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[クリニックインタビュー] 2012/11/16[金]

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大学病院が医療の最先端とは限りません。患者のこと、地域のことを第一に考えながら、独自の工夫で医療の最前線に取り組んでいる開業医もたくさんいます。そんなお医者さん達の、診療現場、開業秘話、人生観、休日の過ごし方、夢などを、教えてもらいました。

第143回
医大前南4条内科
田中裕士先生

夜中に起こされて産婦さんを運んだ中学時代


呼吸器系のアレルギー疾患治療で第一人者の田中院長。診察ではコミュニケーションを大切にするいたって気さくな先生だ

 僕の実家は小樽の産婦人科医院で、小学生の時にはもう自分は医師になるんだと思っていましたね。実家の建物は住居と医院が隣接する造り。よく夜中にたたき起こされては産婦さんを担架で2 階へ運ぶ手伝いをしていました。中学、高校生とそんな生活で、ほかになろうと思う職業もないままスーッと来た感じです。
 高校卒業後は札幌医科大学に入りましたが、特に産婦人科へのこだわりはなかったかな。僕が学んでいた時期に、ちょうど呼吸器専門の鈴木明教授が国立がんセンターから赴任されました。新進気鋭の先生で、僕が呼吸器科をおもしろいと思ったのはまさにこの頃でした。
 鈴木先生は、学生を集めてよくレントゲンの読影会をされていました。レントゲン写真を出して「心臓に重なってある影の辺縁が鮮明である。ということは、病変があるのは肺の前か後ろの方か」と、こんな感じで所見を聞くんですよ。学生ですからあまり答えられないのは分かっているけれど先生は進め方が上手でね、途中から簡単なヒントを与えて最終的には学生自身が診断した気にさせてくれる。この会はとても人気で、6年生の6割は参加していたんじゃないかな。僕は他の人よりも1年ほど早く参加していたおかげで、鈴木先生の第3内科に入局した時にはすでにレントゲン写真が読めるようになっていました。

父の死をきっかけに臨床研究の必要性を実感


診察室には35種類の吸入薬がオブジェのように飾られ、患者さんの状態に合った薬剤を副作用も考慮しながら選び出していく

 今のクリニックは診療と臨床研究の二本柱で経営しています。患者さんを治すためには、研究も必要ですから。正直なところ研究のほうは全くの赤字ですが、僕なりのポリシーに基づいて行っています。
 臨床研究もやっていこうと思ったのにはきっかけがあります。35歳ぐらいだったでしょうか、僕が札幌の病院に勤めていた時期に父親が亡くなりました。間質性肺炎だったと思います。これは肺のアレルギーで、その原因は本人が健康のために飲んだ漢方薬でした。僕も当時は漢方薬がアレルゲンになるなんて思いもしませんでしたね。でも、頻度は低いですが実際あることなのです。
 咳が止まらず入退院を繰り返し、私も治療薬を求め回りましたが、結局父は亡くなりました。後で解剖をしたら肺が真っ黒になっていました。タバコは一切吸わない人でしたので、当時一般的だった石炭ストーブのある環境で育っていたことが間接的な原因になったのかもしれません。僕はそれまでネズミを使った免疫学的な実験をしていましたが、父のことが患者さんの治療に直結する臨床研究へと方向転換をした大きな理由です。
 また、他にも理由があります。札幌医大に戻ってぜんそくを専門に診療を始めた時、僕は医学書を見ればその治療方法が書いてあると思っていました。しかし、その通りにやっても目の前の患者さんは治らない。それが、診療しているうちに個々の患者さんによって過ごす環境や発症要因、疾患を起こしている箇所などが千差万別であることが分かってきたのです。個別医療、またはオーダーメイド医療といわれるように、患者さんを治すにはひとりひとりに合った治療をすることが必要で、そのためにも臨床での研究は欠かせないと強く感じました。

咳の原因は副鼻腔炎や逆流性食道炎も


症状の原因を正確に診断するために肺機能(右)、呼吸抵抗測定(左)など大学病院並みの検査機器を備えている

 札幌医科大学で准教授まで務めた後、2011年11月1日にクリニックをオープンしました。開業の理由は、どうしても大学では会議や雑務などで時間を取られてしまうことが大きかったですね。患者さんを治すための研究を自分でもっと進めていきたい、また患者さんの話をゆっくり聞ける診療をしたいと思いました。
 当院は低被ばくヘリカルCTや呼気中の一酸化窒素測定、精密呼吸機能測定、気道過敏性試験などの検査ができる大学病院レベルの機器を備えています。やはりきちんと機器で検査をしないと分からない病気もたくさんありますからね。咳の原因は本当にさまざまで、診察だけではその見極めが難しいです。肺や気管、気管支のどこの部分がどれぐらい、どのようにダメージを受けているかによって治療は違ってきますし、副鼻腔炎や胃食道逆流症といった耳鼻科や消化器科の領域で咳に苦しむこともある。


「状態を知り、不安を取り除くためにも診療での会話は大切」と話す田中院長。開業してから患者さんと向き合う時間が増えた

 先日は、長い間ぜんそくと診断されていた30代の女性をこちらで診察した結果、アレルギー性の副鼻腔炎が原因だったことが分かりました。「鼻の病気で咳が出るんですか?」と驚かれましてね、内服薬と点鼻薬を処方したところ2週間で症状が消えて、看護師さんの前で彼女は涙を流していたそうです。また、別の日にはうちの医院から満面の笑顔で出てきた方の姿を見たとスタッフから聞きました。咳の苦しみから解放されるとはこういうことなのだなあと、日々実感しています。
 ぜんそくには、生活環境やストレスの問題も大きく影響しています。だから、特に初診の方に対しては病歴をヒアリングする看護師、そして医師の僕も患者さんの訴えをじっくりと聞くよう心掛けています。うちのスタッフは全員、とても気が利くしトークも明るい。特に僕がそう指導しているわけではありませんが。患者さんも面白い話をされる方が多くて、けっこう笑いの絶えないクリニックです。一方で、発作を起こして来られた方は診察を優先します。また、素早く吸入や点滴を行うなどスタッフの迅速なチームワークで対応しています。

アレルギー疾患の包括的な施設を構想中


札幌市で行われた呼吸リハビリ教室。講演前には「先生のおかげで外出できるようになりました」とお礼を言う人も見られた

 おかげさまで講演に呼ばれることも多く、テレビや新聞、雑誌の取材などもあって1日中休めるのは年に数回あるかどうか。でも、咳のことは皆さん知っているようで知らないことがとても多いですから、ぜひ正しい知識を持ってほしいと思って取材などの依頼にはなるべく応えるようにしています。出張中の飛行機の中でも論文や依頼原稿を書いたりしていますね。学会での講演も、開業医の僕にとってはいろいろな情報が入る場でもありますからとても大切にしています。
 妻からは「あなたの趣味は仕事ね」なんて言われていますが、昔は競技ダンスが趣味で北海道大会では優勝したこともあるんですよ。今は、自分の健康を保つために週に1度夫婦でストレッチ教室に通っています。食事は、妻が健康に配慮した料理をいつも一生懸命つくってくれるので本当に感謝しています。
 11月に1周年を迎えたこのクリニックですが、僕にはさらなる構想があります。それは、札幌に呼吸器内科、耳鼻科、皮膚科、消化器科、小児科を包括したアレルギーセンターを創設することです。そのために、今年初めには前段階として「NPO法人せき・ぜんそく・アレルギーセンター」を立ち上げました。無謀と思われる試みかもしれませんが、僕は患者さんがあちこちの医院や科を回らなくて済むように、そして本当に患者さんの役に立つ診療と研究を行うためにも、このセンターの実現に向けて本気で取り組んでいきます。

取材・文/高橋明子(たかはし・あきこ)
東京の業界紙や編集プロダクション勤務を経て、札幌移住を機にフリー。各種雑誌や書籍、ウェブサイトで地域情報や人物、住宅などの取材を行う。

医大前南4条内科

医院ホームページ:http://idaimaes4-naika.com/

写真左:クリニックは札幌医大の南向かい、薬局が入ったビルの3階にある。
写真中:エントランスの看板は患者さんに安心感を与える色を採用した。
写真右:院内は極力化学物質を排除し、院長自身が壁や天井など国内外から内装材を厳選して取り寄せた。カウンターも無垢のアカマツ材を使用。

地下鉄東西線西18丁目駅5番、6番出口から徒歩約7分、札幌市電山鼻線西15丁目駅から同約4分。
札幌医大病院の南向かい「ほくやく南4条ビル」(パルス薬局)の3階。駐車場14台。
詳しくは、医院ホームページから。

診療科目

呼吸器内科、アレルギー科

田中裕士(たなか・ひろし)院長略歴
1983年 札幌医科大学医学部卒業 同年 札幌医科大学医学部内科学第三講座入局
1985年 函館医師会病院呼吸器科
1986年 函館市立病院呼吸器科
1987年 札幌医科大学医学科内科学第三講座研究生
1990年 市立釧路病院呼吸器科医長
1991年 北海道恵愛会札幌南一条病院呼吸器科医長
1992年 札幌医科大学医学部内科学第三講座助手、97年講師、2005年助教授(准教授)
2011年 医大前南4条内科開設


■所属・資格他
日本内科学会、日本アレルギー学会(代議員)、日本呼吸器学会(代議員・「咳嗽に関するガイドライン」作成委員)、日本呼吸器内視鏡学会(代議員・将来計画委員)、日本マイコプラズマ学会(理事)、日本感染症学会ほか


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