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[クリニックインタビュー] 2016/10/07[金]

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患者のこと、地域のことを第一に考えながら、独自の工夫で医療の最前線に取り組んでいる開業医のお医者さん。そんなお医者さん達の、診療現場、開業秘話、人生観、休日の過ごし方、夢などを、教えてもらいました。

こどもクリニックえみんぐ 小沢浩所長

一冊の本に出会い医師の道へ

 私はもともと教師になりたいと思っていたのですが、高校2年のときに、『飛鳥へ、そしてまだ見ぬ子へ』※という本を読み、医師になろうと決めました。骨肉腫に侵された医師が、最後まで仕事を続けながらわが子と妻、両親に向けて綴った遺稿集であるこの本を読んだとき、「自分の命を削ってまで人のために働き、それで人が幸せになる。医師ってすごい仕事だ!」と感じ、自分もそんな仕事をしたいと思ったのです。そこで猛勉強の末、一浪してなんとか医学部に入ることができました。

 医学部での実習中、小児がんの一種である神経芽細胞腫の3歳の男の子と出会いました。この子の病気をなんとか治したいと必死になって治療に取り組みましたが、結局、治すことは叶いませんでした。しかし、研修中いちばん一生懸命に取り組めたのが小児科で、自分に合っているのではと感じたことから、小児科医へ。最初に赴任した都立八王子小児病院で新生児医療を学び、小児の神経に興味を持ちました。その後、国立精神・神経センターで3年間勉強し、再び都立八王子小児病院に戻りました。

 小児神経の専門医として障害を持つ子の医療に多く関わるようになり、障害児医療をやっていこうと考えたときに、病院が閉院。ずっと障害児を診ていきたいという思いから、日本初の重症心身障害児施設である島田療育センターに赴任しました。6年前に八王子の分院に移り、島田療育センターはちおうじでの療育外来と、こどもクリニックえみんぐでの一般小児外来をおこなっています。

 私は、興味のあることには一気にのめり込み、興味のないことにはまったく無頓着なタイプ。考えて決めるというよりは、自分の関心の向くほう、興味のあるほうに動いていったら自然にここにたどり着いた、という感じです。

 ※骨肉腫などを患い、若くして亡くなった井村和清医師の手記をまとめた書籍。1980年に出版されベストセラーとなり映画化もされた。

すべてのお子さんの体と心の健康のために

 こどもクリニックえみんぐは、重症心身障害児の療育診療施設である島田療育センターの小児診療外来施設として、八王子小児・障害メディカルセンター内に設立された小児科クリニックです。かぜやインフルエンザ、胃腸炎、喘息、アトピー性皮膚炎など一般的な小児診療のほか、予防接種や乳児健診もおこなっています。また、子ども相談外来やけいれん外来なども設置しています。

 ちょっとだけ一般的な小児科と異なる点といえば、入り口やトイレを含め、全ての施設に車いすで入れるようにバリアフリーになっていることと、自閉症や重症心身障害など、重い障害を持つ子も受診すること。障害を持つ子と持たない子、どちらも同じように診るのが当院の特徴です。私には、クリニックを通して障害児への理解を広めたいという思いもあります。

 例えば、一般的な小児診療でえみんぐに来られるお母さんたちは、重症心身障害児のことを知らないでしょうし、重症心身障害児を持つお母さんは、発達障害や自閉症のことはわからないことが多いでしょう。しかし、えみんぐという場所が、もしかしたら理解を広げるきっかけになるかもしれない。そうした役割も、えみんぐにはあると考えています。

 理解を深めてもらうために、月に1回、「えみんぐ通信」という広報誌を作成して配布しています。読んでいただいて「こういう世界もあるんだな」と知ってもらう一助になればと思います。また、小学校で授業をしたり、町内会の夏祭りに参加したりと、地域に理解してもらうための働きかけも積極的におこなっています。

 島田療育センターはちおうじの基本理念は「輪を和でつなぐ」。人と人との輪を大切にして、利用する全ての人が和める場を目指すという思いが込められています。その理念はえみんぐも共通で、人と人とのつながりを大切に、すべてのお子さんと家族の心と体の健康をサポートしていけるクリニックでありたいと考えています。

医師の仕事は「人を幸せにするサービス業」

 私自身は、「来てよかった」と思ってもらいたいと考えながら、日々お子さんやお母さんと向き合っています。つらい症状を取り除く、病気を治すことはもちろんですが、それだけでなく、安心してほしい、笑顔になってほしいと思います。笑うということは、心と体の健康のためにとても大切だと思うのです。

 ですから、診療のときに、お子さんに緊張や不安がみられたら、ピエロの赤い鼻をつけ、簡単なマジックをしたりします。マジックは、手品が趣味の先生に教わったり、100円ショップでマジックグッズを調達したりしています。時々、その赤い鼻を見て泣いてしまう子どももいるのですが(笑)。

 お子さんだけでなくお母さんたちも、病気のこと、子育てのこと、生活のことなど、さまざまな不安を抱えています。できるかぎり、「お母さん、子育てがんばっていますね」「大変ですよね」と共感し、気持ちに寄り添って話を聞きたいと思っています。

 医師になったばかりのころは、話を聞くよりもまず、こちらの伝えたいことを必死に伝え納得してもらおうとしていました。しかし話を聞いたり、相手の気持ちを受け入れ受け止めたりすることで、笑顔になってもらえると、こちらもすごくうれしいのだと、お子さんやお母さん方と一緒にいることで教わりました。

 私は、医師という仕事は人を幸せにするサービス業だと思っています。ですから、どうしたらお子さんやお母さんが笑ってくれるか、そればかり考えている気がします。

 人に伝えるということは本当に難しい。こちらがよかれと思った助言でも、相手によって受け止め方はさまざまで、同じ人でもその時の精神状態によって変わることともあります。いちばん怖いのは、こちらが気づかずに相手を傷つけてしまうことです。その点、うちのクリニックでは、私が気づかなかったことをスタッフがフォローしてくれるので、とても助かっています。

 クリニックでは、スタッフとの勉強会やミーティングも定期的におこなっており、必要なことは何でも伝えあえる関係が築けていると自負しています。スタッフ間でのコミュニケーションの良さも、お子さんやお母さん方の健康をサポートする上で大切なことだと思っています。

必要最小限の「医療」と十分な「見守り」を

 私は、趣味で野菜作りをしています。市民農園を借りたり、知人の庭を借りたりして、もう15年続けていますが、実は、野菜作りは、小児科医の仕事と似ているところがあると思っています。いちばん大切なのは土作り。手を抜くとすぐわかります。野菜の声を上手に聞いて、例えば水や肥料など、足りないところをタイミングよく足すとグーッと伸びるし、味が濃くて美味しい野菜ができるんです。うまく野菜の声を聞きとることと、見守ることがとても大切です。手をかけすぎてもかけなくてもダメで、必要なときに必要最低限の手をかけるのが、野菜を育てるいちばんのコツだと思います。

 今でも失敗はしますが、15年蓄積してきた良い土のおかげで、今年の夏は、きゅうり、ミニトマト、ピーマン、なす、みょうが、パクチー、つるむらさき、モロッコいんげんなど、八百屋さんに行く必要がないくらい、たくさんの野菜を収穫できました。土の良さは、枯葉をいっぱいいれること、牛糞たい肥を使うことが決め手です。

 また、妻と一緒にコンサートに行くことも楽しみです。南こうせつや谷村新司、綾香、嵐、いきものがかり、SEKAI NO OWARI、サザンオールスターズなど、さまざまなコンサートに行きます。たったひとり、あるいは数人で、何万人もの人を魅了する彼らはプロだなと感激します。私もプロとして、外来で、また、時々行う講演会で、どうやったら人の心をつかめるだろうと、ここでも勉強させてもらっています。

 このように、趣味を楽しみつつも、やはり仕事とは切り離せない生活ですが、これからもクリニックとセンターで、お子さんとお母さんたちの笑顔と元気のためにがんばっていきたいと思います。そして、今後は地域との連携もさらに深め、「“輪”を“和”でつなぐ」を実現し続けていきたいと考えています。

取材・文/出村真理子(Demura Mariko)
フリーライター。主に医療・健康、妊娠・出産、育児・教育関連の雑誌、書籍、ウェブサイト等において取材、記事作成をおこなっている。ほかに、住宅・リフォーム、ビジネス関連の取材・執筆も。

こどもクリニックえみんぐ

医院ホームページ:http://www.shimada-ryoiku.or.jp/shima8/syoni.html

JR中央線「西八王子」駅から徒歩10分。八王子小児・障害メディカルセンター内。待ち時間にお子さんが遊べるプレイスペースや、スタッフ手作りのかわいい飾りなどがあちこちにあり、お母さんやお子さんの気持ちを和ませてくれます。
詳しい道案内は医院ホームページから。

診療科目

小児科

小沢浩(おざわ・ひろし)所長略歴
1990年 高知医科大学医学部(現・高知大学医学部)卒業、浜松医科大学小児科
1991年 都立八王子小児病院新生児科・小児科
1993年 北友会勝田病院小児科
1994年 国立精神・神経センター武蔵病院小児神経科
1997年 都立八王子小児病院小児科
2003年 島田療育センター小児科
2011年 島田療育センターはちおうじ(こどもクリニックえみんぐ)所長


■所属・資格他
日本小児科学会、日本小児神経学会、日本重症心身障害学会、日本児童精神学会、日本てんかん学会、八王子在宅重症心身障害児者の会代表、都立八王子東特別支援学校・花の郷指導医、ふきのとう・多摩藤倉学園・八王子児童相談所・八王子市教育センター・武蔵野児童学園・こらぼ稲城嘱託医、など


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