第209回 ワクチンから在宅まで、地域の小児医療を支えたい
[クリニックインタビュー] 2016/11/18[金]
患者のこと、地域のことを第一に考えながら、独自の工夫で医療の最前線に取り組んでいる開業医のお医者さん。そんなお医者さん達の、診療現場、開業秘話、人生観、休日の過ごし方、夢などを、教えてもらいました。
はしもと小児科 橋本政樹院長
経済学部から医学部へ転身

(クリニック提供写真)
実家が紡績工場を営んでいたこともあり、経済を学びたいと大学は経済学部に入学しました。しかし当時はバブル最盛期。大学生の世界も派手で(笑)、どうも自分には向いていないと感じたのが医師を目指したきっかけでした。
もともと派手な世界が得意でも、社交的なわけでもなかったため、もっと自分に合う道はないかと考えたとき、「真面目に勉強して社会に貢献できる」医師という仕事がいいのではと思い、医学部を受験し直しました。
全く知らない世界に飛び込み、さまざまな科で勉強しましたが、個人的な印象では小児科がいちばん地味で(笑)、みんなよく勉強しており、「いちばん過ごしやすく、無理して自分を作らなくてよかった」という理由から、小児科を選びました。
入った医局の教授がたまたま新生児専門の教授で、勉強していくうちにどんどん魅了されていきました。新生児医療は勝負がつくのがとても早いというのでしょうか、自分が考え決めておこなったことが、すぐに赤ちゃんに反映され、結果が出ます。待ったなしの真剣勝負で、時にダイナミックさも必要なところに魅かれました。そこではたくさんの先輩や仲間と出会い、縁は今も続いています。
その後、都立八王子小児病院新生児科などを経て、1999年に八王子にはしもと小児科を開院しました。新生児医療を学んだ専門性を活かし、幼児だけでなく新生児や乳児も積極的にみることを理念に掲げています。
訪問相談で新米ママをサポート

クリニックには0歳、1歳の赤ちゃんを含む乳幼児が1日約200人来院し、医師3人体制で診療にあたっています。以前は、「冬のインフルエンザが流行する季節は混んで、夏場はわりと落ち着いている」など、季節による傾向がみられたのですが、近年は季節性がなくなっていると感じます。保育園が増えていることもあるのでしょうが、風邪でも何でも、何かひとつ病気が流行するとあっという間に広がり、今年は、本来は冬に流行するRSウイルス感染症が夏に多くみられました。
また本来赤ちゃんは、お母さんのおなかにいる間にもらった免疫があるため、生後約6か月までは風邪などの病気にかかりにくいといわれています。しかし、保育園に行ったり、上のお子さんがいたりすることで、低月齢でも風邪やいろいろな病気で受診される子も少なくありません。子どもの数は減っているといわれていますが、小児科は年中フル回転の状態です。
そんな中で、育児中のお母さん、とくに0歳代の赤ちゃんのお母さんは、初めての育児に慣れず、わからないことや不安を抱えていることも多くあります。核家族化が進み、相談できる両親が近くにいない、隣近所とのつきあいもまだ少ない、パパは仕事で忙しい…。誰にも相談できず、お母さんが孤立していないか、診察しながらこまめに話を聞いて、様子をうかがうようにしています。
当院では、看護師による訪問相談をおこなっています。そのため診察のときに、不安そうにしているお母さんには、「赤ちゃんのお肌のケアのしかた、わかりますか?」などと声をかけ、訪問相談をすすめることもあります。相談時は看護師が自宅にうかがって、一緒にお風呂に入れたり離乳食をあげたりしながら、お母さんと話をして、少しでも育児への不安や悩みを軽くできるようお手伝いしています。
もちろん、幼児や小学生などのお子さんも来院します。この時期にはもう、お母さんはドーンと構えてらっしゃるので(笑)、旧来の小児科医としての「お子さんの成長を一緒に見守る」という楽しさを実感しています。
予防接種のスケジュール管理も

クリニックでは、予防接種や乳児健診も重要な仕事です。とくに赤ちゃんが多いこともあり、予防接種は年間1万2,000接種していました。これまでは、一般の外来と時間をわけて予防接種の時間をとっていたのですが、効率化や感染予防などの理由で、今年の4月から新棟(ワクチン専用棟)を設立。診察をする建物と、予防接種や乳児健診をおこなう建物を別にしました。
今、0~1歳で接種するワクチンはとても増えています。予防接種によって受ける回数や間隔が異なるなど、制度がとても複雑で、「いつ、どういう順番でどのワクチンを受ければいいかわからない」というお母さんも多くいます。予防接種が必要な病気は、小さい赤ちゃんがかかると症状が重くなりやすく大変なので、予防接種は受けてほしい。そこで、必要なワクチンを打ちもれなく、できるだけ早く効率よく接種できるように、当院ではスタッフが一人ひとりの赤ちゃんの予防接種スケジュールをたてて管理しています。
それが口コミで広がっているようで、予防接種のスケジュールを目的に来院するお母さんも増えています。現在、クリニックには看護師、事務職員が総勢20名おり、日替わりで一般の外来と予防接種・乳児健診を受け持っていますが、全てのスタッフが予防接種の業務とスケジュール管理について把握しています。いつ、誰が担当になっても困ることなく赤ちゃんとお母さんをサポートできる体制が整っていることが、当院のいちばんの強みと考えています。
小児の在宅医療に取り組みたい

(クリニック提供写真)
なかなか自分の時間はとれないのですが、休みの日は読書や旅行をしたり、数年前から習い始めたピアノを弾いたりして過ごしています。もともと経済学部に行っていたこともあり、経済に関する本なども好きでよく読みますが、やはり仕事に関する本を読むことが多いですね。
医院についての今後ですが、小児の在宅医療にも取り組んでいきたいと考えています。ワクチン専用棟の2階には、訪問看護ステーション「Baby SeeDs」を設立。東京都で2件目、多摩地区では初めての小児専門の訪問看護施設で、現在、すでに50人ほどに利用いただいています。
小児医療に限ったことではなく、すべての医療に言えることですが、新生児医療の現場も残念ながらハッピーなことばかりではありません。病気や障害を持ちながら、自宅で過ごしている子もたくさんいます。新生児の専門医として長く取り組んできましたが、最後にはそこに目を向けていかなければという使命感もあります。クリニックでの診療を継続しつつ、在宅医療についても準備を始めていきたいと考えています。
フリーライター。主に医療・健康、妊娠・出産、育児・教育関連の雑誌、書籍、ウェブサイト等において取材、記事作成をおこなっている。ほかに、住宅・リフォーム、ビジネス関連の取材・執筆も。
はしもと小児科
医院ホームページ:http://www.hashimoto-shonika.com/pc/index.html

京王線「めじろ台」駅から徒歩15分。明るく清潔な待合室には、木のおもちゃや絵本がそろっていて待ち時間も飽きずに過ごせます。詳しい道案内は医院ホームページから。
診療科目
小児科
橋本政樹(はしもと・まさき)院長略歴

1994年 都立八王子小児病院(現都立小児総合医療センター)新生児科
1997年 愛媛県立中央病院小児科 医長
1999年 医療法人社団まなと会 はしもと小児科開設
■所属・資格他
日本小児科学会、日本未熟児新生児学会、日本新生児学会、日本小児神経学会など。子どものこころ相談医、八王子市立横山中学校校医、八王子市立椚田小学校校医、すぎな愛育園園医
- この記事を読んだ人は他にこんな記事も読んでいます。
掲載されている記事や写真などの無断転載を禁じます。