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[クリニックインタビュー] 2009/10/09[金]

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大学病院が医療の最先端とは限りません。患者のこと、地域のことを第一に考えながら、独自の工夫で医療の最前線に取り組んでいる開業医もたくさんいます。そんなお医者さん達の、診療現場、開業秘話、人生観、休日の過ごし方、夢などを、教えてもらいました。

第37回
新都心レディースクリニック
甲斐敏弘院長

乳がん治療のために民間の力を

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 私が医師になろうと思ったのは高校生の頃です。と言ってもその頃は医師に対して具体的なイメージもなく、どんな医師になりたいかということも漠然としていました。外科に決めたのは卒業間際です。手術によって根本から病気を治せるというところに惹かれました。私が所属していた野球部には監督やコーチで外科の先生が参加していたので、そこでのコミュニケーションを通じて外科の世界に親しみを持ったということもあるかもしれません。出身は自治医科大学ですので、大学卒業後は出身県である宮崎県内の県立病院や僻地の病院に勤めました。宮崎での義務年限が終了したあと、開院まもない自治医科大学附属大宮医療センター(現:さいたま医療センター)の一般・消化器外科へ異動しました。
 もともとは一般・消化器外科でしたので消化器手術も手がけていました。乳腺と甲状腺を専門にするようになったのはここ10年くらいでしょうか。乳腺の病気の治療は外科医が中心となることが多く、診断から手術・抗がん剤・ホルモン療法、そして再発後の治療も含まれます。手術の後も長い期間の治療が必要になることが多いのが理由のひとつかもしれませんが、外科医のなかでも乳腺を専門にやろうという医師は少なくて、私の場合は自分の意思と医局の要請とが半々で乳腺・甲状腺を専門的に手がけることになりました。
 乳腺・甲状腺の検診と診療を専門としたこのクリニックを開設したのは3年前です。乳がんというのは都市部に多いんです。そして県によっては非常にしっかりした検診の体制をつくっているところもありますが、埼玉県はそういう意味で少し遅れていて、たとえば乳がんの検診受診率が全国で最低ですからね。だからこそ民間でやれることがたくさんあると考えました。1年目は開業したてでかなり苦労したのですが、そのなかで助けられたのが「埼玉乳がん臨床研究グループ」の友人達からの診断連携です。たとえばがんセンターなどの基幹病院に良性疾患の患者さんが集中すると、本来そこでしか治療ができない患者さんまで対応しきれなくなってしまう可能性があります。そのため患者さんの病状や容態にあわせて治療施設とクリニックとの両方で患者さんをフォローしていく連携が必要なのです。

マンモグラフィの検査室。検査にあたる技師はすべて女性スタッフ。可愛らしい飾りがついているのも、患者さんをリラックスさせるための女性らしい気遣い。
マンモグラフィの検査室。検査にあたる技師はすべて女性スタッフ。
可愛らしい飾りがついているのも、患者さんをリラックスさせるための女性らしい気遣い。

乳がん専門医の研究グループ (NPO法人埼玉乳がん臨床研究グループ SBCCSG)

sintosin04.jpg このグループは10年前にできた乳がん治療施設の専門医の集まりです。乳がんの治療は抗がん剤の使用がひとつの柱になっています。日本では抗がん剤の治療は腫瘍内科医だけがやるわけではなく、特に乳腺の場合は外科医が抗がん剤を使うことになります。だから乳がんの場合は外科医が診断をつけて、手術もするし、抗がん剤の治療もする、再発の治療もする。そうすると腫瘍内科医にいろいろ教えてほしいわけです。それで立ち上がったのがこのグループなんですね。現在は埼玉県立がんセンターの田部井敏夫先生をトップとして、20施設、50人ほどの医師が参加しています。新しい抗がん剤の治療法を見つけるためには、多施設の臨床試験が必要になります。同じ治療法をたくさんの施設で行って、さまざまな医師が関わった出した結果が重要なんです。ほとんど毎月のように研究の発表会や話し合いをしていて、全国でもこれほどアクティブに活動しているグループは少ないと思います。
 また、このグループでは一般の方への啓発活動も行っています。今度9回目になる、市民公開講座「乳がん市民フォーラム」も計画していますし、「乳がん無料相談会」や「講演DVD無料貸与」なども行っています。新都心レディースクリニックはこのグループの事務局を担当していて、このグループの活動をサポートすることは私たちの大切な仕事だと思っています。乳がん体験者の方やそのご家族の方はぜひNPO法人埼玉乳がん臨床研究グループのホームページ(http://www.sbccsg.org/)を覗いていただきたいと思います。

乳がん検診の難しさ

sintosin05.jpg 患者さんに対して心がけていることは、定期的な受診の必要性を理解してもらうことですね。乳腺の状態は年代によってまったく違いますし、生理期間でも違いますし、妊娠・授乳期間でもまた変わってくる。また、乳がんの状態と良性の乳腺の変化が非常によく似ている場合がたくさんあるんです。マンモグラフィの検査では問題がなかったのに、超音波で乳がんが見つかることもある。良性だと思われたものが、数ヵ月後にははっきり乳がんの特徴が現れることもあります。そういう意味で乳がんの検診というのは非常に難しいですし、だからこそ医師としてはやりがいのある仕事でもあるんです。
 このクリニックを開設して3年目になります。まだまだ地元に根付いているとは言えない状況なので、毎日必死という感じです。日に30~50人ほどの検査をしていますので、1日12時間くらい診察室にいますね。効率よく検査をすれば良いというものではないので、見落としのないよう、さらに診断の精度を高めていくのが目標です。

取材・文/松本春子(まつもと はるこ)
編集者として10年間出版社に勤務した後、独立。フリーライター・フォトグラファーとして、心身の健康をテーマに活動中。理想的なライフスタイルの追究をテーマに執筆を手がけている。

新都心レディースクリニック

医院ホームページ:http://www.slmc.jp/
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超音波検査の結果は画像で診断される。患者さん自身も同じ画像を見ながら説明をうける。
JRさいたま新都心駅から徒歩1分。詳しい道案内は医院ホームページから。

診療科目

外科

甲斐敏弘(かい・としひろ)院長略歴
昭和56年3月 自治医科大学卒
昭和56年6月~平成3年5月 宮崎県立宮崎病院外科、自治医大附属病院消化器・一般外科、その他県内の国保病院勤務
平成03年6月 自治医大附属大宮医療センター 総合第二講座助手(一般・消化器外科)
平成10年9月 同講師
平成17年3月 医療法人財団新生会大宮共立病院外科
平成19年4月 新都心レディースクリニック院長

■資格・所属学会他
博士(医学)、日本外科学会認定医,専門医,指導医
日本乳癌学会認定医、日本乳癌検診学会評議員、検診マンモグラフィ読影医、大宮医師会乳癌検診読影医、日本消化器外科学会認定医、日本消化器病学会専門医 (関東支部 評議員)、第一種放射線取扱主任者、第一種作業環境測定士(放射性物質)、日本医師会認定産業医、自治医大さいたま医療センター、一般消化器外科 客員研究員



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