[クリニックインタビュー] 2009/11/20[金]

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大学病院が医療の最先端とは限りません。患者のこと、地域のことを第一に考えながら、独自の工夫で医療の最前線に取り組んでいる開業医もたくさんいます。そんなお医者さん達の、診療現場、開業秘話、人生観、休日の過ごし方、夢などを、教えてもらいました。

第43回
かげ山小児科
景山敦院長

自分の理想とする医療をしたくて

kageyama_clinic01.jpg 僕が中学生のとき、よく遊びに行っていた親しい友だちの家が小児科の医者だったんです。医者になろうと思ったのは、それがきっかけですね。自分は本来は文系の人間だと思っているので、法律家やジャーナリストになりたいという希望を持ったりした時期もありました。でも医者になりたいと思うようになってから、苦手だったけれど理系に進みました。結局、法律家にしてもジャーナリストにしても、高校生には実際の仕事がどんなものか分からないでしょ。医者の仕事というのは、自分が病院で診てもらうこともあったし、それこそ友人の家庭を見ていたので、一番身近なものに感じたんです。
 友人の家が小児科でしたが、僕が小児科になったのは偶然です。医大に入学したときは、まだどの方向に進むかは決めていませんでした。ただ、僕は左利きなので手術のときのチームプレイの邪魔になるということで、内科系かな、という感じはありました。小児科に進むことを決めたのは、卒業する直前。なんとなく医局の雰囲気が良かったんですね。それと、その頃はまだ学生でしたから「この先、長く生きる子供の命を救うほうが、やりがいがあるんじゃないか」「どうせ救える命なら、その後100年生きてほしいな」なんてことを思ったんですね。今はまったくそんなことは考えてませんよ。あと10年の寿命でも50年の寿命でも、命の重さは同じです。でも学生時代は、そんなことも分かっていなかったんですよ。
 大学を卒業後はいろいろな病院に勤務したり、大学に戻って博士号を取ったりした後、昭和54年に大森赤十字病院で小児科の部長として16年間勤めます。僕は教授からも「研究よりも臨床に向いている」と言われたし、自分自身も臨床の仕事が好きでした。大森赤十字病院は大きな病院で、自分なりに理想をもって小児科での体制を整えてきたんですが、やはり独立しないと自分の理想とする医療は難しいなと思うところがあり、自分の医院を開設することにしました。

子供を泣かせないためにはなんでもします

 患者さんがいらしたら「受診して良かった」と思って帰っていただきたいんです。「わざわざ来て、1時間も2時間も待って、ただ薬貰っただけだった」というような気持ちになってほしくない。待たせないのが一番いいんですが、それはなかなか難しいので、せめて診察して、「話を聞いて良かった」と思ってもらえるように、心がけています。そのためには、患者さんが言いたいこと、聞きたいことを、口に出しやすい雰囲気が必要ですよね。それと、表情などをよく観察して、少しでも不安そうな様子が見えたら、たとえ時間のないときでも「今の説明だとまだ不安?」とか、こちらから声をかけるようにしています。
 患者さんに病気や治療について説明するのは難しいです。小児科の場合、患者さん本人のお子さんよりも、お母さんに納得していただかなければならないので、なおさらです。たまたまお母さんが看護士だったりすると、短い言葉でもスルスルッと伝わるのですが、いろんな方がいらっしゃいますからね。子育ての経験が長い人と、そうではない人でも違います。これは経験としか言いようがありませんが、相手をよく見て、ささいな表情や、ちょっとした言葉尻を流さないようにしています。
 インフルエンザなどの診療は別ですが、普段は診察のときに白衣はきていません。医者と患者の間に壁をつくりたくないというのと、やっぱり子供は普通の格好をしているほうが安心しますね。僕は子供を安心させるためなら、なんでもやりますよ。ここにあるアンパンマンのお面なんかもかぶります。子供って人見知りするでしょ。診察室に入ってきて「この子は不安がってるな」と思ったら、すぐにお面をかぶって「アンパンマンだよー」なんて言ってあげると安心しますね。泣いてしまうと腹筋が硬くなって、お腹の様子が分かりにくくなりますし、肺の音や心音も聞き取りにくくなる。だからできるだけ泣かさないように、アンパンマンにもバイキンマンにもなります(笑)。

健康と趣味のためのエアロビクス

子供たちが足を伸ばして遊べる待合室のスペース。子供たちが足を伸ばして遊べる待合室のスペース。

 自宅は横浜ですが、週の半分くらいは、医院近くの事務所に泊まっているので、単身赴任のようなものですね。以前、通勤に使う電車が事故で半日ストップしてしまったことがあるんですよ。僕はたまたまその列車には乗っていませんでしたが、もしものことを考えると怖くなったんです。車も事故や渋滞があるでしょう? いざというときに患者さんに迷惑をかけないために、徒歩で通勤できるような環境にしています。変則的だけれど、それがもう決まった生活になっているので、規則正しい生活はできてると思います。
 健康のために気をつけているのは食事ですね。野菜と魚をメインに、バランスよく食べるようにしています。野菜は馬みたいに食べてます。それと週に2回ほどジムに通って、エアロビクスをしています。最近は忙しくて、ここ3、4週間行けないでいますが、理想は週2回。健康のためでもありますけど、何より楽しいですから。声を出しながら身体を動かすとストレスの解消にもなりますよ。他に趣味といえばゴルフもしますが、これはなかなか上手くならないので、逆にストレスがたまります(笑)。

医師として親として思うこと

 僕自身は子供は2人います。上はもうサラリーマンですし、1人は学生です。やっぱり自分に子供ができてからは、仕事に対する意識は変わりました。それはもう大きく変わりましたね。とにかく親の心配がとてもよく分かるようになりました。親御さんから無理な要求をされたり「それは違うだろう」と思うようなことを言われて、内心では反発を感じることもありましたが、自分が親になってからは、そういったこともだいぶ受け流せるようになったんです。子供が具合が悪くなって、一晩中心配して心配して心配して、胃の痛い思いをしていたんだろう、というのが分かるので、理不尽だと感じても「これくらい言いたくなるのは仕方がないか」と思えるんです。
 患者さんを待たせたくないと思いながら、ある程度たくさんの患者さんが来てくれなければ医院の経営が成り立ちませんし、患者さんひとりひとりを丁寧に診察しようと思ったら、どうしても待ち時間が長くなる。ジレンマですね。予約制にしても、今度は予約が取れないという不満が出てくるでしょうし……。それに小児科は急患が多いので、予約の患者さんだけを診るわけにはいかないんです。
 医者として嬉しいのは患者さんから「病気がよくなりました」とか「大きな病院を紹介してもらって助かりました」とか、患者さんから言ってもらえるのが、一番です。医者冥利につきますよね。僕も年をとってきて、これから先にできることは限られていますが、目指しているのは「完璧な小児科医」。だから勉強もしなくてはいけないし、経験も必要だし、新しいことも取り入れていかなくてはいけないし、それから親の話をよく聞いて理解できる人間的な深みも必要ですよね。それはもう理想でしかないんでしょうが、最後までその理想を目指していきたいと思っています。

取材・文/松本春子(まつもと はるこ)
編集者として10年間出版社に勤務した後、独立。フリーライター・フォトグラファーとして、心身の健康をテーマに活動中。理想的なライフスタイルの追究をテーマに執筆を手がけている。

かげ山小児科

医院紹介ページ:http://www.qlife.jp/hospital_detail_566987_1
kageyama_clinic_b01.jpg kageyama_clinic_b02.jpg kageyama_clinic_b03.jpg
明るい色彩の待合室には日中は外の日差しも入ってくる。
東急池上線、池上駅から徒歩5分。詳しい道案内は医院紹介ページから。

診療科目

小児科

景山敦(かげやま・あつし)院長略歴
景山敦院長
昭和41年 日大医学部入学
昭和47年 日大医学部小児科入局
昭和54年 大森赤十字病院小児科部長
平成7年12月 かげ山小児科開設

■学会活動等
日本小児科学会、日本小児アレルギー学会、東京小児科医会



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