第141回 地域密着型の精神科クリニックを目指す
[クリニックインタビュー] 2012/10/12[金]
大学病院が医療の最先端とは限りません。患者のこと、地域のことを第一に考えながら、独自の工夫で医療の最前線に取り組んでいる開業医もたくさんいます。そんなお医者さん達の、診療現場、開業秘話、人生観、休日の過ごし方、夢などを、教えてもらいました。
第141回
あべクリニック
阿部哲夫院長
精神医学に興味を持ち、医師を目指す

医師を目指したきっかけは、中学1年か2年のころ、当時流行していた北杜夫やなだいなだといった精神科医の書いた小説やエッセイに影響を受けたこと。そこで精神科医という職業があることを知り、心の病気というものに興味を持ち、そういう仕事ができたらいいな、と考えたのが始まりでした。ですから私の場合は、数ある診療科の中から精神科を選んだのではなく、最初から精神科医になりたくて医師を目指しました。
医学部時代はさまざまな病院へ実習に行きましたが、当時はまだ精神科医療は他の診療科と比べると立ち遅れている感があって、病院も今とはずいぶん雰囲気が異なっていました。そのため、一時は精神科に進むことを躊躇ったり、眼科や耳鼻科など他の診療科に興味を持ったりしたこともありました。しかし、迷い悩んでいたときに、学生時代からお世話になっていた先輩精神科医の「精神科の病気は、医師が積極的に関わることで劇的に症状が改善することもあり、非常にやりがいがある仕事だと思う」という言葉を聞き、思い直したのです。おかげで初心に立ち返ることができ、精神科の医師となりました。
高度な専門医療で地域に貢献したい

クリニックの基本理念は、「患者さんが安心できる環境で、心の通ったていねいな医療と精神神経科・心療内科の高度な専門医療を提供したい」ということ。クリニックでは医師、看護師のほか、ケースワーカーと心理職、事務職などの各スタッフが専門性を活かして患者さんの治療にあたっています。
そして、私がこのクリニックでやりたかったのが「地域精神医療に貢献する」ということ。千葉の病院勤務が長く、自身が東京出身だった私は、開業する際、荒川区や北区、板橋区をクリニックの候補地として考えていました。その時、ここ荒川区には基幹となる精神科病院がないことに気付いたのです。隣の足立区には核となる精神科病院があり、文京区には大学病院もあるのに、荒川区は精神科病院も少なくベッドはゼロ。とくに日暮里はターミナル駅にもかかわらず、精神科のクリニックが1軒もありませんでした。
そういった理由からこの地を選んだのですが、最初は、同じ東京でも私の出身地である多摩地区と異なり、人と人との距離が近いことに驚き、戸惑いました。しかし今では、下町のそんな人間関係が心地よく、日暮里という土地が大好きになりました。ですから、クリニックが自分の大好きな土地の地域精神科医療の核になれればいいな、と思っています。
クリニックでは外来診療のほかに、デイナイトケアや訪問診療もおこなっています。この地域でも高齢化が進んでいて、認知症の患者さんが増えています。こちらから出向かないと治療ができないケースや、ご家族がとても困っているケースもあるため、そういった患者さんのケアやご家族へのサポートもおこなっていきたいと考えています。
現在では、認知症患者さんは全体の5%ほど。いちばん多いのはうつ病で、来院する患者さんの約半数を占めています。20%が統合失調症で、その他がパニック障害やパーソナリティ障害、発達障害など。患者さんの年齢層も、お子さんからご高齢の方までかなり幅広くなっています。
患者さんとご家族の視点を忘れない治療を

毎日、多くの患者さんと向き合っていますが、診療のときに心がけていることは、病気になっている側の視点で患者さんを診るということ。とは言え、あまり共感を持ちすぎてもよくないのですが、患者さんの目線で、その病気をどう体験しているのかを理解しながら、治療をしていきたいと考えています。
また、患者さんだけでなく、ご家族のサポートも重要。とくに統合失調症やパーソナリティ障害などで症状が重い患者さんの場合、ずっとそばについているご家族はとても苦労されることが多いので、ご家族の立場も考えた治療を心がけています。ご家族へのケアとしては、病気に対しての理解を深めてもらうことや、患者さんへの具体的な接し方のアドバイスなどをおこなっています。診療時間内で十分に説明できない場合は、ケースワーカーや心理士などと話していただく時間を作るようにしています。
外来に併設しているデイケアでは、1日60~70人ぐらいの患者さんが活動をしていますが、最近患者さんの数が増えており、手狭になってきた施設をどうするかが、今後の課題です。施設を大きくするためには医師やスタッフを増やす必要があるなど、実現するのにはいくつかのハードルがあるのですが、いずれはデイケア施設をもうひとつ作りたいというのが今の夢ですね。また、デイケアでは復職支援もおこなっていて、最近そのプログラムにうつ病の再発予防のための取り組みとして、運動療法を取り入れるようになったので、その充実も図っていきたいと考えています。
趣味はテニスと音楽、最近のマイブームは「散歩」

私自身が心身の健康を維持するためにしていることは、テニス、音楽を聴くこと、人と会話を楽しむこと。テニスは週に2回はしていて、汗を流すことがストレス解消になっているので、元気に仕事を続けるための、いわば「仕事の一部」くらいの気持ちで打ち込んでいます。後は、ブラジル音楽を聴いてリラックスしたり、自分でも少しですがギターを弾いたりします。デイケアでは2、3カ月に一度、知人のミュージシャンを招いてライブをするなど、定期的に演奏会をおこなっているのですが、そういう場で演奏することもあるんですよ。
また、最近ハマッているのが散歩。とくに、近くに谷中墓地があるので、そこを1時間から1時間半ぐらいかけてブラブラ散歩するのがマイブームです。谷中墓地は日当たりもいいし、緑も豊富で、墓石に「明治○年」と彫られているのを見て「そんな昔からこのお墓はあるんだな」と思ったり、供えられたきれいな花を見て、ご家族の思いを感じたり…、そういうことを想像しながら散歩するのが好きですね。
知人からは、お墓で散歩だなんて不謹慎と言われたりもしますが、このあたりでは、墓地やお寺と地域とがすごく密着していて、お花見のシーズンに谷中墓地で宴会するのも当たり前。住んでいる人にとって墓地は家族やご先祖様が眠る場所で、憩いの場になっているんですよね。そういう地域性が私はとても好きなのです。
開業して15年。今では住まいも近所ですし、散歩するのも飲み歩くのも、全部このあたり。そんな居心地の良い日暮里で、これからも地域に根付いたクリニックを続けていきたいと思っています。
フリーライター。主に医療・健康、妊娠・出産、育児・教育関連の雑誌、書籍、ウェブサイト等において取材、記事作成をおこなっている。ほかに、住宅・リフォーム、ビジネス関連の取材・執筆も。
医療法人社団讃友会 あべクリニック
医院ホームページ:http://www.abeclinic.com/index.html

JR・京成線「日暮里」駅南口より徒歩2分。インテリアもスタッフの対応もあたたかく、安心して通えるクリニックです。
詳しくは、医院ホームページから。
診療科目
精神神経科、心療内科
阿部哲夫(あべ・てつお)院長略歴

1985年 静和会浅井病院精神科勤務
1992年 同病院社会復帰部長として精神科リハビリテーションを担当
1997年 あべクリニック開業
2000年 あべクリニックにデイケアを開設
2001年 あべクリニックにデイナイトケアを開設
2008年 現住所に移転
■所属・資格他
医療法人社団讃友会理事長、精神保健指定医、精神神経学会認定専門医、社会福祉法人トラム荒川(ひまわり作業所)理事、荒川区障害者福祉課相談医、荒川区福祉高齢者課相談医、荒川区中学校精神科校医
- この記事を読んだ人は他にこんな記事も読んでいます。
掲載されている記事や写真などの無断転載を禁じます。