第44回 女性が自立するための仕事として
[クリニックインタビュー] 2009/11/27[金]
大学病院が医療の最先端とは限りません。患者のこと、地域のことを第一に考えながら、独自の工夫で医療の最前線に取り組んでいる開業医もたくさんいます。そんなお医者さん達の、診療現場、開業秘話、人生観、休日の過ごし方、夢などを、教えてもらいました。
第44回
くさかり眼科
佐藤匡世院長
女性が自立するための仕事として
私の父親は歯科の大学教授でした。その関係で自宅にお医者さんが集まることが多く、小さな頃から医療の仕事は身近に感じていました。母は専業主婦でしたが、「女性も仕事をもって自立した生き方をしたほうがいい」と考えていたんですね。祖父もやはり戦時中の厳しい時代を生き抜いて、手に職を持つことが大事だと実感していたようで、私が小学校のときにかかった女医さんを見て「匡世も将来はああいうカッコいい女医さんになったらどうだ?」なんて言っていました。そういう家族のなかで育ったので、自然に医者を目指していました。
私は小学校の頃からバレエを習っていたので、バレリーナになりたいという憧れもあったんです。「なんでこんなに勉強ばかりしなくちゃいけないんだろう」という葛藤もありました。でも、将来の仕事として考えたときに、やはり医者しかないと思ったんですね。
父が歯科でしたから歯学部に行くことも考えましたが、もっと広い範囲から選択したいと思って医学部に進みました。自分自身が喘息で苦しんだこともあって呼吸器内科にも興味がありました。最終的に眼科を選んだのは、たまたま父の知人の眼科医の方に誘われたのがきっかけですね。学生時代に白内障の手術の実習で、手術の様子がとても綺麗だったんです。濁った水晶体が手術によって綺麗に透きとおっていく様子に驚きました。眼球というのは、小さな部分にたくさんの情報がつまっているんですね。眼科には内科的な知識も必要だし、外科的な処置もあるし、そういうところが面白いと思いましたね。私は小さい頃から手先を使ってものを作ったりするのが好きだったので、自分の手を動かして治療ができるという意味で、眼科で手術ができるのは嬉しかったんです。
大学院のときは近視の発生のメカニズムを研究にしていました。その研究のパイオニア的な方がニューヨーク市立大学にいらしたんです。生物学のJosh Wallmann教授です。アメリカでは医学部ではなく生物学の方面からも近視の研究が進められていたんです。ヒヨコなどを使って近視のメカニズムを調べていました。教授とは国際学会などで何度かお会いしたこともあったので、大学院卒業後に留学して一緒に研究をすることにしました。
最終決断を下すことの責任
帰国後は大学病院の助手として臨床に戻りました。大学病院を退職してからは、ほかの病院やクリニックのお手伝いをしたりしていて、平成14年にこのクリニックを開設することになりました。私は平成12年に結婚しているんですね。その当時は「このまま子供はできないかもしれない」と思っていたので、そのことも開業する気持ちに繋がっていたんですが、平成14年の2月、開業したとたんにできたんです。そういうものなんですね(笑)。ですからクリニックと子供を一緒に育てるような生活になりました。
他の病院やクリニックに勤めているときは、最終的な決断が自分自身でできないことに不満がありましたが、クリニックを開設して半年くらいは、最終決断を下さなくてはいけないというのが、どれだけストレスになるか思い知りました。自分の診断や治療には自信があるんですが、それでも「明日、あの患者さんはどういう状態で来るだろう」「もしかしたら大学病院を紹介したほうがいいだろうか」など、いろいろな患者さんのことを考えて眠れない日が続きました。そういう日々の積み重ねでたくさんのことを学びました。まだまだ勉強しなくてはならないことがたくさんありますけどね。
重要なのは診察のときに患者さんからどれだけ情報を引き出せるかということです。診察室に入るとどうしても緊張してしまいますが、どんな症状なのか、どんなことに悩んでいるのか、患者さん自身に話していただかないと正確な診断はできません。そのためにも安心感を与えるのは大事ですよね。説明のときもなるべく専門用語は使わないようにしているのですが、患者さんが少しでも不安そうな表情をしていたら、それを見逃さないように気をつけています。
それから私自身の医師としての診療はもちろんですが、受付や検査などもふくめて、クリニックのスタッフ全員の対応も、ひとりひとりの患者さんに対して丁寧に接するように伝えています。こちら側からすると何十人、何百人の患者さんのうちの一人でも、患者さんにとっては一対一です。待合室にいるときや検査のときにも、通り一遍の対応ではなく、どこか具合の悪いところがないか、困っている様子はないかよく見届けること、診察室に入るまえにいろいろ話しかけて緊張をやわらげてもらうことを大事にしています。
名前に込めた想い
「くさかり眼科」のくさかり(草刈)は私の旧姓です。父は大学教授をしている間に亡くなってしまったんですが、生前に大学を退官したら歯科と眼科で一緒に開業しようと話していたんです。父は臨床が大好きだったので、いずれは開業したいと思っていたようですね。それで父の遺志継ぐという意味と、私自身も長い間、草刈という名前で研究も臨床もしていましたから、自分のクリニックには「くさかり眼科」とつけました。
医師として尊敬しているのは、専門は違いますが、やはり父ですね。研究も熱心でしたし、臨床としても患者さんにとても慕われる医師でしたから。父が病気で入院しているときのことです。私が父の枕元で、別の人に自分の患者さんの話をしていたんです。手術で予想よりも時間がかかってしまって、患者さんに「痛い痛い」と言われてしまった、というような。そうしたら、父はそのとき意識が朦朧としていたはずなんですが、「時間がかかるのは仕方がない。だけど患者さんに不快な思いをさせるような治療をしちゃいけない」って言われたんです。「患者さんが痛いと口に出すのはよっぽどのことだ」って。そう言われて治療をして、病気が治ればいいというものじゃないんだっていうことに気づかされましたね。
医療というのは1日1日と進歩しているので、それに遅れないようにしていきたいです。開業医になると自分のクリニックだけが中心になりがちなので、学会だとか他のお医者さんとの繋がりを大事にしたいです。それと患者さんとのコミュニケーション能力を磨いて、もっともっと地域で信頼される医師になりたいと思っています。
医師と母親の両立
私は毎日朝5時半に起きてます。6時に小学校1年生の長女を起こして、ラジオ体操に送りだします。朝食の支度をしてから、3歳の次女を起こして、7時に朝食。7時半くらいから主人は会社に、娘は学校や保育園に行きます。8時から9時までに夕飯の支度をしてしまうんです。それと長女との交換日記を書いたり、子供たちにシッターさんをお願いしているので、その連絡メモを書いておきます。私が家を出るのは9時15分か20分くらい。クリニックで診療が終わるのが7時半から8時なので、帰宅は早くても8時半ですね。子供たちは学校や保育園から帰ってきたら、シッターさんと食事をして、お風呂に入って、寝る状態で待ってるんです。だから帰ったらすぐに着替えて、一緒にベッドに入って、1日の話をしたりしながら9時半には寝かせるようにしています。その後に主人と私の食事。毎日これの繰り返しなので、朝は1分でも予定が狂うと大変なことになります(笑)。
健康のために気をつけているのは、規則正しい生活ですね。今言ったような毎日の生活は、すごく大変なんですけど、その生活リズムを乱さないように心がけています。あと食事もできるだけ自分で作るようにして、子供にはぜんぶ手作りのものを食べさせています。できないのは運動ですね。昔はよくやっていたんですが、さすがに今は時間がないので、運動不足は気になっています。休みのときは子供たちと外で身体を動かすようにしています。夏なら海とかプールに行きますし、冬はスキーですね。上の子はもうスキーで滑れるので、一緒に滑ったり。子供と遊ぶのが運動でもあるし、趣味でもあるという感じです。
去年でしたか、長女に「将来は何になりたいの?お医者さんはどう?」って聞いたら、「ママを見てると大変そうだからいや」って言われてしまって、忙しい姿を見せすぎてしまったかな反省しましたね。ただ、最近は私が医者をしていることをカッコいいと言ってくれるようになりました。
医者じゃなくてもいいのですが、娘たちにも、何か続けられる仕事に就いてほしいという気持ちはありますね。私が母からずっと言われてきたことですが、やはり家庭だけではなく、仕事を持つのは大事だと思うんです。常に社会に携わっていられるということと、自分ひとりで生きていけるということですね。子育てなど、どうしても時間が足りなかったりして悩むことも多いのですが、でも仕事があるからこそ、今の家庭を守っていけていると思っています。
編集者として10年間出版社に勤務した後、独立。フリーライター・フォトグラファーとして、心身の健康をテーマに活動中。理想的なライフスタイルの追究をテーマに執筆を手がけている。
くさかり眼科
医院ホームページ:http://www.kusakari-ec.com/

JR新浦安駅より徒歩1分。詳しい道案内は医院ホームページから。
診療科目
眼科
佐藤匡世(さとう・ただよ)院長略歴

平成2年 東京医科歯科大学眼科学教室 入局
平成8年 東京医科歯科大学医学部大学院 卒業
平成8年 東京医科歯科大学眼科助手
平成8年 ニューヨーク市立大学生物学非常勤研究助手
■資格
日本眼科学会認定専門医、日本眼科学会会員、日本コンタクトレンズ学会会員、医学博士
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