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[医療人] 2009/12/25[金]

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大学病院が医療の最先端とは限りません。患者のこと、地域のことを第一に考えながら、独自の工夫で医療の最前線に取り組んでいる開業医もたくさんいます。そんなお医者さん達の、診療現場、開業秘話、人生観、休日の過ごし方、夢などを、教えてもらいました。

第48回
おぎもと内科クリニック
荻本剛一先生

絶えず新しい情報を取り入れる「知」

ogimoto_clinic01.jpg 僕はもともと医者になりたかったわけではないんです。小学生の頃「医者になるのもいいかな」と思ったこともありましたが、親からさんざん「医者になったらどうだ」と言われたので、かえってやりたくなくなってしまって(笑)。高校時代も、考古学や経済など文科系の勉強が好きでした。しかし進路を決める時、考えが行き詰まってしまったんです。そんな時に医学の道を志す友達の影響を受け「僕もやってみようかな」と思い、理系に転身しました。崇高でもなければ、そう純粋でもない動機でしたね。
 内科を選んだのは、僕がわりと理屈っぽい人間だからです。自分でもそう思うし、親や友達からも言われますね。内科は、病気をいろいろな角度から検証して治療スタイルを作っていきますから、理屈っぽい僕に向いていると思ったんです。小児科に進むことも考えましたが、子供の死んでいく姿を見ることができないと思い、やめました。幼い命が消えていくのは辛い、本当に辛いことです。今だったらその気持ちに耐えて治療できるかもしれないけれど、当時の僕にはとても無理でしたね。
 大学時代にはいろいろなプロジェクトや治験に参加し、先進医療から一般医療までたずさわりました。経験を積んでいくうちに痛感したのは、患者さんには身近に適切なアドバイスができる医師が必要だということ。そしてそのためには、日進月歩の進化をとげる医学に遅れをとらないよう、学び続けることが大事です。僕が入局したときの主任教授である石田尚志教授は非常に勉強熱心で、たとえ自分の専門以外のことであっても、疑問に思ったらとことん調べるような方でした。専門は腎臓でしたが循環器や血液の分野にも造詣が深く、自分の外来で他の分野の珍しい病気を見つけられたこともあります。僕はそんな石田先生にいつも尊敬の念を持っていましたし、今でも目標にしています。

患者さんのための医療を提供する「情」

病院的なイメージを払拭した、開放感のある雰囲気。スタッフも明るく、患者さんはリラックスした気分で診察を受けることができる。

 治療にあたって重要なのは、まず患者さんのお話に耳を傾けることです。すべての基本は「患者さんのためになるかならないか」ということ。そのためには、患者さんのお話をよく聞いて、身体だけでなく生活背景や精神状態など総合的に考えなければなりません。話を聞き、考えて、診断して、治療するのが内科なのです。
 実際、身体も悪いけれど、一番の原因は精神的な不安というケースがあります。例えば、血圧。患者さんが緊張しやすい方の場合、「高いんじゃないかな」と思って血圧を測ると、実際に高くなります。そんな方が病院に来て測れば、なお緊張して数値は高くなる。しかしその数値だけを見てお薬をあげてしまうと、緊張していない、血圧が安定している時に飲んで具合が悪くなってしまいます。そんな患者さんには、「一度お家で測ってみて下さい」というアプローチから始めるのです。
 また患者さんとお話するなかで、患者さんがしてほしい治療と、僕がおすすめする治療が食い違うことがあります。もし患者さんの思っていることが著しく間違っているようなら、「できません」とハッキリお伝えします。しかし多少のズレであれば、患者さんのご希望を取り入れるようにします。その後、お互いの信頼関係が築かれれば、徐々にこちらがおすすめする治療法をご理解頂けることもあるからです。大事なのは”お互いに納得して治療を進めていく”ということ。慢性疾患の治療というのは、双方が納得してやっていかないと決してうまくいかないものなのです。
 生活習慣や精神状態に加えて「患者さんのお財布にも気を配ってあげないといけないな」という思いもあります。第一選択となる治療法があっても、高額であれば、もしかしたら患者さんには払えないかもしれない。そういったことをさり気なく聞いてあげて、やはり支払いが難しいようなら、他の選択肢を用意します。要するに、患者さんに無理をさせないで治療することが大事だと思うのです。特に昨今は、治療中に失業する方もいらっしゃいます。世の中がこういう世の中である以上、誰かが守ってあげないといけないですよね。そこには僕らの経済的な損失もあるけれど、患者さんに必要なのは継続して治療することですから、病院に来なくなってしまうよりはいいと思っています。病院は基本的に”行けば嫌な思いをする場所”ですから、さらに気が重くなるようなことがあれば、患者さんはますます来なくなってしまう。僕も忙しくて歯医者さんになかなか行けないのですが、2回くらいすっぽかしてしまったら、なんだか余計に行きにくくなってしまって(笑)。つい病院から足が遠のいてしまう、患者さんのお気持ちはよく分かるんです。

医療人としての責務を果たす「意」

大きなガラス窓から日の光が差し込む待合室。窓の外には美しい花と緑。

 人間同士の信頼関係を築くのは、難しいもの。患者さんやご家族との関係も同じです。もう助からない患者さんがいたとして、いよいよ具合が悪くなってくると、当然ご本人もご家族も動揺されます。そんな時は今まで築いてきた関係が崩れてしまいやすく、僕も残念な思いをしたことがあります。しかし逆に、ご家族の方と心を通わせ、サポートしてあげながら亡くなっていく方をお見送りする、そういった経験もたくさんしています。難しさの裏返しが、僕らの喜びでもあるんですね。
 僕はよく、若い先生に「亡くなる方を看る時は、患者さんだけではなく、周りの人が幸せになれるように演出してあげるんだよ」と言います。僕らは、その方の最期を演出してあげられる“演出家”なのだということです。
 人の最期には、いろんな場面でご家族が判断を求められます。例えば「人工呼吸器をつけますか?」。ご家族で相談してどうするか決めたとしても、その判断で良かったと、自信をもって言える方はそうそう多くいません。「あれで良かったのかな、もっと何かしてあげられたんじゃないかな」と、どうしても思ってしまうものです。そういう時に、ご家族だけで悩ませるのではなく「こういう結果になったけれど、あの時頑張って何もしないであげられたから、安らかに逝くことができましたね」と言ってあげる。そうするとご家族自身も、「大切な人をちゃんと送ってあげられたんだ」と思うことができます。そうやって心の整理をつけてあげれば、もしその後また家族の誰かが病気になっても「支えてあげよう」という力になります。でも、迷って苦しんで、悶々とした気持ちだけが残ると「あんな経験は二度としたくない」と思ってしまうんです。その結果、本当は畳の上で死にたいと思う方がいても、達成できません。それはとても残念なことですよね。
 病気を見つけて、患者さんを助けてあげられた時や、亡くなっていく方をご家族と一緒に看て、充足感や満足感を与えてあげられた時。僕が「良かったな」と思うのは、そういった”医師としての勤め”を果たすことができた時ですね。

全人的な医療とは

 僕は全人的な医療をやりたいと思っています。全人的とは、“知情意”――絶えず学び続けるという「知」、受診される側の立場に立つという「情」、スタッフ一丸となって進んでいく「意」――に優れているということです。それは、簡単なことではありません。「知」は絶えず努力して鍛えていかなければなりません。僕は一人で診断するので、自分ひとりの世界に陥らないようにすることも「情」には大切です。また「意」を達成するには、他の看護士たちも同じ思いを共有する必要があります。
 しかしいくら僕らが努力し、採算を度外視して医療にまい進していても、世間一般にそれが理解されるとは限りません。世の中の医者に対する見方には「お金持っているんじゃないの?」とか「ずるいことしているんじゃないの?」という偏見が、まだ多いような気がしますね。ひと昔前の、それも一部の医師によって作られたイメージではありますが、残念なことです。
 それに忙しくて、自分の時間もあまりとれません。健康のため週2回はスポーツクラブに行くようにしていますが、趣味に費やす時間はほとんどありませんね。クラシック音楽を聴いたり、旅行にも行きたいけれど、なかなか難しい。でももし時間ができたら、考古学が好きなので、エジプトに行ってみたいですね。閉所恐怖症ゆえ、ピラミッドの中には入りたくありませんが(笑)。
 全人的な医療を行うのは、とかく大変なことです。それでも僕は、医師、看護士、スタッフ全員が“知情意に優れた医療人”であり続けるべきだと信じています。

取材・文/瀬尾ゆかり(せお ゆかり)
フリーライター・編集者。編集プロダクション勤務を経て独立。医学雑誌や書籍、サイトの編集・記事執筆を多数手掛ける。ほかに著名人・文化人へのインタビューや、映画・音楽・歴史に関する記事執筆など、ライターとして幅広く活動している。

おぎもと内科クリニック

医院ホームページ:http://www.ogimoto-naika.com/
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受付では、飾り棚から、可愛らしい人形たちが挨拶している。
トイレは車椅子の患者さんも快適に利用できる。お母さんのために、おむつ交換台も設置。
京王線国領駅から徒歩2分。詳しい道案内は医院ホームページから。

診療科目

内科

荻本剛一(おぎもと・ごういち)院長略歴
荻本剛一院長
1987年 聖マリアンナ医科大学卒業 明石賞、聖マリアンナ医学会賞受賞 第81回医師国家試験合格
1993年 博士(医学)
1994年 総合病院衣笠病院 第1内科 医長
1995年 聖マリアンナ医科大学病院 医長
1998年 スウェーデン王立カロリンスカ研究所 留学
2001年 聖マリアンナ医科大学 内科学講師
2004年 おぎもと内科クリニック 開院 聖マリアンナ医科大学 内科非常勤講師



■資格・所属学会他
日本内科学会…認定内科専門医
日本腎臓学会…腎臓専門医
日本糖尿病学会会員
日本消化器内視鏡学会会員



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