第193回 アルバイトを通じて知った漢方薬の実力に魅せられて
[クリニックインタビュー] 2015/12/18[金]
患者のこと、地域のことを第一に考えながら、独自の工夫で医療の最前線に取り組んでいる開業医のお医者さん。そんなお医者さん達の、診療現場、開業秘話、人生観、休日の過ごし方、夢などを、教えてもらいました。
飯塚病院東洋医学センター 漢方診療科 田原英一部長
獣医志望を転向させたある出来事

医師を目指そうと思ったきっかけのひとつは、親が養豚業を営んでおり、常に生き物が目の前にいたこと。そのため最初は生物学に興味があったのですが、高校2年生くらいの頃、父親が「お前は獣医にならないか」と言いだしたのです。実際、家業の延長上にあるので「それはいい」と思いました。ですがその後、以前からあった実家近くにできる病院の設立計画が頓挫したという話を耳にし、「私が貢献できたら……。動物の医者になれるのなら、人の医者にもなれるかな?」と軽い気持ちで医学部受験を思い立ちました。しかし時はすでに高校3年生の8月。9月に入って高校の先生に「医学部にいきます」と言ったら、「今から準備できるか!」と叱られました(笑)。でもそれをバネに頑張って、医学部に入学しました。大学の選択も、実家に近い大学に入れば実家付近にまた戻って来られるかなという、軽い気持ちでしたね。
アルバイトをきっかけに漢方の力を認識

大学時代は軟式テニスをしていたのですが、2年生の冬に先輩から誘われたアルバイトが、和漢診療部にいらした三潴忠道先生のデータ整理の手伝いでした。多くの腎不全の患者さんが漢方治療をしているところで、当時はまだコンピューターがあまり普及しておらず、患者さんのデータを整理するグラフを書かされたのです。するとグラフの線が、漢方薬を使うとなだらかになっていただけでなく上方向になることもあり、通常であればあと2~3か月で透析しなければならないような人が、7年くらい透析せずに済んだ例もあったのです。当時、理屈はよくわからなかったのですが、「こいつはすごいな」という認識がそこで生まれました。
その後、5年生の春休みになって再び後輩からアルバイトに誘われ、行った先がその三潴先生のお宅でした。その頃から高齢者の割合は増加傾向にあり、一度寝たきりになったら一生そのままというのが当然の状況でした。それに私の実家付近も高齢化が進んだ地域でしたから、より老年医療の必要性を感じていたのだと思います。ある時三潴先生に、「自分はお年寄りを診る医者になろうと思うんですけど、どうでしょう?」と相談したところ、「それはいいな。それなら漢方は生まれた直後から死ぬまで全部あるな」といった話を幾度も聞き、「(そこまで言われたら)やります!」と和漢診療部に入ったわけです(笑)。ちなみに、元日本東洋医学会会長の寺澤先生が直接の教授なので、理論は寺澤先生に習って実際の臨床は三潴先生に習ったという感じですね。
自分も元気でなければベストパフォーマンスは生まれない

診療でのポリシーは、なるべく患者さんの気持ちになれるように、患者さんが「自分の親だったら」という気持ちで診ていきたいと思っています。誰しも自分の親だったらベストパフォーマンスをしようと思いますよね。当病院もそれを掲げていますし、科としても前の部長が掲げたポリシーをそのまま引き継いてやっています。
それから自分自身がくよくよしないこと。医者は人を幸せにする商売だと思っているので、自分がなるべく幸せでいられるように、悩んでも解決しない問題は考えない(笑)。明日のことはまた明日考えてもいいかなと……。患者さんの心配をするためには、自分に余裕がないといけません。昔は自分に余裕がなかった際に、自分が悪くなるか患者さんが悪くなるかという状況に陥ったこともありましたが、それではどちらも体悪くしてしまいます。そんな目に遭ってからは考えを改めました。
また、病気の多くは天気の変化で悪くなることもありますが、「思い」から悪くなるものも多いです。ただ、人間の感情をなくすことはできません。ですから例えば私は何かあって怒るとしても、10の力でではなく6ぐらいで抑えるよう努力しています(笑)。
『食う・寝る・出す・遊ぶ』の改善を!

ここに来る方は漢方診療を望んで来られる方だと思いますので、漢方的にベストパフォーマンスをするのに何が必要かを考えています。使う薬は、やはり効果が高い煎じ薬を勧めることが多いですね。それに検査を追加したり西洋医学的な評価をしていきます。でも基本的に、きちんと眠れて食べて、人間として活き活きと楽しく生きていれば治るものも多いだろう、と私は思うのです。私はこれをまとめて、『食う・寝る・出す・遊ぶ』と呼んでいます。治りが悪い時に悪いところにだけ注目するのではなく、人間が回復しやすい体内環境や生活環境を作る必要があるということです。これが私の治療方針のひとつでもあります。他にも今後しばらくは漢方医を養成する教育にも力を入れていきたいと思っています。
年間50回くらいは講演しているのであまり休日はありませんが、たまの休日には、子供のサッカーの送り迎えをしたりして家族と共に過ごしています。
医療系を中心にWEB、紙媒体で執筆。健康、料理、お菓子作りなど生活全般における執筆も得意とする。病院取材の他、一般企業への取材活動も行っている。
飯塚病院東洋医学センター 漢方診療科
医院ホームページ:http://aih-net.com/medical/depart/kanpo/index.html

診飯塚駅より徒歩5分。遠賀川沿いの開けた場所にあります。正面玄関から漢方診療部までは少し距離があるので、インフォメーションで確かめて行きましょう。
詳しい道案内は医院ホームページから。
診療科目
内科、精神科、神経内科、呼吸器科、漢方診療科ほか
田原英一(たはら・えいいち)部長略歴

1991年 富山医科薬科大学付属病院和漢診療部医員(研修医)
1999年 砺波(となみ)サンシャイン病院(富山県)副院長
1999年 博士(医学)取得(富山医薬大乙第283号)
2002年 近畿大学東洋医学研究所講師
2006年 近畿大学東洋医学研究所助教授
2007年 (株)麻生飯塚病院東洋医学センター漢方診療科部長、ももち東洋クリニック副院長兼任
2011年 宮崎大学臨床教授、大分大学臨床准教授兼任
2012年 大分大学臨床教授、長崎大学講師兼任
■所属・資格他
日本東洋医学会(専門医、指導医、代議員、学術教育委員、健康保険担当委員、福岡県部会長)、和漢医薬学会(評議員)、日本内科学会(認定内科医、総合内科専門医)、日本アレルギー学会(アレルギー専門医)、日本皮膚科学会、日本皮膚アレルギー学会
■受賞
2000年9月 第17回和漢医薬学会 学術奨励賞受賞
■著書
高齢者のための和漢診療学(医学書院:共著)、EBM漢方(医歯薬出版:共著)最新情報漢方(NHK出版:共著)、漢方診療二項の秘訣(金原出版;共著)、つかってみよう!こんな時に漢方薬(シービーアール:共著)、専門医のための漢方医学テキスト(IV症候からみる漢方、5全身・精神、D認知症・異常行動、日本東洋医学会:共著)、はじめての漢方診療症例演習編(医学書院:共著)、神経疾患最新治療2012-2014(南江堂:共著)、スキルアップのための漢方相談ガイド 改定第2版(南山堂:共著)、日本伝統医学テキスト 漢方編(日経印刷:共著)、はじめての漢方治療(診断と治療社:共著)
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