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[クリニックインタビュー] 2012/05/11[金]

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大学病院が医療の最先端とは限りません。患者のこと、地域のことを第一に考えながら、独自の工夫で医療の最前線に取り組んでいる開業医もたくさんいます。そんなお医者さん達の、診療現場、開業秘話、人生観、休日の過ごし方、夢などを、教えてもらいました。

第133回
赤羽牧洋記念クリニック
三橋牧院長

「治らない患者さん」との出会いが東洋医学を学ぶきっかけに

 私は幼いころに足に大きなやけどを負って病院にかかったことがあります。その時にお世話になったことが、医師を目指すひとつのきっかけになりました。青森出身なのですが、当時はまだ無医村も多く、自分の生まれ育った地域に医療で貢献したいという気持ちもありましたね。
 子どものときにお世話になったのが外科や形成外科だったこと、「人を救うと言えば外科医」というイメージがあったことから、もともと外科医を目指していました。
 卒業後は志望通りの外科医となり、いちばん最初に担当したのが末期の胃がん患者さんでした。その後も、末期がんや手術後の再発などで、病院で最後を迎える患者さんと向き合うことが多かった。その日々の中で、「治らない患者さんのためにどうすればいいか」を次第に考えるようになり、免疫療法や漢方などの東洋医学へと目指す方向が変わっていきました。ただ免疫療法は非常に特殊でお金もかかり、最新の設備が必要。誰もがどこでも受けられる治療ではありません。もう少し手軽に、患者さんの苦痛を和らげ生活の質を上げるためには漢方が有効だと思い至り、そこから本格的に漢方など東洋医学の勉強を始めたのです。
 大学病院では、「患者さんの治療」と「がんの研究」という二足のわらじをはいた状態だったのですが、だんだんと患者さんの治療に忙殺され研究ができない状態となりました。研究ができず医療一本にしぼるなら、患者さんひとりひとりとじっくり向き合い、自分の思ったとおりの医療をおこないたいという思いから、5年前に開業。西洋医学と、漢方や鍼などの東洋医学を併用した治療をおこなっています。

女性の「煩熱」を漢方で治す

 今は、だいたい1日に40~50人、多くても60人ぐらいまでの患者さんをみています。他の病院と比べると少ないかもしれませんが、みるといっても「どうですか、変わりないですね、じゃあまた同じ薬出しておきますね」ではなく、患者さんとしっかり向き合って、「ここが悪いからこういう治療をしましょう。その結果こうなってきていますね。じゃあ今後は……」という診察をするためには、せいぜい1日50人が限度だと考えています。
 ただ検査の数値だけを見て判断するのではなく、ひとりひとりの患者さんの愁訴や症状をよく見た上で、それに対応できる治療を心がけていますが、患者さんの訴えはつねに変わっていきます。一概に「つらい」「痛い」といっても、人によってつらさの感じ方や訴えの強さも異なりますし、体の症状に加えて必ず何らかの気持ちの面での悩みも抱えているので、それらを正確に把握するのがいちばん大変なところでしょうか。
 たとえば、更年期の女性によくみられる上半身や手のほてり、ホットフラッシュという症状は、あまりひどくなると体だけでなく気持ちの上でもイライラや焦燥感が強くなり、精神的な病気につながることもあります。内科や婦人科では、精神科の治療で用いる薬を処方したり、心療内科の受診をすすめたりという対応が一般的ですが、漢方治療では、上半身に熱が上がっているからつらいのであって、それを改善するための治療をまず考えます。
 最近は患者さんもよく勉強されていて、「先生、こういう薬がいいと聞いたんですけど」とおっしゃったり、処方した薬を「飲んでみたけどこんな症状が出てこわかったから、飲むのをやめました」とおっしゃる患者さんもいます。男性よりも女性のほうが、薬など自分の体内に入れるものに関してはデリケートですし、ときに自己判断してしまうこともあります。でも、自分の体の声に従う、その自己判断が正しいこともあるので、医師だからといってそういう患者さんの言葉を無下に否定することはしないように気をつけています。

不調と不安を取り除くことで患者さんが変わる


合唱グループやパステル画教室などの申込書。病院の外でも患者さん同士がつながるきっかけに

 混み具合や患者さんの症状によっても異なりますが、初診の場合は1人の治療に1時間ぐらいかけることもありますね。とくに悩みごとを抱えている患者さんは、どこかで一度はじっくり時間をかけて話しを聞くことが必要なのです。患者さんも「聞いてほしい、わかってほしい」という気持ちがとても強いし、こちらも話しを聞くことで、その人の生活背景や病気のことがより深くわかるので、そういう場合はほかの患者さんを待たせることになっても、しっかり話しを聞きます。
 それは大変なことでもありますが、そういう治療によって患者さんの状態が変化するのはうれしいことです。例えば、初診のころはつねにイライラして、受付に「もう待てない」と言ったり、怒ったりしていた患者さんが、治療を続けていくうちに穏やかに変わっていくということがよくあります。私はよく「クリニックに入ったときから出るまでが治療」と言っているのですが、治療によって“体のつらい、痛い”という症状がなくなり、私や看護師、受付の人などと会話を繰り返すうちに、「このクリニックは自分を守ってくれる」という安心感が患者さんに芽生えるせいではないかと思います。そういう患者さんの姿をみると、治療の手ごたえを感じ、とてもうれしい気持ちになります。
 医師になって最初に受け持った患者さんに思ったように、私はどうしても、「治らないものをなんとかできないか」と考えてしまいます。病気が治らない人、脳梗塞などの後遺症で体に麻痺がある人、思うように歩いたり動いたりできない人、そういう患者さんに対して、漢方や鍼などの東洋医学を駆使した治療で、もっと何かできるはずだという思いがつねにあるので、これからも勉強を続けていきたいし、東洋医学の発展に尽力していきたいと思います。このような治療は日本の医療ではまだ少数派ですし、さまざまな制限もありますが、多くの医師に広げていくことと診療体制を整えていくことを目指し、今後も患者さんにとってよりよい治療を追求していきたいと考えています。

農業も医療も「なるべく自然」がいい


先生やスタッフ、患者さんみんなが楽しみにしている「健康コンサート」、昨年のポスター

 プライベートでは、「歌を歌うこと」と「畑仕事」がリフレッシュ法となっています。クリニックでは年に2~3回、区の施設を借りて「健康コンサート」を開催しています。私やスタッフも歌いますし、患者さんたちによる合唱グループを作っていて、その発表会も兼ねています。合唱グループはクリニックで募って活動しているのですが、歌は感情を出すのにとてもいいものですし、クリニックの中だけでなく、外に出てもコミュニティとして患者さん同士がつながっていられるのが何よりだと思いますね。合唱のほかに、パステル画の教室なども開いていて、そういう楽しみが患者さんの治療や生活にもたらすメリットは大きいと実感しています。
 畑は、農業を営んでいる友人がいるので、休日に手伝いに行かせてもらっています。1日自然にふれて帰ってくると、体も心もサッパリしますね。私は、医療も農業も同じだと思うのです。今は、どちらも薬を使いすぎています。私たちが行っている漢方治療は、農業でいえば有機栽培のようなもの。手間はかかりますが、できるかぎり自然なもの、体にとって良いものを使って、これからも患者さんを元気にする手助けができればいいと思っています。

取材・文/出村真理子(Demura Mariko)
フリーライター。主に医療・健康、妊娠・出産、育児・教育関連の雑誌、書籍、ウェブサイト等において取材、記事作成をおこなっている。ほかに、住宅・リフォーム、ビジネス関連の取材・執筆も。

赤羽牧洋記念クリニック

医院ホームページ:http://www.myclinic.ne.jp/makiyo/pc/index.html

JR「赤羽」駅より徒歩3分。先生が農家の手伝いに行った後には待合室に100円の野菜がならぶ家庭的なクリニックです。
詳しくは、医院ホームページから。

診療科目

整形外科、リハビリテーション科、外科、漢方内科、内科(消化器・肛門・乳腺・がん・糖尿病)、小児科

三橋 牧(みつはし・まき)院長略歴
1983年 国立弘前大学医学部卒業 東京女子医大第2外科入局
1995年 医学博士号取得
2000年 Cornell Universityへ留学(アメリカ・ニューヨーク)
2004年 東京女子医大第2外科 准講師
2006年 赤羽牧洋記念クリニック開設


■資格・所属学会他
東京女子医大非常勤講師、医学博士、東洋医学会、日本外科学会、日本癌学会、日本中医学会


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