[クリニックインタビュー] 2013/11/01[金]

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大学病院が医療の最先端とは限りません。患者のこと、地域のことを第一に考えながら、独自の工夫で医療の最前線に取り組んでいる開業医もたくさんいます。そんなお医者さん達の、診療現場、開業秘話、人生観、休日の過ごし方、夢などを、教えてもらいました。

第156回
あやせ駅前整形外科・内科
近藤光一院長

小児科医だった叔父の影響で医師の道へ

 私は子どものころ小児喘息を患っていて、小児科医だった叔父によく世話になっていました。父は兄弟が12人いて、そのなかで叔父だけが医師だったのですが、私はその叔父が大好きで、よく家にも遊びに行っていました。
 病気になった時、ほかの小児科医に診てもらったこともありましたが、不思議なことに叔父にもらった薬を飲むと具合がよくなるんですね。今思えば差はなかったのかもしれませんが、当時の私は「叔父さんからもらう薬がいちばん効く」と思っていました。きっと、叔父が大好きで、安心できる存在だったから、ということもあったのでしょう。
 そんなふうに自分自身が医師に頼ることが多く、感謝の気持ちを持っていたことから医師という職業にはシンパシーを感じ、身近に感じていたように思います。
 そして、医師になるために勉強していた医学部時代に、机に向かって物事を考えるタイプの内科より、体を動かす印象だった外科のほうが自分には合っていると感じ、治療の成果が目に見えて出やすい整形外科を専門に選びました。

靴やフットケアの大切さを実感し、専門外来を


写真提供:あやせ駅前整形外科・内科

 大学を卒業して整形外科の医局に入り、最初に所属したのが膝関節や靭帯の手術など、足を専門に診るグループでした。そこで多くの患者さんの足を診ていて、体のほかの部分に比べると、足へのケアはなおざりにされることが多いのではないかと気づいたのです。
 私たちが元気に生活する上で、足はとても大切です。とくにご高齢の方は、ちょっとしたトラブルが原因で歩けなくなってしまい、そのせいで体力が衰えたり、生活の質が低下してしまうことが多くあります。また、足の健康のためには毎日履く「靴」も大事。足に合わない靴を履き続けることで、足に負担がかかり、疲れたり痛んだりすることも多いのです。ところが日本では、そういう靴の大切さがほとんど注目されていません。
 足や、その足を守るための靴の大切さを意識する人が少ないことと、フットケアの重要性を感じた私は、ドイツでフットケアやリンパマッサージなどについて専門的に勉強しました。そこで学んだことを取り入れ、クリニックではフットケア外来や巻き爪外来、靴外来など、足をケアする専門外来を設けています。整形外科医による診察と、専門スタッフによる施術というチーム医療で、地域の皆さんがいつまでも自分の足でたくさん歩き、健康でいつづけるためのお手伝いをしたいと考えています。

常に体と心をセットで考える


写真提供:あやせ駅前整形外科・内科

 現在、私は整形外科の患者さんを受け持っていますが、その多くはご高齢の方です。患者さんの治療において、最も心を砕いていることは、患者さんの心に不安を残さずにお帰りいただくことができるか、気持ちまでしっかりケアできるか、ということ。
 病気を診断し、治療したり、薬を処方したりという体のケアはもちろんですが、体の具合が悪いのと心が不安だということは、セットになっていることが多いので、心のケアまでできて初めて治療と言えるのだと思っています。ですから、じっくり話を聞き、わかりやすい言葉で説明するなど、患者さんに安心していただけるまでコミュニケーションを重ねることを心がけています。それがうまくできなかった時は、もう少し何かして差し上げられたのではないかと落ち込むこともありますし、反対に、「よかった」「ありがとう」と患者さんの笑顔を見ることができた時は、本当にうれしくやりがいを感じます。
 同じ薬を処方されても、ただ薬だけもらうより、「これで大丈夫ですよ」という言葉を添えることで患者さんはより安心してくださるかもしれない。言葉ひとつで気持ちは変わるものですし、安心できることで、痛みやつらさが和らぐこともあるはず。この思いは、私自身が幼いころ、叔父に診てもらって喘息の症状がよくなったことに由来していると思います。

クリニックの理念を「クレド」で共有

写真提供:あやせ駅前整形外科・内科

 患者さんに安心できる医療を提供するためには、医師だけでなくすべてのスタッフが同じ意識を持って仕事をすることが不可欠だと思います。スタッフにいつも伝えているのが、「自分の大切な人にそうするように、患者さんを大切にする。そのためにひとりひとりが医療のプロとしての自覚を持って仕事をしよう」ということ。意識の共有のために、毎朝、全体朝礼と部署ごとの朝礼をおこない、全スタッフでミーティングをおこなっています。
 ただ、気持ちをひとつにしてスタッフ一丸となることは簡単なことではなく、これがクリニックの今後の課題とも言えます。スタッフそれぞれに考え方も価値観も違いますから、意見が食い違うこともありますが、ぶつかり合うことも必要だと思っていますので、スタッフには意見は何でも言ってもらえるように伝えています。スタッフもネガティブなことは言いにくいと思うのですが、マイナスの意見こそ表に出してもらい、必要なところは改善していかないとクリニックはよくなりません。スタッフが充実感を持って働ける環境が整って初めて、患者さんにも満足していただける医療を提供することができると思うので、スタッフが意見を言いやすい環境を整えることも重要と考えています。
 また、クリニックの理念や信条を文章化した「credo(クレド)」を作成し、スタッフ全員で共有しています。クレドとは、ラテン語で「信条、志、約束」を表す言葉で、高級ホテルチェーンのリッツカールトンなどでも、社員は全員、このクレドカードを携帯していると言われています。
 私たちも半年間、何十時間もかけて何度もミーティングを繰り返し、「朝いちばんの気持ちよい挨拶から1日をスタートしよう」「家族、友人に自信を持って紹介できるクリニックにしよう」など、クリニックや患者さんへの思いをまとめました。今はポケットサイズのファイルに入れ、スタッフみんなが身に付けています。
 例えば、一流といわれるレストランは、ただ料理が美味しいだけではありませんよね。料理長がどんなに美味しい料理をつくっても、ホールスタッフの態度が悪かったらすべてが台無しになってしまう。同じように、クリニックも医師の力だけでは成り立たないはず。チームプレーが重要であり、患者さんに安心や満足を提供するという意味では、私たちの仕事もサービス業のひとつと言えると思うのです。それも、単なる楽しみのためではなく、人々の健康や生活に直接結びつく、最もデリケートでシビアなサービス業と言えるのではないでしょうか。
 私たちの願いは、フットケアを始めとする、患者さんに必要な医療を提供し、患者さんが健康に、元気に生活するためのお手伝いをすること。そして、体の不調を改善するのはもちろん、心の不安も取り除くことです。これからも、全スタッフで気持ちをひとつに、「ここに来てみてもらえればよくなる」と安心していただけるクリニック、患者さんを幸せにできるクリニックを目指していきたいと思っています。

取材・文/出村真理子(Demura Mariko)
フリーライター。主に医療・健康、妊娠・出産、育児・教育関連の雑誌、書籍、ウェブサイト等において取材、記事作成をおこなっている。ほかに、住宅・リフォーム、ビジネス関連の取材・執筆も。

医療法人社団 育楽会 あやせ駅前整形外科・内科

医院ホームページ:http://www.ayase-ekimae.com/

(写真右提供:あやせ駅前整形外科・内科)
東京メトロ千代田線「綾瀬」駅西口より徒歩1分。
患者さんの不安や痛みをやわらげる、スタッフの明るい笑顔と言葉があふれるクリニックです。
詳しくは、医院ホームページから。

診療科目

整形外科、内科、循環器科、リハビリテーション科

近藤光一(こんどう・こういち)院長略歴
1985年 東京医科歯科大学付属病院 整形外科医局
1987年 日産玉川病院整形外科
1988年 川口工業病院整形外科
1989年 湘南鎌倉病院整形外科
1992年 あやせ駅前整形外科・内科を開設


■所属・資格他
日本整形外科学会専門医、リハビリテーション臨床認定医


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