第142回 女性の一生をサポートできる産婦人科を目指して
[クリニックインタビュー] 2012/11/09[金]
大学病院が医療の最先端とは限りません。患者のこと、地域のことを第一に考えながら、独自の工夫で医療の最前線に取り組んでいる開業医もたくさんいます。そんなお医者さん達の、診療現場、開業秘話、人生観、休日の過ごし方、夢などを、教えてもらいました。
第142回
加塚医院
加塚有紀院長
父の背中を追って医師に

加塚医院の先生方。右下が加塚有紀院長(写真提供:加塚医院)
私の場合、生まれる前から父が産婦人科の開業医をしていました。物心つくころから父の働くうしろ姿をずっと見ていたので、自然に「いつか自分もそうなるのかな」という思いが芽生えたように思います。「医師になろう」と本格的に決めたのは、高校で進路を選択するときでしたが、明確に「いつから」と時期を覚えていないほど、幼いころからそういう意識がありました。
また、診療科目を選ぶ際も産婦人科医という職業の、女性の一生をトータルでみられるところに惹かれていたので、ほかの診療科についてはほとんど考えませんでしたね。これまでその選択を後悔したことはないので、きっと自分に合っている道を選んだのだと思っています。
専門は婦人科の腫瘍です。大学時代は女性のがんについての研究や治療ばかりしていて、周産期医療(妊娠中から出産、お産直後の時期の医療)にはあまり携わっていませんでした。しかし、今は出産できる施設がとても少なくなっています。私の周囲でも、知っている先生方がどんどん分娩をとりやめていく現実を目の当たりにして、「父がこれまで支えてきたこの地域の『出産(分娩)』を支えていかなきゃ!」という思いから開業医になることを決めました。
親子三代で来院される患者さんも

昨年の秋に医院をリニューアルし、父のあとをついで院長となりましたが、私ひとりの力で医院を切り盛りしているわけではなく、父と、同じく産婦人科医の兄、内科医の義姉という家族4人体制で診療をおこなっています。
リニューアルと同時に、女性診療科と女性限定の内科を併設しました。産科と婦人科だけでなく、内科系の病気や更年期障害、アンチエイジング、女性特有の悩みなど、若い女性からご高齢の方まで、すべての年齢層の女性に適応する医療を提供できるようにしたかったからです。女性の病気の場合、例えば「おなかが痛い」といった症状でもさまざまな原因が考えられ、「どこの科に行ったらいいかわからない」ということも多いのですが、ここでなら、内科的にも、婦人科的にも、さまざまな角度から診ることができます。
また産科や婦人科の場合、待合室に男性の姿があるだけで入りにくいと思われる患者さんもいるようですが、うちでは患者さんは女性だけなので、安心して来院していただけているようです。
今は、外来だけで1日に80人ぐらいが来院され、そのうちの半数以上が産科の患者さん、つまりお産を控えた妊婦さんです。大学病院のような設備の整っているところで出産したいという方もいれば、反対にうちのようなこじんまりした、家庭的な場所で生みたいという方もいて、お住まいの近くにお産できる施設がないからといって、1時間ぐらいかかるところから来てくださっている患者さんもいます。
父が駒込に開業してからすでに60年以上続けてきたので、妊婦さんのなかには「ここで産まれました」という方も多く、親子三代で通ってくださっている方もいるんですよ。そう考えると、やはりここを継いでよかったと思いますし、またこの先もずっと続けていけたらいいなぁ、と思うんですよね。
女性目線で患者さんの身近な相談相手に

父がやっていたころの医院は、患者さんに対してやさしくて、アットホームな雰囲気がとても支持されていました。ですから、リニューアルして院長が替わっても、家庭的で親身な対応を引き継いでいきたいというのが医院の基本方針。患者さんにとって家族のような存在になれるように、家のように安心できる場所になれるようにと、私も含め、スタッフ全体で日々心がけています。
医師として、私にとってもっとも身近で、偉大な先輩はやはり父です。そんな父を見て見習いたいと思うのは、「患者さんに安心感を与えられる医師である」こと。父が患者さんに「ああ、大丈夫ですよ」というと、そのひと言だけで患者さんは安心して帰っていくんです。私もいずれは患者さんにとってそういう存在になれるようにがんばりたいと思いますね。
一方、私は父にない「女性の目線」や、同世代としての考え方で「自分だったらどうしてほしいだろう」と考えながら診療にあたることができるので、女性ならではの悩みを素直に出してもらえるような関係は作りやすいかな、と思っています。
診察中に、「問診票には書きにくかったのですが、先生が女性だから、もうちょっと質問してもいいですか」と聞いてくださったりすると嬉しいですよ。おそらくそれが私の最大のメリットだと思いますし、患者さんが安心して相談できるような雰囲気を作りたい、身近な相談相手でありたいといつも思っています。
患者さんのひと言でやりがいを実感

私自身が健康のために意識しているようなことは、とくにないんです。強いて言うなら自分の好きなこと、楽しいことをしてストレスをためないことぐらいでしょうか。最近は赤ワインが好きなので、美味しい食事ができてワインが飲めるお店に行って、友人とおしゃべりするのがリフレッシュになっています。
趣味は、今は仕事ですね。医院の上階が自宅なので、四六時中仕事ばかりしていると思われていますが、自分では自由に気分転換できているし、拘束時間は長いかもしれませんが、本当に仕事が好きで、楽しんでやっているので、縛られているとか窮屈な感じはないですね。
お産はいつ来るかわからないので、産婦人科は24時間、365日休みはありません。私自身も休みはほとんどないですし、夜のお産が重なったりしてまったく眠れない時などは、体力的にきついと感じることも。でも、家族みんなで助け合ってやっていますし、何より出産したお母さんが赤ちゃんを抱いて笑顔で「ありがとうございます!」と言ってくださったりすると、それだけでもう疲れなんて吹っ飛んでしまいますね。そのひと言で癒されて、「ああこの仕事していてよかった」と思います。
これからは、もっと患者さんへのサービスを充実させていきたいと考えています。出産って一生にほんの数回しかない、女性にとっては本当に大きなイベントですよね。もちろん安全に出産できるようサポートできることが大前提ですが、プラスアルファとして、お産の後の入院中、快適に、リラックスして楽しんで過ごしていただけるようなサービスを提供し続けたいと思っています。
あとは、やっぱり患者さんと長くおつきあいできる関係を築いていきたいですね。出産した方が、何年か後に「二人目の子が欲しいんです」といらっしゃったり、もっと年齢を重ねてから「更年期みたいな症状が出てきたんです」と来院されたり。女性は、その世代世代でいろいろな悩みに直面するので、そのたびに「加塚医院に行って相談してみようかしら」と思っていただけるような、地域に根づいた医院にしたいと考えています。
フリーライター。主に医療・健康、妊娠・出産、育児・教育関連の雑誌、書籍、ウェブサイト等において取材、記事作成をおこなっている。ほかに、住宅・リフォーム、ビジネス関連の取材・執筆も。
医療法人社団祐喜会 加塚医院
医院ホームページ:http://kazuka.jp/index.html

JR山手線・東京メトロ南北線「駒込」駅より徒歩1分。
昨年9月にリニューアルしたばかりなのでとてもきれいで、女性が安心して通える家庭的な雰囲気の医院です。
詳しくは、医院ホームページから。
診療科目
産科、婦人科、内科、女性診療科
加塚 有紀(かづか・ゆき)院長略歴

2006年 同大学大学院修了 同大学附属病院産婦人科
2011年 加塚医院 院長
(写真提供:加塚医院)
■所属・資格他
日本産科婦人科学会、日本婦人科腫瘍学会、日本癌治療学会
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