第153回 患者さんの気持ちをていねいにすくい取る診療を
[クリニックインタビュー] 2013/08/09[金]
大学病院が医療の最先端とは限りません。患者のこと、地域のことを第一に考えながら、独自の工夫で医療の最前線に取り組んでいる開業医もたくさんいます。そんなお医者さん達の、診療現場、開業秘話、人生観、休日の過ごし方、夢などを、教えてもらいました。
第153回
小泉皮膚科クリニック
小泉洋子院長
イヌやネコ、ヘビも飼っていた少女時代

「大学病院の時よりも、患者さんの気持ちがよく分かるようになったと思います」と話す小泉院長。淡々とした語り口の中に患者本位のポリシーがうかがえる
私は生まれた時からこの円山で育ちました。家には父が飼っていたイヌやネコ、ネズミ、それからヘビまでいて、それはにぎやかでしたよ。アオダイショウが脱皮する様子も観ました。
父は産婦人科の医師で、とても明るい人でした。家に動物が多かったのは、研究用のネズミなどを見ていて家でも飼ってみたくなったせいでしょうか。私が小さな頃は市立病院に勤めていて、後にこの地で医院を開業しました。
1階は診療所、2階は住居という造りで、父の仕事を直接見ていたわけではありません。それでも高校生の時には世の中の役に立つ仕事をしたいと思っていましたし、父の強い希望もあって北海道大学の医学部に進学しました。妹は薬剤師をしています。
男女差のないリベラルな皮膚科で研修に励む

医学部では、割と順調に勉学や実習に取り組んでいました。解剖も特にイヤということはなかったですね。人体の骨格を立体的にデッサンもしたことも覚えています。大腿骨のちょっとひねったようなディテールも丹念に描いたりしました。
皮膚科を選択した理由は、例えば心電図などの医療機器で見るよりも、自分の目で直接症状を見て病気を判断していくことが性に合っていると思ったからです。
私の時代には、女子学生に対する冷たい目がまだかなりありました。在籍していた割合は1学年100人に4、5人ぐらいだったでしょうか。女子の入局を断る科もありました。
しかし、皮膚科は当時病院長だった三浦教授をはじめ、先輩方は男女問わず歓迎してくれました。三浦先生は優しそうな半面、指導では厳しいところもありましたが、リベラルな雰囲気がとても心地良かったです。
研修後も私は北大病院に残り、診療や研究に励みました。その間には同級生だった夫と結婚、2人の子どもも生まれました。研究で夜中に帰ることもたびたびでしたね。睡眠時間も短かったけれど、特につらいということもありませんでした。“この研究が進めば患者さんの治療に役立つかもしれない”、ずっと私はそう思ってやってきましたから。やはり、仕事や物事というのは好きでやらなければダメだと感じます。
患者さんの言葉やしぐさをみて診療に生かす

クリニックは円山公園に程近い場所にあり地下鉄や車のアクセスも便利だ
北大病院に24年間勤めた後、生まれ育ったこの円山で小泉皮膚科クリニックを開設しました。ちょうど2000年のことです。医院であれば患者さん一人一人を長期にわたって診ることができ、よりしっかりとカバーができると考えました。
皮膚科は患部を切開して膿(うみ)を出すなど、すぐ結果の見える疾患もあれば、長期の治療を要するものもあります。また、乾癬(かんせん)やアトピー性皮膚炎のように、状態を良好にコントロールするための治療が必要とされるケースもあります。
長い治療期間が必要となる場合でも根気よく続けてもらえるように、患者さんに納得をしてもらえるような診療を心掛けています。アトピーであれば、初診時にはその病気について、また軟こうなど薬の使い方や日常生活の留意点までを丁寧に説明しているつもりです。再診時にあまり改善が見られないようなときは、患者さんとその理由を考え治療法を工夫しています。
毎日の診察では、患者さんが入ってきた時の表情や歩き方を注意して見ています。「今日はいかがですか」と尋ねて「だいぶいいですよ」と答えたとしても、本当に良好なのか、それとも実は悩んでいるのか、言葉通りとは限りません。患者さんが心を開いて、打ち解けて話ができるようにと常に思っています。
少しの希望でも持って帰れるクリニックに

うちのクリニックは、本当に良いスタッフに囲まれています。患者さんたちにも優しく接していますしね。だからでしょうか、看護師が診療後の処置を行っている時も、患者さんはいろいろ話をしています。彼女らは医療に関する質問にもきちんと答えていますし、医師の回答が必要だと思えば私を呼んでくれる。やはり、疑問を引きずって帰るのは患者さんにも良くないので、私も診察の合間を見て説明に行きます。
「医者の不養生」とよくいわれていますが、おかげさまで私自身はあまり風邪も引きません。自分が元気でいなければ患者さんも元気にならないと言い聞かせて、健康でいることを心掛けています。その分、休日にはなるべくリフレッシュするようにしています。私は美しいものを観に行くのが好きで、この4月には仙台で催された美術展で伊藤若冲(じゃくちゅう)の屏風を観てきました。象や鳥などの動物がたくさん、実にいきいきと描かれていました。待合室に掛けてある白い馬の版画はポール・ギヤマンのもの。昔パリへ行った時に買ったお気に入りです。
当院には、家族ぐるみで来られる患者さんや、寿都(すっつ)や滝川、赤平(あかびら)など100km以上離れた所から来てくれる方もいますが、これといって特別な治療をしているわけではありません。ただ、“薬を出して終わり”ではなく、苦しい気持ちで来た患者さんが少しでも希望を持てるようになって帰ってほしい、そして状態が良好になることでつらさから解放され、生活の質が向上するようになってほしい。そう思いながらこれからも診療を続けていきます。
東京の業界紙や編集プロダクション勤務を経て、札幌移住を機にフリー。各種雑誌や書籍、ウェブサイトで地域情報や人物、住宅などの取材を行う。
医療法人社団 小泉皮膚科クリニック
医院ホームページ:http://www.f8.dion.ne.jp/~edifel/hihuka.htm

地下鉄東西線「円山公園」3番出口向かい、市営円山バスターミナルから徒歩1分。駐車場6台。
クリニックは、エレベーターで上った2階にある。1階は夫の小泉眞氏が院長を務める小泉呼吸科・内科クリニック。
詳しくは、医院ホームページから。
診療科目
皮膚科
小泉洋子(こいずみ・ひろこ)院長略歴

同年 同大学医学部皮膚科学講座に勤務
1982年 米国マイアミ大学研究員(~1984年)
北海道大学医学部講師、助教授を経て
2000年 小泉皮膚科クリニック開設
■所属・資格他
日本皮膚科学会、日本臨床皮膚科医会
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