[クリニックインタビュー] 2012/06/08[金]

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大学病院が医療の最先端とは限りません。患者のこと、地域のことを第一に考えながら、独自の工夫で医療の最前線に取り組んでいる開業医もたくさんいます。そんなお医者さん達の、診療現場、開業秘話、人生観、休日の過ごし方、夢などを、教えてもらいました。

第134回
上原内科クリニック
上原聡先生

気概に燃える同期生たちと切磋琢磨の日々


「コンビニに行くような感覚で受診できる医院に」と話す上原院長

 私が医師になったきっかけは、ずっと「人の役に立つ仕事をしたい」と思っていたことです。そこで浮かんだ職業が、医師と弁護士の二つでした。どちらかにするか考えたとき、すべての人間が一生に一度はかかるのは医師だろうとこの道に決めたのです。
 しかし、進学した旭川医科大学では、いかに自分が人間として未熟であるかを思い知らされました。大学はまだ新しく私は3期生だったのですが、同期は本当に“すごい”人たちが多かった。というのは、他の大学を卒業したのにまた入り直した人、それに教師や大企業を辞めて入学した人など志が高い学生ばかりだったんです。私より10歳も年上というのは当たり前で、人生経験を積んだ仲間と話していると自分の小ささが見えてくる。
 さらに新設の大学ということで、学生の間には「我々が頑張って礎をつくり、一流にしていくんだ」といった気概がありました。そんな中で私もずいぶんと切磋琢磨されましたし、同時に自分の人間性が問われた学生時代でもあったと思います。

“病気でなく患者さん全体を診る”恩師の元で修業


ありふれた症状でも別の病気を見逃さないよう診察は丁寧に行う

 旭川医大で私が特に大きな影響を受けたのは、消化器科病学と心身医学の大家だった故・並木正義教授でした。並木先生は世界で初めてストレス性潰瘍ができる過程のビデオ撮影に成功、パブロフ賞も受賞した方です。ちょうど北海道大学から新進気鋭の教授として着任したところで、私は幸いにもこの素晴らしい先生の元で医師となる修業をさせてもらいました。
 並木先生のモットーは「病気だけを診るのではなく、病気を持った患者さんの全体を診ること」。患者さんの立場になって診療に当たることを学生に教えながら、ご自身も診察日は朝から晩まで患者さんの診療を優先していました。教授といえば診療時間は午前で終わるものですが、並木先生は夜までになってしまう。「受け付けた患者さんは最後まで診る」というポリシーですから。それも症状の訴えにしっかりと耳を傾けた後、高度な医学知識を用いて丁寧に説明をするので、患者さんはもう何時間でも順番が来るまで待っていましたね。
 診療よりも研究に熱心な教授が多かった中で、そんな並木先生の姿勢は私にとって驚きであり、また大きな感動を覚えました。ですから卒業後もアメリカ留学を経て旭川医大に戻り先生に師事していましたが、私自身もプライベートはありませんでしたね。平日は夜12時前に帰宅することもなく土日は学会や研究会に出席、また生活費のために地方病院で当直も担当していました。

異常が認められなくても様々なアプローチで症状に挑む


ヘリカルCT装置は専門医に引き継ぐべき病気の発見にも役立つと話す

 旭川医大病院では医局長や外来医長を務めた後に富良野や中標津(なかしべつ)へ赴き、札幌の現・手稲ロイヤル病院院長を経て2011年にこのクリニックを開設しました。私は並木先生の教えを受け継ぎながら「患者さんを全人的に診ること」を心がけています。
 うちのクリニックには「どうしても良くならない」と他院から来られる患者さんもいらっしゃいます。例えば、胃の調子がおかしいと思って病院の胃カメラで検査をしても異常はなかったと。医師に「気のせいではないか」と言われても、ご本人の苦しい、痛いといった辛さは解決しないわけです。
 そんな症状を訴えるものに「機能性胃腸症」があります。あまり聞き慣れないかもしれませんが、実はよく見られる病気です。私の場合は、まず検査で悪い結果は出なかったことを伝えて患者さんに安心してもらいます。それからタイプによって消化を高める薬、または胃酸の分泌を抑える薬を処方します。患者さんの様子によって各種の漢方製剤を使い分けることも有効ですし、抗うつ剤などを使用することもあります。このほか、薬を使わない治療として週2回専門の方に来てもらいカウンセリングも行っています。
 慢性的な病気ほど、患者さんは長い間向き合っていかなければなりません。そこで「一緒に治していきましょう」と二人三脚の気持ちで話すようにしています。そうすれば症状を放置せずにまた来て治療を続けてくれるものです。それぞれの期間はありますが病気が治っていく、または症状が軽減されて患者さんの日常生活が楽になることは私の喜びでもありますね。

患者さんが周りに自信を持って勧められるクリニックに


明るい待合室には自由に使える紙マスクや老眼鏡が置かれている

 クリニックの診療以外にも、私は旭川医科大学と北海道薬科大学で非常勤講師を務めています。並木先生の教えを次の世代にも伝えていく使命が自分にはあると思っていますから。幸い学生の反応も良く、患者さん全体を診る医療が支持されていることを実感しています。
 プライベートでは、将棋と英語を趣味にしています。2つとも頭を使うので気分転換になるんですよ。私は日本将棋連盟の札幌中央支部で会長も務めています。下手の横好きではありますが、会長として愛好者が増えてくれるように新しい大会を立ち上げるなど頑張っています。
 また、英語では英検1級や通訳ガイドなどの資格を持っています。アメリカ留学後に取ったものですが、今でもメイヨークリニックや医学で有名なジョンズ・ホプキンス大学の英語によるポッドキャストを毎日聴いています。最新の情報が得られるので勉強にもなりますしね。
 将来の目標はいたってシンプル、今の診療姿勢を崩さず続けていくことです。「患者さん一人一人が生きた教科書だ」と言われた並木先生の教えを肝に銘じ、目の前に来られる方を大切にして真剣に取り組んでいく。そして患者さんが自分の家族や知り合いに自信を持って勧められるようなクリニックでありたいと思っています。

取材・文/高橋明子(たかはし・あきこ)
東京の業界紙や編集プロダクション勤務を経て、札幌移住を機にフリー。各種雑誌や書籍、ウェブサイトで地域情報や人物、住宅などの取材を行う。

医療法人社団 上原内科クリニック

医院ホームページ:http://www.uehara-clinic.com/

幅広いクリニックとして糖尿病やもの忘れ、禁煙などの外来もある。待ち時間の目安になる診察番号の表示板はスタッフの手づくり。
JR函館本線星置(ほしおき)駅南口から二十四軒・手稲通を東へ徒歩約7分。駐車場14台。
詳しくは、医院ホームページから。

診療科目

内科・消化器科

上原 聡(うえはら・あきら)院長略歴
1981年 旭川医科大学卒業
1985年 同大大学院修了、米Tulane大学医学部内科学教室留学
1992年 旭川医科大学第三内科助手、93年同医局長、95年同外来医長
1995年 富良野協会病院内科医長
1996年 町立中標津病院内科医長、97年副院長
2000年 手稲ルカ病院(現・手稲ロイヤル病院)副院長
2001年 同院長
2006年 上原内科クリニック開設
現在旭川医科大学、北海道薬科大学の非常勤講師も務める


■所属学会
日本内科学会、日本消化器病学会、日本消化器内視鏡学会、日本東洋医学会、日本心身医学会、日本心療内科学会など


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