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[クリニックインタビュー] 2009/12/18[金]

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大学病院が医療の最先端とは限りません。患者のこと、地域のことを第一に考えながら、独自の工夫で医療の最前線に取り組んでいる開業医もたくさんいます。そんなお医者さん達の、診療現場、開業秘話、人生観、休日の過ごし方、夢などを、教えてもらいました。

第47回
たんぽぽ診療所
遠藤博之院長

自分の弱さを認識するところから、医師人生がスタート

tanpopo_clinic01.jpg 医学部時代に大きな壁にぶつかって、打ちひしがれました。「人助けして感謝され、知識もあって、社会的地位もお金もあって」という医師の姿に憧れて医学を目指しましたが、医学部に入学した時経済的に貧しかったことで、同級生との格差を思い知ったのです。親の仕送りのお金で遊ぶ友人たちのなかで、学資のためアルバイトに明け暮れる毎日…。「なぜ自分だけが…」という思いの中、自分自身の弱さに気づき、人を助けるどころか、自分が助けを求めているとおごり高ぶっていた自分自身に気づかされました。その時、川田殖先生(山梨医大教授、恵泉女学園学園長、日本聾話学校長など歴任)が声をかけてくれて、以来、毎週のように教えを受けることになりました。川田先生の優しさに包まれる中で「貧乏で、弱い自分」や「悲しさ、辛さといった感情」を、ありのまま受け容れることができるようになったのです。
 これが私の医師としての原点です。つまり、人間の弱さや悲しみ、痛み、辛さを基点として「あるべき医療の姿」をみるようになりました。
 大学卒業して地元の総合病院で勤務を始めたのですが、その頃「ターミナルケア」という言葉が流行り始めました。大阪の淀川キリスト教病院や浜松の聖隷三方原病院のホスピスが、日本で初めて「緩和ケア病棟」として承認を受け、にわかに注目され始めた頃です。私もその考えに共鳴をして、緩和ケア研究会を主催して「やさしさを追求する医療」を目指すようになりました。

たんぽぽは、種だけを抱えているから、空を飛べる

 その総合病院でのさまざまな経験があって、「自分の診療所で目指す医療をやろう」と独立開業することにしました。(注:今もその病院では毎週水曜日に診療している)
 診療所の名前が、学生時代に感銘を受けた詩から取っています。星野富弘という、脊髄(せきずい)損傷で首から下が麻痺しながらも口にくわえた筆で絵と詩を描く人の作品です。直接お会いした事もあるんですよ。「どうしても大切なものは、ひとつしかない。それを見つけて、それ以外のものを捨て去れば、人は幸せになれる。」とうたった詩です。診療所においでになるお一人お一人の「どうしても大切なもの」をその人の人生に寄り添って行くなかでご一緒に探していく診療所になりたいと思い、「たんぽぽ診療所」と名づけました。

「スピリチュアル・ケア」とは、健康と幸せを目指すこと

 私の目指す医療を一言で言うと「スピリチュアル・ケアを隠し味にした医療」です。最近、「スピリチュアル」というと霊視相談みたいな変な解釈が増えて困っているのですが、「患者さんの人生の意義や、本当に大切と考えることを、患者さんと一緒に見つけたり、暖かく大事にしていく医療」です。
 WHO(世界保健機関)の定義だと、健康とは、「身体的」「精神的」「社会的」に健やかかどうか、ということになっています。単に病気があるかないかではありません。でも、そこにさらに「スピリチュアルな健やかさ」という視点が必要だと思っています。
 これは逆に、「痛み」から発想すると分かりやすいのですが、人が老いて病気になるとどうしても「身体・精神・社会的な痛み」は増えます。ところが「スピリチュルな健やかさ」だけは、むしろ死が近づいた患者さんの方が大きな場合があります。しがらみや先入観から解放されて、裸の自分と向き合って、「私にとって一番大切なものは?」と肩から力を抜いて考えられることも多いのです。ですから緩和ケアでは、スピリチュアリティをまもることを一番の念頭に置いて、私は診療します。「キュア(治療)よりもケア」が大事なのです。

一般内科の患者さんにも、「キュアよりもケア」

 当院は「緩和ケア」で有名になりつつありますが、実際の患者数では95%は一般的な内科や小児科、また私の専門の腎臓内科の患者さんです。往診して「緩和ケア」しているのは5%程度。ご依頼者は増えているのですが、私ひとりでは時間が限られているため、お断りをせざるを得ない状況です。
 ですが前述の「緩和ケア」の心構えは、それ以外の患者さんと接する際にも共通していることなのです。病気の受けとめ方は人それぞれ。辛さや悲しさに押しつぶされそうになっている患者さんに、同伴者として寄り添い、「生」を見つめる。私自身が、立派な人間ではなく、弱くて癒しを欲する存在だからこそ、それができる。「遠藤先生に話を聞いて欲しい。そうしたら全人的に健康になれる、幸せになれる。」と言ってもらえる存在を目指しています。

ずっとこの地域で続けるスピリチュアル・ケアとは

「もうひとつの待合室」。ピアノが設置されミニコンサートが行われるほか、患者さんによっては逃げ込んでホッとする空間に使ってもらっている。

 先日恩師の川田先生にお会いしました。また私が尊敬する日野原先生(聖路加国際病院理事長、名誉院長。1911年生まれ)のご本をよく拝読します。お二人の共通する思いは、「人生を深めていく」「もっとも大切なものを探していく」ということかと感じられます。私もこの地にあって苦しみ・悲しみにある方お一人お一人の人生に向き合いながら、私を含め皆さまと人生を深めてまいりたいと思います。それは、私自身のスピリチュアリティをケアすることにもつながるからです。

取材・文/QLife編集部

たんぽぽ診療所

医院ホームページ:http://www.geocities.jp/tanpopoclinic/
tanpopo_clinic_b01.jpg tanpopo_clinic_b02.jpg tanpopo_clinic_b03.jpg
静岡鉄道「県立美術館駅」下車、北へ向かって約100m。駐車場は12台完備。
詳しい道案内は医院ホームページから。

診療科目

内科・緩和ケア・腎臓内科・在宅診療

遠藤博之(えんどう・ひろゆき)院長略歴
遠藤博之院長
1989年 山梨医科大学卒業
1989年 静岡済生会総合病院
2001年 静岡済生会総合病院 腎臓内科医長
2004年 静岡済生会総合病院 緩和診療科科長
2006年 たんぽぽ診療所開設 院長就任


■資格・所属学会他
日本内科学会総合内科専門医、日本腎臓学会認定医、日本透析医学会指導医・認定医

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