第49回 負担を少なくするのも、治療
[クリニックインタビュー] 2010/01/08[金]
大学病院が医療の最先端とは限りません。患者のこと、地域のことを第一に考えながら、独自の工夫で医療の最前線に取り組んでいる開業医もたくさんいます。そんなお医者さん達の、診療現場、開業秘話、人生観、休日の過ごし方、夢などを、教えてもらいました。
第49回
村井おなかクリニック
村井隆三先生
内視鏡で治療するということ
私が今の仕事を選んだのは、大学受験の時です。いろいろと自分の進路を考えるなかで、人のために役立つ仕事、人から喜ばれる仕事がいいなと思い、医者を志しました。大学では消化器外科を専攻し、なかでも特殊な「内視鏡を使った外科治療」を学びました。今、その知識と経験を活かし、内科や外科の枠を越えた「おなか」専門の治療を行っています。
治療の基本は低侵襲(ていしんしゅう)手術、つまり「小さく切って大きく治す」手術です。開腹手術の場合はおなかを20㎝~30㎝も切らなければなりませんが、我々はおなかに数ヵ所小さな穴を開け、そこから内視鏡を通して手術を行います。数㎝の傷で同じ治療効果が得られ、患者さんの痛みや負担も少なくてすむ治療法です。
内視鏡手術の進化は目覚ましく、例えば胆石症を治療する場合、以前はおなかを4ヵ所切る必要がありました。おへそ、みぞおち、両わき腹に5㎜~2㎝の穴を開けるのです。今はSILSといって、おへそに一ヵ所穴を開けるだけで手術が可能になりました。
しかし治療技術の難易度は逆です。一番簡単なのは開腹手術で、次が4ヵ所おなかを切る手術、そして一番難しいのがSILSとなります。いずれにしても我々は、数ある治療法のなかから患者さんにとって一番負担が少ない方法を選ぶべきだと思っています。
情報をありのままに公開する

「まず観察、次いで権威なしの思索、先入観なしの立証」―フィルヒョーの言葉が貼られた内視鏡室。 治療の際心がけていることは、「まず観察、次いで権威なしの思索、先入観なしの立証」――19世紀の病理学者フィルヒョーの言葉です。この言葉を教えて下さった慈恵医大外科の安藤博教授は私のもっとも尊敬する医師で、内視鏡の持ち方から入れ方、すべてを指導して下さいました。教えて下さったこの言葉は、簡単なようですが、実行するのはとても難しい。ですからいつでも思い出すことができるように、プリントして内視鏡室に貼ってあります。
そのほかに心がけていることは、患者さんに対する詳しい説明と、情報公開です。患者さんにとって、おなかの中はブラックボックス。そこがどうなっているのかなんて、自分では分かりません。そのため当医院では、電子カルテをプリントしてお渡しし、情報をありのままに共有しながら治療していきたいと考えています。
また、今はどんなことにもいろんな選択肢がある時代です。当然、ひとつの病気に対して、治療選択肢がひとつとは限りません。患者さんが違う選択をする場合、自らの病気に対する正しい情報をもとに、正しい診断を受けてもらいたい。その際、電子カルテの写しをお役立て頂ければと思っています。
知るだけではなく、「賢い選択」を
気配りの行き届いた待合室。スタッフの雰囲気が、院内をより明るくしている。
治療において難しいと思うのは、やはり患者さんとの関係ですね。その理由は、二通りあります。ひとつは、医療全体が不確実性を持っており、数学みたいに論理的なものではないことです。1+1がつねに2とはならず、1.9、2.9になることもある。絶対的な正解がないなかで診断し、治療していくのですが、その結果が患者さんにとって必ずしも良い結果とは限りません。もうひとつは、病気が実に多種多様だということです。同じ病気に対し、いつも同じ治療をできるとは限らない。患者さんによって症状や対処法は異なるので、それに合わせた治療法を考えていかなければなりません。
以上のことを患者さんにご理解頂くためには、やはり説明が重要になってきます。必ずしも良い結果になるとは限らないことを含めてご説明するわけですが、それが受け入れられるかどうかは難しいところです。患者さんは、良くなることを期待して病院にいらっしゃいますから。
最近では、情報に振り回されている方が非常に多くなってきているので、そこにやりづらさを感じることも多々あります。病気について調べるのは結構ですが、インターネットには嘘も多いので、注意して頂きたいところです。ご自身で調べても、こちらの言うことに聞く耳を持って下さるなら良いのですが、そうでない方も数多くいらっしゃいます。情報で自分が凝り固まってしまっているんですね。患者さんには一番賢い選択をして頂きたい、確実に治ってほしい。だから一番良いと思われる治療法をご提案するのですが、それが受け入れられないのは非常に残念なことです。
インターネットの情報すべてが正しくないとは言いませんが、できれば医師の意見を聞いて、ベストな選択をして頂きたい。こちらの思いは、ただそれだけです。患者さんが回復されたときの笑顔、元気に帰られていく姿を見るのが、何より嬉しいことなのですから。
今、私が特に力を注いでいるのは、八王子市の市民講座です。「おなか健康シリーズ」と題し、市民の方々におなかのいろいろな病気についてお話ししています。開業当初から、今の日本の健康保険制度のもとでは十分な病気の説明、検査の説明、治療についての説明は困難であるとの思いがありました。そこで十分な時間をかけて「おなかの健康」について市民の方々と語り合う場を作ってきたのです。絵や実際の画像をお見せしながら、毎回異なるテーマを詳しくご説明しています。ホームページにもおなかのいろいろな病気について掲載しておりますので、ぜひご覧頂きたいですね。
学生時代のラリーを、もう一度
私自身が健康で気をつけていることといえば、遅くまで飲みすぎないことでしょうね。若い頃は二次会、三次会まで行きましたが(笑)、今は次の日もあるし、体のこともありますので、一次会で失礼しています。あとは愛犬ラブラドールの散歩です。
もしできたら、ドライブに行きたいと思います。学生時代は自動車部に所属し、山の中でラリーをやっていました。車のなかでも、特に速い車が好きなんです。でもしばらくは時間がないので行けそうにありませんね。
フリーライター・編集者。編集プロダクション勤務を経て独立。医学雑誌や書籍、サイトの編集・記事執筆を多数手掛ける。ほかに著名人・文化人へのインタビューや、映画・音楽・歴史に関する記事執筆など、ライターとして幅広く活動している。
村井おなかクリニック
医院ホームページ:http://www.m-onaka.com/

京王線京王八王子駅から徒歩1分。詳しい道案内は医院ホームページから。
診療科目
おなか(内科・外科)
村井隆三(むらい・りゅうぞう)院長略歴

前東京慈恵会医科大学外科助教授
元東急病院診療部長(外科系担当)
前町田市民病院消化器外科担当部長
東京医科歯科大学大学院医療経済学講師
日本外科学会専門医・指導医
日本消化器外科学会専門医・指導医
日本消化器内視鏡学会専門医・指導医
インフェクションコントロールドクター(感染制御医)
2005年5月1日 村井おなかクリニック 開業
- この記事を読んだ人は他にこんな記事も読んでいます。
掲載されている記事や写真などの無断転載を禁じます。