第184回 皮膚は身体の状態を映し出す鏡
[クリニックインタビュー] 2015/06/12[金]
患者のこと、地域のことを第一に考えながら、独自の工夫で医療の最前線に取り組んでいる開業医のお医者さん。そんなお医者さん達の、診療現場、開業秘話、人生観、休日の過ごし方、夢などを、教えてもらいました。
宮の森スキンケア診療室 上林淑人院長
大やけどを負ったコンスタンチン君の手術に参加

学生時代は、札幌医科大学で勉強をしながらバンドに熱を入れていました。私はキーボード担当で、ロックは英国のイエス、ポップスは佐野元春などをコピーしていましたね。
卒業後は、外科的な領域も手掛けられる皮膚科に入局しました。ちょうど、その夏のことです。サハリンから3歳のコンスタンチンくんが、全身に大やけどを負って札幌医大に緊急搬送されてきました。まだロシアがソ連と呼ばれていた時代です。国交もスムーズではない状況の中、特例によって日本から迎えに行った飛行機とヘリコプターで到着しました。
熱湯に体ごと浸かってしまったというコンスタンチンくんは、非常に命の危険が高い状態でした。当時は皮膚科の中に形成外科があり、阿部清秀先生が陣頭指揮を執って緊急手術を行いました。私もそのチームに入り、複数の医師で分担しながら壊死した皮膚を取って正常な皮膚を移植しました。その後、手術を重ねた結果、完治して元気にサハリンへ帰っていった時はやはりうれしかったものです。今年、テレビで現在の姿を放映してくれていました。家庭を持つすっかり逞しい青年になっていて・・・医師になってよかったなあと思いましたね。
その後も、さまざまな皮膚疾患、熱傷や悪性腫瘍、先天奇形などの患者をたくさん診ました。しっかりと治療を行い、状態が改善して見た目もきれいになると患者さんも喜び満足してくれる。そうした経験を積んでいくうちに、私はこの仕事にやりがいを見出していきました。
本当のスキンケアとは肌の状態をよく観察すること

1995年から道内の病院に形成外科医長として勤めた後、1998年に「宮の森スキンケア診療室」を開設しました。当時、「スキンケア」という言葉が入った医院名は珍しかったのですが、これには、私なりの思い入れがあります。
スキンケアといえば、よく顔をマッサージしたり何かを塗ったりという美容的な意味で使われていますが、私は少し違う考えを持っています。本来のスキンケアとは「体の一部として皮膚に日ごろから関心を持ち、健康な皮膚を維持するように心掛けること」です。”皮膚は体を映す鏡”といわれますが、具合の悪い人が、お肌だけツヤツヤしていることはありません。「お肌の変化は、体の状態を表すサイン」と考え、日々の生活を整えていけば健康を保つことができますし、病気の予防にもつながります。
来院される方は、小さなお子さんからお年寄りまで年齢層が広いですね。診察時には患者さんの訴えによく耳を傾けて、何を望んでいるかを探り、皮膚トラブルが起こる原因やどのような治療が必要かを、納得いくまで説明をするように心掛けています。
皮膚トラブルは体の不調が隠れている場合も

患者さんの中には「すぐ治る薬が欲しい」「塗り薬だけでいい」と言う方も少なからずいらっしゃいます。それは、その時の患者さんのご要望なのでいいとは思うのですが、病態を理解していないと症状がぶり返してまた来られることも多いのです。
例えば、虫刺されのように原因がはっきりしているものは、それに対応する治療をすれば済むことです。しかし、原因がよく分からないじんましんが出るときには、例えばアレルギー体質だったり、疲れ・ストレスだったりと、さまざまな原因が考えられます。その場合は、皮膚に対する薬を使っても根本的に治せるわけではありません。
そんなときに、漢方が効果のあるケースもあります。特に頑固なにきびには、その人に合った漢方薬を処方すると体質自体が改善されて治りやすいのです。同時に、生理や便通のトラブルも良くなったと患者さんに喜ばれたりもします。アトピー性皮膚炎でも、漢方を併用することによって西洋薬や塗り薬を弱いものに、または少なくしていくことができます。
診療デスクに愛犬レオの写真を挟んで

うちのクリニックは、開設時から「患者さんが『来て良かった』と思える医院に」という目標を掲げてきました。長年勤めているスタッフも多いので、今はあうんの呼吸でやっています。穏やかな雰囲気だと言われるとうれしいですね。
私の趣味は、軽いジョギングや読書といったところでしょうか。あと、犬の散歩もしています。飼っているのはレオという柴犬で14歳、人間でいえばお年寄りです。私の机にも写真を貼ってあり、診察の合間にもちょっと目に入ったりしますね。長生きしてくれればいいなあと思っています。
皮膚の病気は、一朝一夕では治らないものもあります。それでも、うちに来てもらったからにはいつも何らかの満足感を得て帰ってもらいたい。患者さんの状態が本当に改善されて「このクリニックで良かった」と心から思ってもらえるように、さらに精進していきたいと思っています。
東京の業界紙や編集プロダクション勤務を経て、札幌移住を機にフリー。各種雑誌や書籍、ウェブサイトで地域情報や人物、住宅などの取材を行う。
宮の森スキンケア診療室
医院ホームページ:http://www.m-skin.com/

札幌市営地下鉄東西線西28丁目1番出口の隣、メディック28ビル3階。西28丁目バスターミナルからも交差点をわたってすぐの場所にある。詳しい道案内は医院ホームページから。
診療科目
形成外科、皮膚科、レーザー外来
上林淑人(かみばやし・よしひと)院長略歴

1992年 形成外科入局
1994年 医学博士号取得
旭川赤十字病院、室蘭市立病院形成外科医長の後、
1998年 宮の森スキンケア診療室開設
■所属・資格他
日本形成外科学会、日本皮膚科学会、日本臨床皮膚科医会、日本癌学会、日本熱傷学会、日本形成外科専門医、皮膚腫瘍外科指導専門医
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