[クリニックインタビュー] 2009/01/06[火]

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大学病院が医療の最先端とは限りません。患者のこと、地域のことを第一に考えながら、独自の工夫で医療の最前線に取り組んでいる開業医もたくさんいます。そんなお医者さん達の、診療現場、開業秘話、人生観、休日の過ごし方、夢などを、教えてもらいました。

第3回
久我山レディースクリニック
青木啓光(ひろみつ)院長

コンサルティングこそが治療の第一歩

kugayama_doctor.jpg そもそも産婦人科のことを、「自分が行っていい場所ではないのでは」という風に考えてしまわれる若い方も大勢いらっしゃいます。どういうプロセスで診療がなされるのかいまいち知られていないことも、そういう遠慮を招いてしまう一因だと私は考え、敷居の低い産婦人科クリニックをずっと目指しています。
 ですから「お入りください」と呼ばれて診察室に入り、いきなり診察を受ける、ということはもちろんありません。最初はお話を伺い、必要とあれば婦人科の診察をさせていただくことになります。
 心理的な負担や抵抗をできる限り取り除いて診察に臨むつもりでいますので、なにか悩みを抱えていらっしゃるようなら、一人で悩まず気軽に相談しにいらしてほしいと思います。産婦人科の対象になるのは、あらゆる年代の方です。膣炎のように、膣の菌が増えれば誰でもかかり得る疾患も存在します。小児科からの紹介で3~4歳の患者さんが見える場合もありますから、「産婦人科にかかるには早すぎるのでは」とか「病気じゃなかったら恥ずかしい」などと考えず、少しでも不安があったら相談に立ち寄るくらいの気軽さで、来て頂きたいと切に思います。

子宮の病気を「予防する」という観点

 子宮や卵巣などの生殖器は、心臓や脳などと違って生きていくのに欠かせない臓器ではありません。それだけに検査を受ける機会も疎かになりがちですが、子孫を残すという意味では大事な部位ですので、ケアをしていくことも大切です。
 たとえば子宮頸がんという病気があります。これは性病ではありませんが、性行為そのものによって発症のリスクが生じます。性行為によって HPV(ヒトパピローマウィルス)が女性の体内に入り、これが子宮頸がんを引き起こす原因となるからです。つまり、性交渉をもったことのあるすべての女性が、子宮頸がんのリスクを負っていることになります。
 実を言うと、子宮頸がんは予防ワクチンの接種で防ぐことが可能です。海外では実際に「年頃になった娘にはワクチンを接種を」という習慣が浸透している国もあります。それに対して、日本ではなかなかそうもいきません。ワクチン自体が治験段階であることに加え、「娘が年頃だからワクチンを」という話が家庭内ではまず交わされないからです。多くの自治体ではすでに啓蒙活動を実施していますが、娘さんをもつご家庭ではいま一度、産婦人科への受診・検診を考えてみてほしいと思います。

30年間、一度も外泊せず働き続けた父を見て

 「尊敬する医師は?」と訊かれたら、「昭和期に活躍したすべての産科医」というのが私の答えです。
 多くの産婦人科クリニックは、合併症などのリスキーな問題が現れた際に対応しきれないことなどを理由に、出産を取り扱えなくなっています。現に当院も、対象となる妊婦さんは妊娠 32、3 週までの方に限られます。
 しかし数十年前まで、産婦人科医は文字通り「お産のための医師」として存在していました。 昭和期は人口の爆発的な増加があり、経済的にも急成長をみた時代です。現代ほど設備も整わず、一人の医師が総合的な対応をしなければならなかった。そんな時代に休むことなく日夜赤ちゃんを取り上げていた産婦人科医たちには、畏敬の念を抱きます。産科医だった私の父親も、30年間の間に一度も外泊することなくいつも働いていました。そんな姿を見て育ったので、現代の人口基盤を支えることとなった昭和期の産科医たちには、心から尊敬を覚えますね。

趣味でも仕事でも、感動することを大切に

 私は野球がどうしようもなく好きで、子どもの頃は野球の選手になりたいとずっと思っていました。今も思ってるんですけどね(笑)。私は産婦人科医の父親に、赤ちゃんを取り上げる仕事の神秘性や素晴らしさを教えられて育ちましたから、進路選択の頃には「大人になったら野球選手か産婦人科医になろう!」と。最終的にはより現実的な選択肢ということで、産婦人科医になりました。ただ、産婦人科医になりたかった当初の動機こそ「父のように日々、赤ちゃんをとりあげたい」ということだったわけですけれども、社会情勢の変化や役割の細分化などの影響を受け、昨今、当院のようなクリニックでは、赤ちゃんを産んでいただくことができません。それだけは心もち残念ですが、自分に与えられた職務を全うしていきたいと考えています。
 そして産婦人科医になっても野球への思いは変わりませんから、いまでは子どもの参加する草野球チームの見学と応援に行ったり、自分もお父さんどうしのゲームの際に情熱をもって参加したりしています。子どもが大きくなって、野球選手になったらいいなあなんて考えたりもします(笑)。
 仕事も趣味も、楽しい気持ちで行うことが健康維持につながると思いますから、できるだけなにごとにも一生懸命取り組むことが大事ですね。
 私にとって取り組むべき仕事というのは、日々の診療であり、同時に産婦人科医にできることの啓蒙でもあります。
 現代は医療こそ発達しましたが、妊娠を考えている女性にとって不安のない社会とは言いきれない状態です。ですから世の中のお母さんが安心してお産に臨めるような環境を整備できるよう、貢献していける医師でありたいですね。

取材・文/戸谷妃湖(とたに ひこ)
広告代理店のコピーライターを経て、現在フリーライターとしてロンドン・北京・東京の三都市を基点に活動。被虐待児童におけるトラウマティック・ストレス学、および漢方による精神疾患アプローチに関する研究をライフワークにしている。

久我山レディースクリニック

医院ホームページ:http://www.kugayama-lc.com/
kugayama_entrance.jpg産科・婦人科の各種検査・治療を専門に行うクリニックです。
経膣エコー、カラードップラーエコー、超音波骨密度検査設備を完備。除菌スリッパもご利用いただけます。女性が安心して相談に訪れられる環境の充実を目指しています。セカンドオピニオンをお求めの際もお気軽にお越しください。
*対象:婦人科一般の悩み全般(生理の悩み、下腹部の痛み・不快感、おりものの異常など)・妊婦健診・婦人科癌検診(子宮頸癌・子宮体癌・卵巣癌・乳癌)・性感染症・不妊症・更年期障害・骨粗鬆症・ピルの処方・プラセンタエキス・ブライダルチェック・ピアス・流産手術・コンジローマ焼灼術・ポリープ切除 など



ビルの2F、静かな場所にありますので落ち着いた環境で診察を受けられます。

青木啓光(あおき・ひろみつ)院長略歴
kugayama_doctor_100.jpg
1990年 杏林大学医学部卒業/同産婦人科学教室 入局
1992年 共済立川病院 産婦人科
1997年 公立福生病院 産婦人科医長
2005年 久我山レディースクリニック開設/現在に至る

■資格
日本産婦人科学会認定医・母体保護法指定医・日本医師会認定産業医


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