[クリニックインタビュー] 2011/09/30[金]

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大学病院が医療の最先端とは限りません。患者のこと、地域のことを第一に考えながら、独自の工夫で医療の最前線に取り組んでいる開業医もたくさんいます。そんなお医者さん達の、診療現場、開業秘話、人生観、休日の過ごし方、夢などを、教えてもらいました。

第123回
うめつ小児科
岡村暁子先生

「世話好きのお姉さん」が小児科医に

 母親が小児科の開業医だから、やはり娘の私も医師になったと思われる方は多いですね。母の職業をどこかで意識はしていたと思いますが、私自身は母から医師になるようはっきりと言われたことはありませんでした。私は3人きょうだいの長女で育ち、弟や妹の面倒をみていたせいか、小さな子を見れば “かわいいなあ”と、つい世話を焼くタイプ。だから、将来も学校の先生や保育士のような子どもにかかわる仕事を考えていました。あえて言えば、小児科医もその選択肢の1つという感じです。
 それが、中学・高校時代に生物の授業で人間の体について習ったとき、非常に興味を持ちまして。遺伝や免疫などすべてのことがおもしろく感じました。「人間の身体はうまくできているなあ」と感心し、またその神秘さに惹かれたのです。そんなことや子ども好きも重なって、私は小児科医になろうと旭川医科大学に入学しました。
 小児科の病院実習では入院患者の子どもたちに「遊んで!」と言われて、一緒によくトランプや鬼ごっこをしていましたね。それを少しうっとうしく感じる学生もいれば、私のように好きでたまらない者もいる。タイプの違いだと思います。他科の実習もそれぞれにおもしろかったのですが「やはり、自分がやるなら小児科だ」と再認識して北海道大学の小児科学講座へ入局しました。

親の急病がきっかけでクリニックを継ぐ

 その後は、札幌市内外の病院に勤務しました。診察がうまくいったときの充実感はもちろんですが、長期の入院付き添いで何でも私に話してくれるようになったお母さん、親に言えないようなことを打ち明けてくれた子ども、そういったコミュニケーションが心に残っていますし、また小児科医としてのやりがいも感じました。中には今でも手紙のやりとりを続けている患者さんたちもいます。当時は子どもでしたが、今はもういい大人ですね。
 勤務医でいる間にもいつかは開業医として働きたいと思っていましたが、その思いはまだ漠然としていました。ところが、2003年に母親が体調を崩して急に入院することになったのです。私が産休明けで新しい病院に勤務する初日のことでした。患者さんがいる母のクリニックを空けるわけにはいかないのと、病院側の理解もありまして、私が急きょ母の代わりを務めることになりました。
 幸い数カ月で母親は復帰しまして、午前診療は私、午後は母が担当する形となり、2009年には私が院長職に就き、母は理事長になりました。私の母は北大病院の小児科でアレルギーを専門とし、1976年にうめつ小児科を開業しました。小児科医としての母を尊敬していますし、また迷うことがあったときにもいろいろと相談ができて本当にありがたいと思っています。

母親の不安を取り除くことも大切な役割

混雑時以外は母親の話にも耳を傾ける。そこに治療のヒントが隠れていることもあると岡村先生は話す

 診療では、育児や生活の悩みも聞くようにしています。私がおしゃべり好きなこともありますが、子どものお母さんに何か悩みがあるようだな、と感じたときは意識的に耳を傾けます。例えば子どもが夜中に寝ない、食事を十分に取らないなどでお母さんが不安になると、子どもも不安定になってしまうケースもよくあるものです。お母さん方もいろんな情報を読まれますけれども、それにも違いがあって余計に悩んでしまう。
 実は、そういったことで、どのやり方が正しいということはないんです。働いていて時間があまり取れない方や、たくさん心配してしまう方などさまざまな方がいますし、それぞれの価値観もありますから。本当はお母さんも、こちらの方にしたいなという思いがあるんですよね。何度も診療で来られていれば、私もどんなタイプの方か分かってきます。ですから、そのお母さんに無理のないやり方を一緒に探して、背中を押してあげるんです。そうすることで得たお母さんの自信が、子どもの安心へとつながっていきます。また、私がいろいろな方法をお話しすることが役立つときもあるようです。「先生に言われたことがすごく効きました!」と喜ばれると、やはりうれしいですね。
 お母さんのほうも「この子は、こんなものだ」と落ち着いてくると、子どもにもどんどん良い循環ができて睡眠も取れ、きちんと食べるようになるケースも多いものです。同じことは病気の場合にも言えます。例えば喘息のように、本来その子に病気となる素因があったとしても、お母さんの不安がさらに子どもの症状を長引かせてしまうことがあります。やはり子育てや病気は不安になりやすいものですから、私もそういったお母さんたちの応援をしています。また、今は子どもの心の問題が非常に大きくなっていることも多いので、児童精神の勉強もするようにしています。
 私は小児の肥満外来も担当していますが、メインは食事指導や生活指導になり、しかも長期にわたりますのでお母さんにもかなりの負担がかかります。私も、あるときはハッパをかけたり、またあるときは励ましたりしています。前回よりもお子さんの体重が少しでも減っていれば「素晴らしいですね、お母さん!」という具合ですね。治療期間は平均4~5年の長丁場ですが、そうやってお母さんの生活への姿勢が変わり、家庭の食事も変われば、子どもの高度肥満も減ってくるんですよ。

通ってくる子どもの成長を見守って

3児の母親でもある岡村先生。子育ては大変かと思いきや「職業上、子どもが病気になっても大丈夫なので恵まれています」とポジティブだ

 今まで、私は周りの先生方にも恵まれてきました。現在は当院以外でも「宮の沢小池こどもクリニック」で肥満外来を担当させていただいていますが、院長の小池明美先生は忙しい中でもテキパキと仕事を完璧にこなしながら、優しくやわらかい雰囲気を持った素敵な方。絵を描かれるなど芸術のセンスもあります。そんな小池先生に、私はいつもたくさんのことを学ばせてもらっています。
 私はといえば、これといって目立った特徴はないかもしれませんが、与えられた環境の中で自分のやれることをコツコツとやっていきたい。できるところまで小児科医を続けていくのが目標です。患者の子どもたちは、友達のように話してくれますね。「今日はこれからお買い物へ行くんだよ」とか「お母さんがこんなことしてね……」。すると横からお母さんが「コラッ!」なんて(笑)。ある程度大きくなってくると、今度は急に無口になったりして。
 病気であってもなくても、子どもたちの成長する経過を見られるのが私の楽しみだし、小児科医としての醍醐味と思っています。今日も、診察した子どもたちが帰る時に「バイバイ!」「また来るね」と手を振ってくれました。もうかわいくて、楽しくて。だから私、小児科医はやめられません。

取材・文/高橋明子(たかはし・あきこ)
東京の業界紙や編集プロダクション勤務を経て、札幌移住を機にフリー。各種雑誌や書籍、ウェブサイトで地域情報や人物、住宅などの取材を行う。

医療法人社団 うめつ小児科

QLife医院情報ページ:http://www.qlife.jp/hospital_detail_553252_1

待合室は大きな窓から樹木などのみどりが見える。院内にスリッパはなく、木のぬくもりが足にやさしい。
地下鉄東西線「西28丁目」駅2番出口から徒歩約600メートル。JR北海道バス[循環西20][循環西21][西21]宮の森3条6丁目下車、徒歩約250メートル。駐車場完備。詳しくは、QLife医院情報ページから。

診療科目

小児科、アレルギー科、肥満外来

岡村暁子(おかむら・あきこ)院長略歴
1992年 旭川医科大学卒業
同年 北海道大学小児科学講座入局
北大病院、市立札幌病院、市立旭川病院、幌南病院(現KKR札幌医療センター)、斗南病院、札幌市保健センターなど勤務を経て
2003年9月 うめつ小児科勤務
2009年より院長職


■資格・所属学会
日本小児科学会、日本肥満学会、日本小児心身症学会、日本糖尿病学会など。現在、札幌市食育推進委員


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