第149回 新生児から高齢者まで安心して生活できる医療を
[クリニックインタビュー] 2013/05/10[金]
大学病院が医療の最先端とは限りません。患者のこと、地域のことを第一に考えながら、独自の工夫で医療の最前線に取り組んでいる開業医もたくさんいます。そんなお医者さん達の、診療現場、開業秘話、人生観、休日の過ごし方、夢などを、教えてもらいました。
第149回
増田クリニック
増田勝彦理事長
「自分の手で病気を治したい」と医師を目指す
増田勝彦理事長(写真提供:増田クリニック) 最初に「医師になりたい」と思ったのは、小学校6年生のときの卒業文集でした。そのときはまだ漠然とした思いで、北里柴三郎とか野口英世などの伝記を読んで、「がんを治したい」と書いた記憶があります。
本格的に医師への道を考えるようになったのは、高校1年生のとき。母の弟である叔父が30代で肺がんを患い、若かったせいか病気の進行も早く、あっという間に亡くなってしまったのです。自分が医師になれば、家族や身近な人が病気になったときに治せる。そう思い、医師を目指しました。
医学部時代に臨床実習で各科を回りながら、外科の「自分の目で見て診断し、直接手でふれて病巣を取る」ストレートさ、自分で患者さんを治すというところに魅力を感じ、外科を専門に選びました。叔父の肺がんのこともあったので胸部外科も考えましたが、私の通っていた大学の第一外科では、小児から高齢者までの手術をおこなっていたので、幅広くいろいろな患者さんの治療にあたることができると思い、第一外科を選択。ER(救急救命)や僻地医療にも興味があったので、自らの手で患者さんの命を救う実感が持てる医療に惹かれていたのだと思います。
患者さんが「求めること」を追求する

現在、クリニックでは外科や内科、小児科、総合診療科などの常設外来のほか、皮膚科、循環器科、呼吸器科、リハビリテーション科などの専門外来も設け、新生児から高齢者まで、どなたでも安心して受診していただけるクリニックを目指しています。専門外来では、大学病院から専門医を招いて、高度な医療を提供しています。
クリニックには、午前中だけで130人ぐらいの患者さんが来院し、そのうち80人ぐらいを私が診ています。患者さんの症状に応じて、自分よりも専門の先生のほうが詳しい分野の場合は、その先生に引き継ぐこともあります。複数の病気を持つ患者さんもいるので、その時々で臨機応変に対応し、カルテはほぼすべての患者さんのものに目を通して把握するようにしています。
クリニックの基本方針はいくつかあるのですが、いちばんの柱は「すべては患者様のために」ということ。患者さんが何に困って、何を求めて受診してきたかをしっかり把握し、治療内容を決めるようにしています。
そのために私自身が意識しているのは、患者さんの生活環境など、病気の背景まで理解すること。そして、なるべく1回の診療で病気の診断をし、治療方針を決めることです。もちろん、しばらく経過を見ないとはっきりわからない病気もありますが、なるべく迅速に判断することが患者さんにとって良いことだと思いますから。そのためにも、初診は私が担当させていただき、時間をかけてお話しを伺うようにしています。
目指すは、「日本一」の在宅医療
デイサービスのベランダ(写真提供:増田クリニック) 日本ではどんどん高齢化が進んでいますし、ここ足立区もやはり高齢化は顕著です。クリニックを受診される患者さんもご高齢の方の割合が多く、生活習慣病のほか、認知症やがんの患者さんも多い傾向にあります。クリニックではデイサービスを併設し、専門医による訪問診療も積極的におこなっています。
昔、大学病院に勤務していたころに訪問診療をしたことがあり、暗い部屋の中で寝たきりの状態でいる患者さんと向き合い、衝撃を受けました。通院したくてもできない患者さんに、必要なときに適切な専門医療を提供したい。そう思い、開業してからは寝たきりの方やがんの終末期の患者さんを対象とした在宅医療にも力を入れてきました。区内に同法人のクリニックと介護施設を複数開設し、介護と医療の連携を図っています。
訪問診療は24時間年中無休で、患者さんに呼ばれればいつでも行きます。雨でも雪でも、台風でも、もちろん夜中でも、何があっても行く。患者さんには私の携帯電話の番号を教えてあるので、何かあればいつでも電話が来ます。いつ呼び出されるか分からない緊張もありますし、24時間いつでもオンの状態になれる準備をしておくことは大変ですが、患者さんやそのご家族に、いつでも安心して生活してもらいたい。その理想を叶えるために続けています。
昔はすべてひとりで対応していたので本当に大変でしたが、今は当直の先生に担ってもらえる部分もあり、助かっています。
孫と過ごす時間が何よりの癒し
リハビリ室(写真提供:増田クリニック) 忙しくても元気でいるために、毎日運動をしています。クリニック2階のデイサービスに、トレーニング用などの運動器具があるので、毎朝、診察前に1時間ぐらい体を動かし、お昼休みや夜にもちょっとやります。実は以前、不摂生をして太ってしまったことがあったのです。太った医師に「やせなさい」と言われても、説得力がありませんよね(笑)。マズイと思って始めたのですが、今ではそれがストレス発散になっています。運動中はひとりで誰にも邪魔されないので、「今度何をしなくちゃ」とか「これからどうしよう」など、考えたり頭を整理したりする貴重な時間にもなっています。
もうひとつの楽しみが、昨年生まれた孫と過ごすこと。本当にかわいくて、今はその時間が何よりの「癒し」ですね。
今後は、今クリニックでしていることの延長として、リハビリに特化したサービス付き高齢者向け住宅と、できればホスピスを作りたいと思っています。とくにホスピスは、現在ではなかなか入れずに待っている人が多い状態。在宅医療だけでは診られなくなったときに受け入れ、家族とスタッフが一緒になって最後の看取りができるような専門の施設があったほうが、より患者さんにも、ご家族にも安心していただけると思うのです。
また、高齢化も進み、「老老介護」が当たり前という時代になりつつあるので、ご家族が介護や治療で疲れてしまわないように、休んでいただく時間を作るためにはショートステイも必要だと思っています。
これからも、外来診療で多くの患者さんを診ることにくわえて、「認知症」と「がん」を中心に、地域の患者さんやご家族が安心して暮らせる医療環境を提供していきたいと考えています。
フリーライター。主に医療・健康、妊娠・出産、育児・教育関連の雑誌、書籍、ウェブサイト等において取材、記事作成をおこなっている。ほかに、住宅・リフォーム、ビジネス関連の取材・執筆も。
医療法人社団容生会 増田クリニック
容生会ホームページ:http://www.yosei.or.jp/

東武スカイツリーライン竹ノ塚駅東口からバス(綾瀬駅行き、車検場・六町駅経由)「第五都営住宅」バス停下車徒歩1分。
大きな窓から陽が降り注ぐ、明るく解放感たっぷりのクリニックです。
詳しくは、医院ホームページから。
診療科目
外科、整形外科、内科、総合診療科、小児科、肛門科、リウマチ科、皮膚科、泌尿器科、循環器科(予約制)、呼吸器科、リハビリテーション科、脳神経外科(予約制)、緩和ケア内科、等
増田勝彦(ますだ・かつひこ)理事長略歴

1992年 増田クリニック開設
(写真提供:増田クリニック)
■所属・資格他
医学博士、日本外科学会専門医・認定医、日本消化器外科学会認定医、日本医師会産業医、日本在宅医学会員、介護支援専門員、足立区会後認定審査会委員、認知症サポート医養成研修終了、がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修終了
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