第45回 脳であれ下半身であれ、身体に優劣はない
[クリニックインタビュー] 2009/12/04[金]
大学病院が医療の最先端とは限りません。患者のこと、地域のことを第一に考えながら、独自の工夫で医療の最前線に取り組んでいる開業医もたくさんいます。そんなお医者さん達の、診療現場、開業秘話、人生観、休日の過ごし方、夢などを、教えてもらいました。
第45回
秀クリニック
高島秀夫院長
脳であれ下半身であれ、身体に優劣はない
私が小学生の頃に祖父、祖母が2人とも癌で亡くなっていまして、病気は怖い、病気を治せるような医師になりたいと思ったのです。それと、医師が作家になることがありますよね。私は子供の頃に北杜夫をよく読みました。それで医者というのは人間のことを深く理解できる職業だと感じたんです。渡辺淳一も医師から作家になっていますね。彼の作品は医学物、エッセイ、恋愛物と3つの系統がありますが、その中で医学物とエッセイはとても面白いと思います。
泌尿器科を選んだのは大学卒業間際です。親に反対されましたし、友だちにも驚かれました。ざっくばらんな話、泌尿器科は印象がよくない。一般的に性病だとか、人間の下(しも)に関することは見たくないという気持ちがあるんですね。しかし医学を学んだ立場からすると、脳だろうと下半身だろうと人間の身体に優劣はありません。どんな疾患でも、かかった人は辛い、苦しい思いをしているわけですから、それを治療する人間が必要です。人のやりたがらない分野だからこそ、自分のやる場所があるのではないかと思いました。
大学を卒業して、実際に医師の仕事を始めてみると、予想よりも厳しい仕事でしたね。もう少し余裕というか、自分の時間があるかと思っていましたが、朝の6時から終電近くまで働きづめということはざらでしたから、はじめは辛かったです。ただ、研修医のときに楽をしてしまうと後が続きませんから、あれで良かったのだろうと、今は思ってます。大学病院では癌がほとんどで、その人たちの重い病状を目の当たりにして、暗澹たる気持ちにもなりました。医師の資格を得たことで、患者さんの治療ができるようになったわけですが、患者さんに身を任せてもらえる――手術でお腹を切るなど、普通ではありえないことまでやらせてもらえる、そこまで信頼してもらえるというのは、凄いことだなと思ったことがあります。
神経内科での勤務で学んだこと
泌尿器科の医師になって7年目くらい、1997年から東京都立神経病院の神経内科に勤務しました。泌尿器科は外科系ですが、それ以外に内科ですとか、いろんな世界があるわけですから、他の勉強もしたくなったんです。その当時から、いずれ開業することも頭にあったんですね。必ずしも泌尿器科の仕事に結びつくものばかりではありませんが、そこで学んで良かったと思ったことは、たくさんあります。現在日本では脳梗塞や脳出血、あるいは寝たきりの方が多いですよね。その病院はそういった体の不自由な患者さんが多く、そこで診療したり、話を聞いたりしたのは貴重な体験でした。
脳梗塞や神経疾患はえたいのしれない病気というイメージがありましたが、神経内科でいろいろな場面を見ていると、それほど特殊なものではなく、手順をおって必要なことをすればいいというのが分かりましたから、診ることのできる疾患の幅が広がりましたね。また、ALS(筋萎縮性側索硬化症)という筋肉がどんどん萎縮していく病気があります。人工呼吸器をつけなければ生きていけなくなるのですが、その人工呼吸器をつけるかどうかなど哲学的な問題を考えさせられることもありました。
まず、親切でありたいと思った
このクリニックを開設するときに考えたことは、まず親切でありたいということです。それから医者というと患者さんは怒られたり、とっつきにくいと思われているので、気さくに話がしたい。そういう意味で、私のところでは患者さんに「様」はつかってないのです。お名前を呼ぶときは「さん」ですね。あとは誠意をもって、普通のことをする。普通のことというのは、できないことや分からないことは正直に言う。無理をしたり、いいかげんな診察はしません。
私は結婚をして10年間、子供ができず、不妊治療のために病院に通っていたんです。自分が患者の立場になると、病院やクリニックで冷たい対応をされると、本当に辛い気持ちになるというのがよく分かります。頭ごなしに威張っている医者もいますしね。自分にそういう経験があるので、なおさら私のところでは患者さんに親切に対応したいと思っています。
診察室にあるパソコンは全部で5台。診察している医師と同じ画面を、別のモニターで看護師もチェックすることで効率よく動くことができる。 医者になって良かったと思うのは、やはり患者さんに感謝の言葉をもらうことですね。直接の診療ではなく、「こういうときにはどこで診てもらったらいいんでしょう?」というような相談もあります。そういう場合でも「話して良かった」「相談して良かった」と言ってもらえると嬉しいです。社会に役立っているという気持ちです。診察のなかで癌を発見することができたり、心筋梗塞の疑いがあった患者さんを専門病院に紹介したら「早く送ってもらえて良かったです」というようなことがあると、自分でも満足できますね。
来てくれた人には失礼のないように対応したいと思いますが、ここのところ忙しいので、十分に診察に時間をかけられないのが悩みです。患者さんからは「早くしてくれ」と言われることがありますが、どうしても無理なときはあるので、その点はご理解いただきたいですね。これからの改善点はいろいろありますが、最近はお手伝いの先生もお願いしているので、私自身はもっと専門を活かした診療をしていきたいと思ってます。
子育てが中心のプライベート
健康のために習慣にしているのは、昼寝ですね。10分か20分ですが、昼寝をすると午後の能率が上がると思います。これは個人で働いているからできることですけどね。クリニックの中には横になるところはいくらでもありますから。あとは、ときどきマラソンをします。最近はあまりしていませんが、大会に出場することもありました。今は休みのときは2歳の子と3ヶ月の子の世話をしています。
趣味は山登りです。忙しくて年に一度くらいしか行けなくなってしまいましたが、北海道の友だちとあまり高くない山を歩くのが一番好きですね。子供が大きくなったら一緒に行きたいです。今も可愛いのですが、もう少し大きくなったら一緒に遊べると思うので楽しみです。
子供たちは小さいので、将来は何になりたいなどというのも、まだ分かっていませんが、周りを見ていると親が医者だと、子供も医者になる確率が高いですね。私としては医者になって欲しいという気持ちは半分くらいです。確かに医者ですと就職難の時期でも、専門職として活躍できると思いますが、医者って意外とこじんまりした仕事なんですよ。病院や個人のクリニックのなかだけで働く、地味な仕事ですので、本人たちがもっといろんなことをしてみたいのであれば、医者にこだわらなくてもいいと思います。常識的な人間になって、楽しい人生をおくってくれればいいと思ってます。
編集者として10年間出版社に勤務した後、独立。フリーライター・フォトグラファーとして、心身の健康をテーマに活動中。理想的なライフスタイルの追究をテーマに執筆を手がけている。
秀クリニック
医院ホームページ:http://www.hide-clinic.com/

クリニックの建物は洋館のよう。テレビのロケに使われたこともあるとか。
幻想的な水族館の写真は、院長の撮影。
有楽町線、地下鉄赤塚駅より徒歩2分。詳しい道案内は医院ホームページから。
診療科目
内科、皮膚科、泌尿器科
高島秀夫(たかしま・ひでお)院長略歴

1990年~1992年 順天堂大学 泌尿器科 入局
1992年 越谷市立病院 泌尿器科 勤務
1993年 三井記念病院 泌尿器科 勤務
1994年~1996年 順天堂大学病院 勤務
1997年~1998年 東京都立神経病院 神経内科 勤務
1998年~1999年 同愛記念病院 泌尿器科 勤務
1999年~2000年 順天堂大学病院 勤務
2001年~2003年 江東病院 泌尿器科 勤務
2004年~ 秀クリニック開設
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