第124回 内視鏡による検診・治療で地域医療の広がりを目指す
[クリニックインタビュー] 2011/10/14[金]
大学病院が医療の最先端とは限りません。患者のこと、地域のことを第一に考えながら、独自の工夫で医療の最前線に取り組んでいる開業医もたくさんいます。そんなお医者さん達の、診療現場、開業秘話、人生観、休日の過ごし方、夢などを、教えてもらいました。
第124回
なもと内科・胃腸クリニック
名本真章先生
身近な存在である医師を目指して

私にとって医師というのは、子どもの頃から身近な存在でした。母方の親戚が開業医をしていたので、その病院には小さい頃からかかりつけとしてお世話になっていたのです。その病院に集う患者さんをみて「元気になった人たちが笑顔になっている。なんて素敵な仕事なんだろう」と、漠然とした憧れを持っていたことを覚えています。
はっきりと医師の道を志したのは高校生の頃、九州大学医学部医療技術短期大学部の教員を務めていた父の後押しもありました。そして福岡を離れ、熊本大学医学部に入学。大学を卒業したあとどの科に行くのも自由なのですが、やはり内科に行きたかった。親戚の医師が先輩として、誘って下くださったこともあり福岡に戻り、九州大学医学部第三内科(現・病態制御内科)に入局。ひとくちに内科といっても分野は様々です。当時の第三内科は胃腸科、肝臓内科、血液内科、代謝内分泌内科、膵臓内科…。本当にたくさんの症例を扱っている場所だったので、「多くを見聞きして学びたい」と思っていた私はすぐにここへ進むことを決めました。
研修医時代は多くの患者さんを担当させていただいたものです。現在専門としている胃腸科の医師になったのは、当時の病棟医長だった胃腸科の先生の影響。胃腸科だけでなく内科全般に的確な診断治療をされ、患者さんへの診察も丁寧なこの先生を見て「自分の目指す道はこれだ」と確信しました。研修医時代に、この先生の背中に追いつきたいと感じました。
病理の道を経て胃腸科の道を進む

研修医の2年間が終わり、それぞれの専門科へと進む同僚が多い中、私は興味を持った病理学を勉強したいと思いました。そして九州大学医学部第一病理学講座の大学院に入学しました。病理学は亡くなった患者さんを解剖して、病気の原因を明らかにしたり、病変から採取された細胞を顕微鏡で調べ、癌などの診断をつける診断学の根源ともいえる学問です。私は研修医時代に胃腸科に進むことを決めていましたが、この病理の分野も自分にとって必要だと考えていました。病理学は病気の原因と向き合う“医学の中の医学”。細胞レベルで病気を分析して診断をする病理の分野には学ぶことが本当に多かったですね。
病理の大学院の後は、胃腸科の臨床医としての本格的な修練が始まりました。済生会福岡総合病院、国立別府病院(現・別府医療センター)の内科医長を務めました。済生会福岡総合病院は救急指定のため、夜中に呼び出されることが多いため体力勝負、国立別府病院では多くの患者さんを抱える胃腸科に自分と後輩の2人きりという人手不足に悩まされましたが、先輩や同僚の医師の励ましで乗り越えることができました。医師としてのテクニックの向上だけではなく、精神的な部分で自分を伸ばしてくれた環境には本当に感謝をしています。
恩師との再会を経て内視鏡治療の専門家へ

続いて赴任した原三信病院では、幸運にも、研修医時代に胃腸科を目指すきっかけとなった先生の下で働くこととなりました。その当時、胃腸科ではがんの治療が大きく変わる革命的な出来事がありました。それはESDの登場。これは胃がんに対する内視鏡治療の進化です。以前はなんとか2cmまでの腫瘍しか取り除けなかったのですが、胃カメラの先端からだした特殊な電気メスを使うことで、理論的には10cm程度の大きさの胃がんまで切除できるようになったのです。それまで外科的に開腹手術で、胃のほとんどを切除されていたような病気が、お腹にメスを入れられることなく、1週間程度で退院することが可能になりました。原三信病院ではこのESDを取り組み始めました。また、その後ESDの症例数では九州トップの北九州市立医療センターに移り、食道、胃、大腸のESD治療を多数経験。そして平成22年5月にそれらの経験に基づく内視鏡診断、治療をめざし「なもと内科・胃腸クリニック」を開業。胃カメラ、大腸カメラの検査に遠方からでも気軽に来ていただけたらと思い、駐車場のあるこの場所を選びました。
患者さんをお迎えするために

些細なことかもしれませんが、患者さんと目を合わせて話すことを大事にしています。病気になって気分が塞ぎこむ患者さんもいらっしゃいますので。的確な治療はもちろん、患者さんの心をほぐすための対話こそ重要だと考えます。そして長い目で見て、健康のために胃カメラ、大腸カメラをおすすめしますが、やはり「苦しい」「気持ち悪くなる」というイメージが強く、進んで診断を受ける方はまだまだ多くありません。現在は吐き気が起きにくい、鼻からの細いカメラを使う方法や、眠ったまま検査をすることもできるので、気軽に相談していただけたら嬉しいですね。それから月に1度、胃カメラ、大腸カメラを使った診断を予約制で実施しているのですが、訪れる患者さんの半数が医師やそのご家族。医療のプロである彼らが自分を信頼して体を預けてくれることを誇りに思います。
いま、クリニックの患者さんの多くは周辺の団地に住むご近所さんです。身近な患者さんの日々の健康を守り、大きな病気のサインにいち早く気がつくこと。そのためには胃カメラ、大腸カメラなどの定期的な検診が欠かせないと思うのです。日々の健康とともに、早期発見・早期治療で病気の可能性を低くしていくことで、少しでも地域全体の健康づくりに貢献できればと思います。
仕事の活力は家族とのひととき
仕事以外の時間は家族団らんの時間にあてていますね。小学生の息子ともうすぐ2歳になる娘を連れて散歩に出かけることもしばしばです。少し足を伸ばして海沿いに出て、のんびり過ごすのが癒しの時間になっています。家族の笑顔を見ていると、こちらまで元気がでてきますよ。
ライター。「CREATIVE OFFICE とらこや」所属。福岡の情報誌を中心に、グルメ、医療、ウエディングの現場取材・原稿執筆を手がける。
なもと内科・胃腸クリニック
医院ホームページ:http://www.namoto-clinic.com/

診療科目
内科、胃腸内科
名本真章(なもと・まさあき)院長略歴

1997年 九州大学医学部大学院第一病理学講座修了
1998年 済生会福岡総合病院内科勤務
2001年 国立別府病院(現・別府医療センター)勤務
2003年 原三信病院消化器内科勤務
2007年 北九州市立医療センター勤務
2010年 なもと内科・胃腸クリニック 院長
■資格・所属学会
日本消化器内視鏡学会(指導医・専門医)、日本消化器病学会(専門医)、日本内科学会 認定内科医、日本ヘリコバクター学会、日本胃癌学会、日本消化管学会
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