[クリニックインタビュー] 2012/08/31[金]

いいね!つぶやく はてなブックマーク

大学病院が医療の最先端とは限りません。患者のこと、地域のことを第一に考えながら、独自の工夫で医療の最前線に取り組んでいる開業医もたくさんいます。そんなお医者さん達の、診療現場、開業秘話、人生観、休日の過ごし方、夢などを、教えてもらいました。

第138回
大塚・栄一クリニック
内田栄一院長

大学のときに心療内科に興味を持つように

 子どものころは「空を飛びたい」という思いから、パイロットに憧れていました。しかし、高校生のときに祖父を癌で亡くし、それから医師の道を目指すようになりました。数ある専門科の中で特に心療内科に興味を持ったのは、医大生時代に「全人的医療を考える会」に参加したことがきっかけでした。
 全人的医療とは、人をある特定の部分だけでなく全体として捉えようという視点に立ち、病気だけ、生物学的観点だけで患者さんを見るのではなく、心理面、経済面、社会面など、患者さんをもっと包括的に見て、それぞれに合った治療を考えようというものです。その会に参加してさまざまな人たちと活動をともにする中で、心のケアに関心が高まり、心療内科を主としたプライマリ・ケアを専門に学びました。
 また、国の医療システムの構築や予防医学にも興味がありました。現在の専門領域を選ばなかったら、公衆衛生学の領域に進んでいたかもしれません。現在クリニックでは心療内科を中心に、一般内科、アレルギー科、口腔心療科の治療をおこなっていますが、禁煙外来や、生活習慣病の患者さんを対象とした栄養・運動相談なども実施しています。それらは、予防医学の観点からできることをしたいという思いから始まったことです。

患者さんそれぞれの立場を考慮した対応を

 ストレス社会と呼ばれる今、職場や学校、家庭などで、誰もがストレス過剰な状態に陥る可能性があります。眠れない、落ち込む、食欲がない、だるい、不安など、「心のかぜ」に気づいた患者さんが、気軽に相談できる場を提供したいという思いからこのクリニックを開業しました。
来院される患者さんは、下は10代から上は80代まで、非常に幅広い年齢層の方がいらっしゃいます。診療にあたっては、患者さんに安らぎを与え、それぞれのライフスタイルを尊重した医療が提供できるよう心がけています。
 たとえば、「電車に乗れない」という症状をもつパニック障害の場合、営業職の会社員の患者さんと、出産を希望されている主婦の患者さんでは、同じ症状に対する治療でも、治療のニーズが異なると思うのです。会社員の方であれば、一刻も早く治療をしてほしいとお考えでしょうし、ご本人の希望によっては職場に症状を説明し、仕事内容を配慮してほしいと依頼するケースもあります。
 一方、これから妊娠・出産を希望されている主婦の方ですと、薬の内服に慎重を期す必要があります。場合によっては、認知行動療法などの心理療法を中心とした治療や、漢方薬を用いた治療を検討することもあります。このように、同じ症状でも患者さんひとりひとりで年齢も立場も、社会的・家庭的環境や考え方もさまざまですので、よく話を聞いてそれぞれの方に最良な治療法が提案できるよう考慮しています。

専門スタッフとの協力体制で患者さんをサポート

 クリニックでは、プライマリ・ケアとして癌の手術後のケアや漢方治療もおこなっています。また、産業医としての経験を活かし、職場のストレスを背景とした病気に対して、職場や復職支援センターなどと連携した対応もおこなっています。
 クリニックのいちばん大きな特徴は「チーム医療」を実施している点だと考えています。幅広い年齢層の、幅広い疾患に対応していくためには、人間がひとりでできることには限りがあると思います。ですから、専門性をもったスタッフたちと協力し、患者さんをサポートしています。
 そのため、クリニックには私のほかに歯科医師、保健師、看護師、臨床心理士、産業カウンセラー、精神保健福祉士が在席しています。たとえば、ストレスが原因で舌が痛くなったり、顎関節症という病気を発症することがあります。このような症例では歯科医師と協力して治療をおこないます。
 パニック障害を持つ患者さんの歯科治療では、心療内科医が一緒にいることで安心してもらうことができますし、過食に悩む患者さんには、保健師が日常生活に即した栄養や運動についてのアドバイスをおこないます。臨床心理士や産業カウンセラーは十分な時間をとってカウンセリングをし、精神保健福祉士は、障害年金や自立支援医療などの社会資源の利用に関するアドバイスやサポートをしています。
 このように、医師だけでなく多くの経験と専門知識を有するスタッフが協力しあうことでこそ、患者さんが安心して医療を受けられると考えています。そして、少しでも早く症状が改善し、患者さんに笑顔が見られることを願い、努力を重ねています。

患者さんの笑顔と音楽が励みに

 日々、実にさまざまな症状をもつ患者さんと出会い接していますが、もっとも緊張するのは、生きる気力を失っている患者さんと接するときでしょうか。こちらの何気ない一言や思いもよらぬ言葉のニュアンスで、重大な事態を引き起こしてしまう可能性もありますので、細心の注意をはらって対応しています。
 また、一見しただけでは心配な兆候が見られない患者さんでも、ふとした表情や言葉から、そういうサインをキャッチできることもあります。それを見逃さず、何事にも早期に対応できることを心がけています。
 一方で、緊張が解け、気持ちがほぐれるのはやはり、患者さんの症状が軽快し、笑顔で診察終了を迎えられた瞬間です。そんな瞬間を多く迎えるためにも、私自身が心身ともに健康でいることが大切だと実感しています。自分自身の健康のために心がけていることといえば、「何があってもなるべく感情的にならず、つねに平常心を保つ」こと。休日には好きなジャズのCDを聞きながら自宅でゆっくりくつろいだり、ときどきフラッと散歩に出かけてあちこち散策したりしながら、リフレッシュして過ごしています。
 これからもこの場所で、患者さんそれぞれのプライバシーを尊重した治療、患者さんが人生を心から楽しめるようなサポートを重視した医療を提供して、地域医療に貢献し続けたいと考えています。

取材・文/出村真理子(Demura Mariko)
フリーライター。主に医療・健康、妊娠・出産、育児・教育関連の雑誌、書籍、ウェブサイト等において取材、記事作成をおこなっている。ほかに、住宅・リフォーム、ビジネス関連の取材・執筆も。

大塚・栄一クリニック

医院ホームページ:http://www3.ocn.ne.jp/~eiichi34/

JR大塚駅南口から徒歩3分。駅から近い場所にありながら、静かな立地で通いやすいクリニックです。
詳しくは、医院ホームページから。

診療科目

心療内科、内科、アレルギー科、歯科

内田栄一(うちだ・えいいち)院長略歴
1992年 東京大学大学院修了、 JR東京総合病院精神科、東日本旅客(株)中央保健管理所兼務
1993年 LCCストレス医学研究所
1996年 大塚・栄一クリニック開設


■所属・資格他
日本心身医学会心身医療「精神科」専門医、日本産業衛生学会専門医・指導医、日本精神神経学会専門医・指導医、日本心療内科学会心療内科専門医、日本プライマリ・ケア学会研修指導医、日本臨床内科医会臨床内科専門医


この記事を読んだ人は他にこんな記事も読んでいます。
記事の見出し、記事内容、およびリンク先の記事内容は株式会社QLifeの法人としての意見・見解を示すものではありません。
掲載されている記事や写真などの無断転載を禁じます。