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[クリニックインタビュー] 2010/02/05[金]

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大学病院が医療の最先端とは限りません。患者のこと、地域のことを第一に考えながら、独自の工夫で医療の最前線に取り組んでいる開業医もたくさんいます。そんなお医者さん達の、診療現場、開業秘話、人生観、休日の過ごし方、夢などを、教えてもらいました。

第53回
黒坂内科
黒坂一秀先生

父への“漠然とした憧れ”は、“はっきりとした目標”に

kurosaka_clinic01.jpg 僕の父は医者でした。でも僕は、父から「医者になってこの診療所を継ぎなさい」と言われたことは一度もなく「自分の好きな仕事を見つけなさい」、そう言われ続けてきました。でも、学生時代、本当にやりたいことなんてそうそう見つかりませんよね。
 幼い頃は、医者になりたいと思ったこともあります。でも、本当に医者の仕事に憧れていたのかは微妙です。周りから「君のお父さんって、すごいね」とよく言われたので、なんとなく「お医者さんは偉い人」と思い、そこに憧れていたように思います。もちろん医者だからって、偉いわけではありません。結局、自分のやりたいことも見つからないまま、大学受験までは漠然と「文系か理系なら、理系かな」と思っていました。
 医者になろうと本気で思ったのは、受験を前に再び父の姿を見て、自分にはやはり医者が向いているんだろうな、と思ったからです。あと僕はネクタイが苦手なので、ネクタイをしなくていい職業であることも少し基準に入っていました(笑)。どうも、あの首を絞められる感じが嫌なんです。仕事や冠婚葬祭でネクタイをしなければならないときは、いまだに辛いですね。僕は生まれたとき、首に臍の緒が二重に巻かれていたらしいんですが、それがトラウマになったんじゃないかと家族から言われています(笑)。
 僕は慈恵医科大学で学びました。医学部では、学生は内科や外科をはじめ、全科目を勉強しなくてはなりません。そのうち、だんだん自分の向き・不向きがわかってくるものですが、僕にとっては内科が最初から一番面白い科でした。また研修期間に、根本先生に出会ったことも、内科に進むきっかけとなりました。
 根本先生はもともと血液学がご専門なのですが、内視鏡をはじめ、あらゆる分野に造詣の深い方でした。料理好きが高じて、調理師免許をとってしまったくらい、何にでもお詳しいんです。物腰が柔らかで、患者さんに優しく、亡くなった患者さんのお弔いに遠方まで出かけられたこともあります。教え方も素晴らしいので、生徒に大変慕われていました。先生に教わった生徒の半分は血液学に進んだほどです。僕にも「実際にやってみなければ、興味があるかどうかわからない。見てるだけでなく、やってごらん」と内視鏡をやらせて下さいました。そのとき、僕は内視鏡の面白さに目覚めたんです。
 今、僕は内視鏡治療も行う内科医として仕事をしていますが、父と同業者になって、はじめて父の本当の姿――父の考え方、できること、できないことがわかったような気がします。漠然とした「偉い人」への憧れではなく、医者として、父に対する尊敬の念を新たにしています。

治療に“絶対の正解”などはない

 治療の際心がけているのは、“独りよがりにならない”ことです。患者さんは辛い思いをしながら来て下さるので、できるだけ同じ目線に立つようにしています。説明に専門用語が入ってしまうと、患者さんの頭上に“はてなマーク”が浮かんでしまいますので、そうならないよう丁寧に、わかりやすく「こういう理由だから、こうした方がいいと思いますよ」とご説明します。でも、こちらが提示した選択肢を採用するかどうかは、最終的に患者さんご自身ですので、その思いも尊重しなければと思います。
 例えば、こんな方がいました。80歳の男性で、診察したところ胃癌が見つかったのですが、早期ではなくある程度進行していました。現在は治療法を選択する意思を尊重するため、告知するのが一般的です。僕もその方に告知し、病状から「手術すれば癌を摘出できますし、体力的にも不可能ではないと思いますが、どうされますか」とお尋ねしました。もちろん80歳で手術をするにはリスクを伴いますが、その方はとてもお元気だったので、僕としては手術した方が良いと思ったんです。
 しかしその方は「もう手術はしたくないんだ」と言いました。「昔、生死をさまよう大きな手術をしたことがあり、それからは必死で頑張ってきた。今では息子たちも立派に育ったし、もうお腹を切ってまで治療したくない。投薬でできるかぎり対応してほしい。もしダメだったとしても、それで本望だ」と。そういう考え方もあるんです。
 結局その方は、僕が週に一度勤務する医療センターに入院し、なるべく負担の少ない抗癌剤で治療することになりました。僕も何度かお見舞いし、しばらくはお元気だったのですが、最後にお見舞いした1週間後に亡くなりました。亡くなるまでの間は、お家に戻ってご家族と過ごしたり、旅行にも行かれたようです。ご家族の方も納得されて「以前から良くして下さり、最期までほとんど苦しむことなく過ごせたので、感謝しています」と言って下さいました。
 しかしもちろん、患者さんの本当の思いはわからない。そう思いたいという人間のエゴも、あるかもしれません。でも人はいずれ亡くなり、そのときご家族は「手術していれば良かったんじゃないか」「もっと何かしてあげていれば」と悩みます。それでは先に進めないので、ご家族に納得して頂けると、本当に安心します。
 このように、例え癌が見つかったからといって、手術をするのが“絶対の正解”ではないのです。医者が示すデータは「この状況だと、この確率で、このようになります」という統計学的なものですから、例外もあります。例えばコレステロール値が慢性的に高い方でも、脳梗塞や心筋梗塞にならずに過ごされる方はたくさんいらっしゃるのです。大事なのは、患者さんに選択肢を出し、その良い点と悪い点を理解して頂くこと。そのうえで、患者さん自身に選択して頂くことなんです。
 ただ、患者さんに選択をすべて委ねてしまうと、今度は判断がつかなくなってしまいます。だから「僕ならこれをおすすめします」と意見を言い、参考にしてもらいます。そのとき僕が「これをしなければだめです」と、独りよがりに選択肢を押し付けることは決してしないよう、気をつけています。

病院間の連携は、大きな強み


他の大病院、診療所との連携はしっかり整っている。
「いつでも頼れる、地域のお医者さん」だ。

 医者の腕は“情報の引き出しがどれだけあるか”にかかっていると思います。僕ももちろん“引き出しの多い医者”を目指していますが、それでも悩むことがあります。例えばどこまでが通院でカバーできて、どこからが入院すべきか見極めなければいけないとき、クリニックだと相談できる相手がなかなかいません。大きい病院なら、緊急で血液検査をすれば入院すべきか否かの判断はすばやく下せます。しかし設備がなければ、患者さんの状態を見て判断せざるを得ません。
 幸いにも、僕の場合は周りに信頼できる、そして同じ年代の医者がたくさんいます。心電図の判断に困ったとき「ごめん、ちょっとこれ見てくれる?」と相談したり、逆に相談されたり。互いに患者さんを紹介したり、されたりもします。これを病診連携(病院と診療所の連携)または診々連携(診療所と診療所の連携)と言います。僕はまったく知らない先生ではなく、よく知っていて信頼できる先生と連携できているので、非常に助かっています。診々連携のほか、国際医療センターと病診連携もしていますので、さらに心強いですね。
 アメリカではこのような連携をとっている医者が多いんです。開業医は、週に数日は大きな病院で勤務し、もし自分の医院で設備が間に合わない場合、そこに患者さんを連れて行きます。また医科大学の教授でも、自分のクリニックを運営していたりします。“近くでやれる治療は近くで、高度な設備が必要な治療は大病院でやる”という連携が発達しているんです。
 当院では、腸にポリープが見つかって切除が必要な場合、手術が可能な病院をご紹介しています。でも、もしちょっとした手術も当院でカバーできるようになれば、患者さんの移動の負担を減らすことができます。今後は他の病院・診療所との連携を継続しながら、もう少し当院でやれることの幅を広げたいと思っています。

「医者の不養生」を未然に防いでくれるのは…

 一般的に、医者はあまり自分のことを省みないものです。僕も同様で、今、特に健康のためにしていることはありません。患者さんには「摂生してください」と言うけれど、「先生はどうなんですか」って聞かれると「うーん…」って、返す言葉がありません(笑)。だから説得力がないんです。
 医者がなぜ摂生できないかというと、やはり拘束される時間が長いことが大きいと思います。もちろん、それはどんな職種でも同じです。夜遅くまで働いている人は働いているし、ストレスもあると思います。だから言い訳にはならないんですが…。
 よく「時間は作るものだ」と本に書かれていますし、その通りだとは思うのですが、なかなか思うようにはいきません。2ヵ月に1度くらい、妻や連携先の医者仲間とゴルフに行きますが、運動というよりは大人の“芝生遊び”です(笑)。こんなに休みがないなかで、妻には医院の事務処理や受付など、あらゆることを切り盛りしてもらっています。

取材・文/瀬尾ゆかり(せお ゆかり)
フリーライター・編集者。編集プロダクション勤務を経て独立。医学雑誌や書籍、サイトの編集・記事執筆を多数手掛ける。ほかに著名人・文化人へのインタビューや、映画・音楽・歴史に関する記事執筆など、ライターとして幅広く活動している。

黒坂内科

医院ホームページ:http://kurosaka-naika.jp/index.htm
kurosaka_clinic_b01.jpg kurosaka_clinic_b02.jpg kurosaka_clinic_b03.jpg
どこか懐かしく、優しい雰囲気の待合室。
受付との距離が近く、和やかな空気で待ち時間もリラックス。
京王線桜上水駅から徒歩8分。詳しい道案内は医院ホームページから。

診療科目

内科・胃腸科・消化器科・整形外科・皮膚科

黒坂一秀(くろさか・かずひで)院長略歴
黒坂一秀院長
東京慈恵医大医学部卒業
慈恵医大付属病院内科・国立国際医療センター消化器科
黒坂医院
現在も国立国際医療センター消化器科兼任


■資格・所属学会他
日本内科学会認定医、日本消化器病学会会員、日本肝臓病学会会員、日本消化器内視鏡学会会員



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