第4回 子供の笑顔、すべてはそのために
[クリニックインタビュー] 2009/01/17[土]
大学病院が医療の最先端とは限りません。患者のこと、地域のことを第一に考えながら、独自の工夫で医療の最前線に取り組んでいる開業医もたくさんいます。そんなお医者さん達の、診療現場、開業秘話、人生観、休日の過ごし方、夢などを、教えてもらいました。
第4回
いなみ小児科クリニック
稲見誠院長
子供の笑顔、すべてはそのために
小児科医になったきっかけは、大学で小児科の教授から声をかけてもらったからだとずっと思っていましたが、振り返ってみると「子どもが好き」なことに気づいていたからでもあると感じます。
父が開業医だったので、「医者というのはだいたいこんな感じの仕事」と比較的早くから理解していました。それで自然に医道に入りましたが、外科や内科などどの科に進んでもおかしくはなかったでしょうね。
小児科医になってみると大変ながらも嬉しいことが多く、子どもにいつも癒されています。一番嬉しいのは、やはり子どもの笑顔ですね。具合が悪くて来院した子が投薬や治療を受けて、次に来た時に元気な顔を見せてくれると、それだけで感無量です。笑顔で「せんせー」なんて呼んでもらえたりすると、もう……ものすごく嬉しい。
子どもたちは私の似顔絵をお手紙に描いて来てくれることがあり、これまでにもらったお手紙は全部診察室に飾っています。

元気になった子どもたちからたくさんの手紙が届けられる
病児保育の危機に立ち向かう
当院では、病気のお子さんを預かる「病児保育」※に取り組んでいまして、「ハグルーム」を併設しています。入院を要する子ども以外の全病児を受け入れ、医師・保育士・看護士が、治療を行いながら保育を行うというものです。共働きや一人親のみなさんが多いですから、病児保育施設のニーズはとても高いです。開設当初は定員4名でしたが、現在は定員8名にして運営しています。毎日のキャンセル待ちのほか、いつも5人から10人の病児が利用待ちで、施設の不足をつねに痛感しています。
このままだと長い目で見て、この国の病児保育は破綻してしまうでしょう。施設不足の大きな理由として、運営の経済的負担が挙げられます。助成金だけでは到底立ち行かず、医師が自費を投入することでしかこうした病児保育施設は運営できないのが実状です。当院も厚労省と東京都、世田谷区からの助成金をハグルームの運営に充ててはいますが、助成金は人件費も満たすことはできません。ハグルームは毎年平均して500万円の赤字経営で、穴の空いた分は私が個人として補填しています。助成金がここよりも小額な地域も少なくありませんから、そういったところは本当に関係者の負担が大きい状態です。
また、病児保育はあくまでも具合の悪い子どもに適切な処置を施すための機構であるにも関わらず、一部では「母親の就労支援制度」とか「子育てから親が逃避するのを促すもの」と誤解する声もあるのが残念でもあります。
仕事で離れられないなどお忙しい親御さんが多い中、病気の子どもを専門家がケアしてあげなかったら、危険なのです。親御さんもかんたんには仕事を休めませんので、解熱剤を与えて保育園やベビーホテルに行かせてしまったり、病気の知識がまったくない知人友人に預けて病状を深刻なものにしてしまったりするケースも出てくるわけで、そうなると一番気の毒なのが子どもです。具合の悪い子どもに適切な環境と処置を用意する病児保育施設は、「社会にとって必要なもの」という認識がまずは浸透することを願います。
まだまだ、夢は尽きない
トータルに病児をケアできるよう、いつか子どものための設備が整った総合施設をつくりたいと考えています。保育園、小児科クリニック、病児保育施設、軽度発達障害支援など、想定し得るすべてを集約した施設をつくることができたら、保護者や地域、なにより子どものためにいいだろうなと思います。
こうした施設はまだまだ少ないので夢の域を出ませんが、実現に向けて動けるようになったらいいですね。そのためにも病児保育室の赤字経営をなんとかしなくちゃいけないのですが、小児科とハグルームを回していくだけで手一杯なのが現状です。
お父さんとかおじいちゃん・おばあちゃんなど、普段お子さんがどんな治療を受けているのか知る機会のないご家族もいらっしゃいますから、実は平日来られない方のために、ここは月に1~2回、日曜日も開けているんです。予防接種や乳児健診を家族全員で来て頂くことは、保護者と私の相互理解や信頼関係を築くには良いことだと思います。
これからの小児医療は育児支援も含めて、病児と保護者の総合的なケアが求められると思います。
そろそろ還暦を迎えますが、やりたいことは尽きることがありません。
機会があったら月に1回はやりたいなあと思うのがゴルフ。でも休みが月に1回くらいだからほとんど行けない(笑)。
もうひとつの趣味がカメラで、こちらは夕方に時間がある時、デジタル一眼レフカメラを持って出かけます。被写体はいつも夕陽です。光の陰影や深みを表現したいので、雲間から射す西日、空の色合いなどの表現に気をつけて撮るようにしています。
余裕があれば箱根、西伊豆などに遠出もしますが、都内でも夕陽もいいのが撮れますね。この間は友人に望遠レンズを借りて、たくさん夕焼けの景色を撮って来ました。おかげでいい画が撮れましたよ。カメラはニコンのD200を使っていますが、デジカメに慣れちゃうと手放せませんね。使いやすいし、それに修正できるから(笑)。
広告代理店のコピーライターを経て、現在フリーライターとしてロンドン・北京・東京の三都市を基点に活動。被虐待児童におけるトラウマティック・ストレス学、および漢方による精神疾患アプローチに関する研究をライフワークにしている。
いなみ小児科
医院ホームページ:http://www.inami-shounika.jp/
小児科を専門的に行うクリニックです。病児保育室であるハグルーム(対象:3歳未満)も併設しています。
田園都市線・東急世田谷線「三軒茶屋」駅、東急東横線「学芸大学」駅からそれぞれ徒歩20分の距離にある下馬に位置。
診療科目
小児科一般:アレルギー疾患(アトピー、ぜんそくなど)の管理・治療、乳児健診、育児相談、予防接種、内科、皮膚科
専門外来:育児相談、乳児健診、予防接種、アレルギー疾患など
※対象:すべての小児科疾患、ご家族(大人)の内科・皮膚科疾患など
稲見誠院長略歴

1975年 日本大学医学部卒業/駿河台日大病院小児科入局13年間の間に北里大学腎センター、東京女子医科大学腎臓病総合医療センターなどを経て、静岡県立こども病院腎内科医長、大森赤十字病院小児科副部長を歴任
1988年 東京・世田谷に「いなみ小児科」開院
2003年 いなみ小児科に併設する形で病児保育施設「ハグルーム」を開設
現在、いなみ小児科院長、大森赤十字病院嘱託医(アレルギー・腎外来担当)
■所属学会
日本小児科学会・日本小児科医会・全国病児保育協議会(副会長)・日本医療保育学会(事務局長)など
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