく的確に、順序だててお話しされていました。目の前の病気だけでなく、そのバックグラウンドも含めて、子どもと親御さんに寄りそった医療をされる先生です。
そんな先生から言われて印象深かった言葉が「小児科の真髄は外来だよ」。当時はよく分からなかった言葉の意味を、最近ようやく理解できるようになりました。入院して治すのは最後の手段。まずは外来で、短い時間でその症状を把握して治すことこそ大切、ということだと思います。また、「医者は休むのも仕事だよ」とも言われました。健康ではない医師に患者の健康は守れない。あなたが倒れたら患者さんが困るんだから、自分の体をいちばん大切にしなさい、とおっしゃいました。私はたぶん死ぬまで先生には追いつけないと思いますが、ちょっとでも近づきたいと思い、日々努力を続けています。
そんな自分が現在、患者さんと向き合う中で心がけていること。そのひとつは、治療が必要な病気を見逃さず、早く治すこと。患者さんは早くよくなりたくて受診するのですから、患者さんには極力負担をかけずに早く治したい。もうひとつは、お母さんのニーズに応えたいということ。お母さんはこれが心配で来たのに、全く違うことをして帰す、ということが勤務医時代にはありました。もちろん医師として、それが患者さんに必要だからしたことなのですが、結果的にお母さんの心配をそっちのけにしては、満足度は得られません。必要な医療を提供しつつ、お母さんのニーズにもしっかり応えたい。そして、安心して、笑顔で帰っていただきたいと思っています。
診療でもプライベートでも「笑い」がテーマ
笑うことって、とても大切だと思うのです。笑うことでナチュラルキラー細胞が増えてがんの進行が遅れたり、病気の回復が早くなったりすることがあるという説もありますが、風邪などの一般的な感染症でも、しっかり眠って、栄養のあるものを食べて、たくさん笑うことで、早く元気になるということがあると思います。
ですから、診察のときにも、ちょっとでもお母さんや子どもが笑ってくれるといいな、と思っています。ただ、患者さんを笑わせようとして度が過ぎて、スタッフに「先生もういいかげんにしてください」と怒られちゃうこともしばしばなので(笑)、最近はちょっと自粛していますが、プライベートでも、なるべく笑いのある生活ができるように心がけています。漫才や落語なども好きですよ。
また、しっかり休むことと同じくらい、体を動かすことも自分にとっては必要なので、走ったり、歩いたりもしています。先日、生まれて初めて100㎞マラソンに挑戦しました。毎日、歩数計を持ち歩いていて、通勤時にもなるべくエレベーターや自転車は使わないようにしています。そして、家族も旅行が好きなので、電車や車でちょっと足を伸ばして非日常を体験したり、おいしいものを食べたりするのもリフレッシュになっていますね。
これからも笑いを大切にしながら、「太く短く」より「細く長く」、地域の子どもたちを見守り続けていきたいと思っています。最近は、自分の目の前の患者さんだけでなく、他の人たちにも何かプラスになることができればと思って、学校で講演をしたり、ママたちの会で講習をしたりという活動もしています。そういう地域的な社会活動にも、できる範囲で積極的に関わっていきたいですね。
フリーライター。主に医療・健康、妊娠・出産、育児・教育関連の雑誌、書籍、ウェブサイト等において取材、記事作成をおこなっている。ほかに、住宅・リフォーム、ビジネス関連の取材・執筆も。
あかちゃんとこどものクリニック
医院ホームページ:http://www.akachankodomo.com

受け付けや待合室には、看護師さん手作りの飾りがあちこちに貼られ、アットホームな雰囲気。埼玉高速鉄道「川口元郷」駅より徒歩3分、シティデュオタワー川口医療モール内。
詳しい道案内は、医院ホームページから。
診療科目
小児科
田中秀朋(たなか・しゅうほう)院長略歴

1990年 同大学小児科研修
1991年 千葉市立海浜病院小児科研修
1992年 東京都立母子保健院未熟児新生児科
1994年 川口市立医療センター新生児集中治療科
2000年 川口工業総合病院小児科
2007年 あかちゃんとこどものクリニック開設
■所属学会
日本小児科学会専門医
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