第50回 海空に憧れる、週末は「フライング・ドクター」
[クリニックインタビュー] 2010/01/15[金]
大学病院が医療の最先端とは限りません。患者のこと、地域のことを第一に考えながら、独自の工夫で医療の最前線に取り組んでいる開業医もたくさんいます。そんなお医者さん達の、診療現場、開業秘話、人生観、休日の過ごし方、夢などを、教えてもらいました。
第50回
にしや耳鼻咽喉科クリニック
西谷全弘院長
地獄の研修医時代
高校時代はね、一番なりたかったのはパイロットなんです。父が耳鼻科の医者だったので、小さい頃から何となく、将来は医者になるんだと言っていましたから、親はそのままずっと医師を目指していると思っていたでしょう。でも高校に入って内心では悩んでいました。本気で大分の航空大学校をめざそうと思ったときもあります。ただ、調べてみたら当時はパイロットになるために、裸眼で0.7か0.8の視力が必要だったのです。それで第二候補の医者になることにしたんです。
はじめは手術がしたいので外科の医師になろうと思い外科の研修医になりました。「悪いところを取ったら病気が治る」という分かりやすさに魅力を感じてました。父親が開業医でしたから、その仕事を見ていていたし、一般的にも耳鼻科には手術のイメージがなかったので、耳鼻科というのは、まったく考えてなかったんです。実際に医者になってみると実は耳鼻科には頭頸部外科という領域があり、かなり大きな手術もするのだということが分かって、最終的に耳鼻科に入局したのです。
研修医の頃は地獄の忙しさでしたね。心臓外科とか小児科を回ったりすると、早い日でも帰りは夜の11時、12時になり、手術の担当をした日は徹夜なんです。それで次の日はまた人工心肺や外回りの仕事がありますから、40時間位ずーっと働きっぱなし。当直室のベッドも足りなくて、待合室のベンチや寝たこともあります。研修医は忙しいとは聞いていましたが、そこまでとは思いませんでしたね。
大学病院にはいろんな患者さんが集まりますが、腫瘍の患者さんは多かったですね。その当時の恩師が慶応から順天堂にきて助教授になり、今は杏林大学の教授になった甲能直幸(こうの・なおゆき)先生です。手術が上手でしたし、悪性腫瘍などの患者さんに対する考え方に影響を受けました。医者のエゴではなく、患者さんのことを一番に考えて、どうやったら患者さんにとって苦痛がなく、幸せになれるだろうかということを常に考えている先生でした。
目指すはリラックスできる空間

診察室の電子カルテはMacintosh。院長先生はごく初期の頃からのMac愛用者だとか。
平成5年から10年間、東京労災病院に勤めます。途中で大学病院に戻る話もあったんですが、その頃にはもう甲能先生は別の病院に移ってしまっていて、腫瘍の手術は少なくなっていたので断らせていただきました。労災病院は中規模の病院でしたが、いろいろな患者さんがくるところなので、手術もたびたび手がけることができたんです。少ないスタッフで喉頭がんなどの普通の手術の他に頭頸部がんの再建術などの大きな手術もしてました。
そうしているうちに、たまたまアイスホッケー部の後輩で東京労災病の整形外科にいた医者が現在開業しているこのビルの1階で開業することになり、物件が空いているからぜひ一緒にやりましょうと声をかけられたんです。そのときまで開業する気はぜんぜんなかったので、「ええっ!?」という感じだったのですが、いつかは勤務医を辞めて開業することになるだろうとは思ってましたし、東京労災病院のある大森から品川までは電車で2駅ですから、僕が担当している患者さんも来やすいだろう考えて、やってみることにしました。
開業することで医師だけではなく、経営者としての仕事も抱えることになったわけですが、東京労災病院では部長をやっていたものですから、部長会議や経営会議など、月に何回もある会議に出席しなくてはいけなかったんですね。そこで毎年の病院、各科の経営上のデータも見させられ比較され、赤字にならないよう叱咤激励されるのですが、少しうんざりしてましたから、とまどいはありませんでした。自分では一生懸命やってても月の収支が赤字になることはありますからね。自分のクリニックを自分で経営する分には、駄目なら駄目でも自分さえ納得すればいいのですから、気が楽なくらいで(笑)。
目指したのは患者さんが安心して、リラックスして受診できるようなクリニックですね。診療だけではなく、スタッフやクリニック内のイメージも親しみやすいイメージを大事にしています。ロゴマークはちょっとマンガっぽいんですけど、僕が「こんな感じに」と言ってアイデアを出して、それをデザイン会社の人が形にしてくれたものです。僕以外のスタッフは今6人です。「患者さんに親切にして」ということは常に伝えています。
ところ変われば患者さんも変わる
東京労災病院では、周辺の住宅街に住むお年寄りや子供たち、小さな町工場などで働いている方々が患者さんの8割を占めていましたが、ここにくる患者さんはサラリーマンやOLがほとんどです。患者さんのタイプは180度変わりましたね。労災病院の患者さんは、最初から「先生におまかせします」という方が多かったのですが、こちらでは診察時の説明がとても重要になったと思います。きちんと説明して納得してもらえないと、治療が進められないことがかなりあります。
こちらとしてはかなり説明したつもりでも、それが伝わらないときは悲しいですよ。たとえば、こういう症状の患者さんにはこういう説明をするというのは、いつも決めているんです。どの患者さんが来ても、同じ病気のときには同じ説明をしますから、言い忘れることはないはずですが、次に来たときに「そんなの聞いてない」と言われてしまうときにはね……。説明のときは、なるべく専門用語を使わずわかりやすく話しているつもりですが、初めて聞いて理解しにくい話もあると思いますので、分かりにくいところがあったらどんどん質問してほしいと思っています。
今後の課題は待ち時間の調節ですね。クリニックのホームページから予約を受け付けたり、パソコンや携帯電話から予約状況を確認できるシステムを使っていますが、待ち時間をなくすことはできません。待合室はあまり広くないので、お待たせするのは本当に心苦しいのですが、解決するのはなかなか難しいですね。ひとりひとりの患者さんに、十分に時間を取ってゆっくり診察してあげたいのはもちろんですが、そのためには他の患者さんをお待たせしなくてはならないわけです。患者さんとしては待つのは嫌だけど、ご自分の診察はゆっくりしてほしいでしょうしね。できるだけバランス良く診察するよう努力していますので、患者さん側にもご理解いただけたら嬉しいです。
カイトサーフィンの魅力にはまって



カイトサーフィンを楽しむ様子。砂浜に立っている男の子が息子さん。
スポーツは学生時代から常にやっていて、怪我もしょっちゅうしています。開業してすぐの頃に椎間板ヘルニアの手術をしていますが、それもスノーボードで大転倒したのがきっかけです。年末年始にかけて入院手術したのですが、その時の手術前の痛みはきつかったですね。治るまで時間が一番長くかかったのはアイスホッケーで傷めた膝です。試合の時に相手チームの人間とぶつかり膝が反対に折れ曲がって靭帯、半月板を損傷したんです。このほかにも手術や入院の経験が何度もあるので、患者として身動きのままならないときに、医師や看護士さんの優しい態度がどれほど嬉しいか、身に染みて感じましたね。そういった経験は自分が診察する立場になっても役立っていると思います。
最近では2、3ヶ月前にカイトサーフィンをしているときに、額を切って、まだ少し痕が残ってます。カイトサーフィンでジャンプしたときに空中でボードが外れちゃったんです。そのときに思いっきり伸びた安全ロープが、着水した時に勢いよく戻ってきて、額に当たったんですね。その瞬間はびっくりしただけで、そんな怪我をしてるなんて思わなかった。岸に戻ろうと走り出したら、だんだんこめかみのあたりが温かくなってきて、視界が赤くなり前が見えなくなるんです。「あれ?」と思って手で触ったら、傷がパックリ開いていてもう血だらけ。海からの帰りに東京労災病院に立ち寄り、後輩の整形外科の医者に縫ってもらってから帰宅しました。そんな調子で、入院しないまでも、本当に怪我は多いのですが、スポーツをやめようと思ったことはありませんね。少しも懲りてません(笑)。
スキー、スノーボード、アイスホッケー、サーフィン、ウィンドサーフィン、スピードとスリルのあるスポーツが好きですね。ダイビングもしますが今はリゾートダイバーになってしまいました。今までで一番面白いと思ってるのがカイトサーフィン。カイトサーフィンは海上スポーツの中では一番自由に動けるんじゃないかな。細かいターンもできるし、波にも乗れるし、ジャンプも波がなくてもカイトのコントロールだけでビルの2、3階くらいの高さくらいまでなら軽々飛べます。10メートル、15メートルの高さまで飛ぶ人もいます。動きが本当に3Dなんです。カイトサーフィンは風さえあればどこでもできるので、一年中やってますよ。茅ヶ崎、江ノ島、三浦、船橋、富津のどこかの海ですることが多いですが、どこも家から車で1時間くらいで海岸に行けるので、午前中にネットで海の風速をチェックして、風が上がりそうならすぐに出かけます。
子供は男の子が3人と女の子が1人。一番小さいのは小1の男の子で、さすがにまだカイトサーフィンは無理ですが、パドルサーフィンは一緒にやっていて、最近はウィンドサーフィンをやりたがってます。もっと大きくなって一緒にカイトサーフィンで飛べるようになったら、楽しいでしょうね。
編集者として10年間出版社に勤務した後、独立。フリーライター・フォトグラファーとして、心身の健康をテーマに活動中。理想的なライフスタイルの追究をテーマに執筆を手がけている。
にしや耳鼻咽喉科クリニック
医院ホームページ:http://www.ent248.com/
JR品川駅港南口から徒歩6分。詳しい道案内は医院ホームページから。
診療科目
耳鼻咽喉科、気管食道科、アレルギー科、頭頸部外科
西谷全弘(にしや・まさひろ)院長略歴

順天堂大学外科にて研修後 順天堂大学耳鼻咽喉科学教室入局
平成元年 学位取得(医学博士:喉頭異型扁平上皮、扁平上皮癌の免疫組織化学的研究)
平成05年 東京労災病院 耳鼻咽喉科部長
平成15年6月 東京労災病院を退職
平成15年7月 にしや耳鼻咽喉科クリニックを開院
■免許・資格
日本耳鼻咽喉科学会認定専門医、日本医師会認定産業医、身体障害者福祉法第15条指定医師(聴覚、平衡機能、音声機能、言語機能又はそしゃく機能の診断)、杏林大学医学部 非常勤講師、DAN JAPAN(Divers Alert Network Japan)登録医師
■所属学会
日本耳鼻咽喉科学会、日本気管食道学会、日本頭頸部癌学会、日本頭頸部外科学会、日本音声言語医学会、耳鼻咽喉科臨床学会、日本口腔咽頭科学会、日本喉頭科学会、日本癌治療学会
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