第13回 患者さんは自分の家族
[クリニックインタビュー] 2009/03/19[木]
大学病院が医療の最先端とは限りません。患者のこと、地域のことを第一に考えながら、独自の工夫で医療の最前線に取り組んでいる開業医もたくさんいます。そんなお医者さん達の、診療現場、開業秘話、人生観、休日の過ごし方、夢などを、教えてもらいました。
第13回
横浜相鉄ビル眼科医院
大高功院長
患者さんは自分の家族
私は子供の頃から機械をさわるのが大好きで、大学も工学部を目指していました。でも現役受験の時に希望の大学に落ち、「同じ理系やし、受けるのは医学部でもええかな」と思うようになったんです。思えば祖父が内科の開業医だったことも手伝ったのでしょう。浪人の末、医学部に入学しました。
ところが大学に入ってから、突然具合が悪くなってしまいました。原因は自分でもわかりません。医者を頼って検査を受けましたが、相手にしてもらえるどころか「そんな症例の病気はない。具合が悪いのは気のせい」と一蹴されたんです。
この時は本当につらかったので、“気のせい”呼ばわりされて余計に苦しかったですし、不快でしたね。自分で調べて「これや」と思う病気を見つけましたが、それは当時まだ正確な定義が為されていない疾患でした。周囲の「放置してみろ」というアドバイスに従い、3年ほど我慢していたら自然と治りましたが、医者に“気のせい”と言われたことはずっと引っかかっていて、あんな思いを患者さんに味わわせないような医者になりたいと思いました。
だから今でも、患者さんひとりひとり、ひとつひとつの悩みに親身に傾聴しています。患者さんのことを家族だと思えば、100%耳を傾けることくらいたやすい話でしょう。
当院のモットーは、「まず、患者さんを家族だと思うこと。そして自分が受けたいと思うような治療をお勧めすること。同時に、スタッフが患者さんを暖かく迎え、眼だけでなく心も癒されたと感じて頂ける医院にすること」。これは今後もずっとキープしていきたい理念です。

写真左:患者さんを家族と思うからこそ、『せっかく来ていただいたのに申し訳ございません』という言葉が自然と出てくる。
写真右:患者さんに対する、待ち時間への気遣いがうかがえる掲示物。
世の中に還元するのが、医師の義務
初診の方には必ず名刺をお渡ししています。以前そうしている先生を拝見して「あ、なんかそれ、ええなあ」と思って自分も始めました。名刺はね、お子さんの患者さんが喜ぶんですよ。子どもが喜ぶことというのは、素直に人間が喜ぶことだと思うんです。大人は余計な感情をもってしまうけど、子どもは正直でしょう。だから大人の患者さんも、私の名刺はきっと喜んでくれているに違いないと期待しています(笑)。
そうした小さな工夫もですが、大きめの取り組みもしています。
医学生が医師になるまでには、国公立私立の別なく多くの公費が投入されていますよね。その分われわれ医師というのは、世に還元していかねばならないと思うんです。
だから、以前「静岡県・西伊豆には眼科がなく、医療的に僻地だからなんとかしたい」と土肥町長からお声かけいただいたときは、迷わず僻地医療に取り組むことを決めました。そして私のような専門医と町がいっしょになって、“Nishiizu Project”と銘打ち、クリニックの設立に携わったんです。
私は静岡市に住んでいるので、西伊豆はわりと近いです。横浜の当院までは新幹線で通勤していますが、ドアトゥドアで1時間15分くらいだから、それほど負担ではありません。静岡・横浜・西伊豆のトライアングル移動が日常的になっています。
こうした時間の合間などに、ホームページを更新しています。論文を書く代わりみたいなもので、患者さんを対象に、治療や疾患のことを詳しく書いているんです。
ただ、記事を書いていると実感しやすいですが、医療は日進月歩とよく言われるように、発達が本当に早いんです。半年前に「これが最先端」と自信満々に書いている記事も、いま見たら「こんな古い技術載せてたらヤバい」と気づいてしまったり、治療の説明を受けた患者さんから「ホームページには違うこと書いてありましたよ」とご指摘頂いたり。すでに載せている情報を定期的に耕すくらいの気持ちで、これからも記事は更新していきたいですね。
そんな風に、現在の取り組みを維持しつつブラッシュアップを図ることが私の今後の目標です。
「速い治療」よりも「確かな治療」
聖隷浜松病院の眼形成眼窩外科顧問である中村泰久先生は、瞼や涙道の手術のパイオニア。私はずっと前から尊敬していて、いろいろなお話も聞かせていただいていました。04年の西伊豆クリニック設立という僻地医療プロジェクトにも賛同していただいた経緯があり、交流はあったのですが、先日ついに実際に手術をやっていただく機会に恵まれたんです。
中村先生の手技はものすごく丁寧で、フィニッシュに至るまでのすべての所作が繊細かつ精確でした。見学しながら感動しっぱなし。「手術の原点はこれだ」と痛感しましたね。
巷では「白内障の手術が4分でできる」とか、「3分の記録を打ち出したい」とか、そんな話を耳にすることもあります。私も昔、手術の速さを追求していた頃があったので気持ちはわかりますが、手術時間の短さを追求すると、最後の地味な仕上げの作業や確認がおろそかになったりするものです。患者さんにとってはなににも替え難い眼なんだから、手術時間の短さではなくて、仕上がりの確実さと美しさを追及することが大事だと考えています。
中村先生は早さの記録など当然考えていませんし、手術時間を短縮できるレーザーも使わないんです。「治療の途中でレーザーの電源が落ちたら、患者さんが困る」ということで、時間がかかっても手でやり通すことを中村先生はポリシーにしています。「手術の途中で停電になるかもしれないし、機械がつぶれるかもしれない。手作業なら、手術は最後までやり通せるでしょ」って。しかも、仕上がりはどんな最新の機械を使った手術より完璧でした。
そんな先生に、私のもっとも得意とする翼状片の手術に立ち会っていただきました。お世辞も入っているんでしょうが、「すごい。眼からウロコが落ちました(笑)」って褒めていただいて、ほんとうに嬉しかったですね。
広告代理店のコピーライターを経て、現在フリーライターとしてロンドン・北京・東京の三都市を基点に活動。被虐待児童におけるトラウマティック・ストレス学、および漢方による精神疾患アプローチに関する研究をライフワークにしている。
横浜相鉄ビル眼科医院
医院ホームページ:http://aikeikai.jp

クリニックが入る横浜相鉄ビルには球体のモニュメントが。目印にちょうどいい
各線「横浜」駅から徒歩5分~10分。詳しい道案内は医院ホームページから。
診療科目
眼科
*翼状片(よくじょうへん)・白内障・緑内障・網膜ほか、あらゆる眼科手術に対応。英語での診察も可能。
※網膜のレーザー治療(手術)・緑内障のレーザー治療(手術)・霰粒腫摘出術・霰粒腫の注射・涙点プラグ挿入術などは通常の外来中に施行。緑内障・白内障・翼状片・瞼裂斑・斜視・網膜硝子体・眼瞼下垂・睫毛内反・緑内障の手術は要予約。
※視神経乳頭陥凹に対する緑内障の検査は即日対応。
※各種保険取扱
大高功(おおたか・いさお)院長

1994年 亀田総合病院(千葉県鴨川市東町)眼科
1996年 Miami大学医学部付属 Bascom Palmer Eye Institute
1999年 静岡赤十字病院眼科(静岡市追手町)
2002年 静岡赤十字病院眼科医長就任
2003年 西伊豆眼科クリニック院長就任
2004年 横浜相鉄ビル眼科医院院長/現在に至る
■資格・所属学会他
日本眼科学会認定眼科専門医、医療法人社団愛慶会理事長、横浜相鉄ビル眼科医院院長(月火水金)、西伊豆眼科クリニック院長(土日)
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